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第40話:プロセスとプラクティス(2012/02/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロセスと再現性

エンジニアはプロセスにこだわる傾向があります。プロセスとは原因(入力)と結果(出力)の連鎖です。目標が決まれば、目標までの道のりは原因と結果の連鎖で表すことができるという立場をとっているわけです。言い換えると、再現性があるということでもあり、エンジニアリングにとっては再現性があることが極めて重要なことなのです。

(プロジェクト)マネジメントも例外ではありません。PMBOK(R)には40を超えるプロセスが定義されており、それらの連鎖でマネジメント活動が表現(定義)されています。PMBOK(R)の原型ができたのは1987年でもう20年以上前ですが、当時と比べるとプロセスの数は増えています。つまり、20年の間にいろいろなことが経験則として分かり、再現性がだんだん増してきているわけです。

ただ、マネジメントによる結果の再現性というのは難しいものがあります。たとえば、WBSを考えてみてください。非常にシンプルかつ強力な手法ですが、WBSを作ることによってスコープが明確になるということ一つとってみても、再現は難しいものがあり、当初はPMBOKのプロセスに含まれていなかったわけです。


◆試行錯誤を伴うマネジメント

マネジメントで特にプロセス化が難しいのは、試行錯誤を伴うマネジメントです。試行錯誤には2種類あります。ゴールは決まっているものの、ゴールにたどり着く方法が皆目見当もつなかいようなケースです。たとえば、ある技術を適用しようとしているが、効果もあいまいといったケースです。もっとも、プロジェクトには多かれ少なかれ、ゴール達成の方法の中に不確実性がありますので、これは、通常のプロジェクトの延長線上にあるとみることもできます。

もっとも難しいのは、ゴールそのものが試行錯誤を伴う場合です。そのプロジェクトをやる理由になっているビジョンはあります。たとえば、組織を顧客志向に変えるというビジョンがあったとします。では、そのために何をすればよいのかはやってみないと実効性は分かりません。そのビジョンに向けて、ある受託プロジェクトでは顧客コミュニケーションを活性化するというゴールを掲げました。このゴールが顧客志向組織への変革にどれだけ寄与するかはっきりしません。もし、このゴールで取り組んでみて、効果がなさそうであれば途中でゴールを変える必要があります。


◆展開を決める

このようなケースでは、マネジメントをPMBOK(R)のような詳細なプロセスを定義して実行していくことはほぼ不可能です。そこで考えられるのは、まず、ゴールを追いかけるための展開(大きな流れ)を決めることです。たとえば、アジャイルプロジェクトマネジメントであれば、

構想→思索→探索→適応→終結

といった展開があります。ゲーム(ストーミング)であれば、

想像→構築→開幕→探索→閉幕

といった展開を設定することがあります。ここでは、構想とか思索といった要素をフェーズと呼びます。各フェーズにはフェーズとして目標が設定され、フェーズの目標を設定するために試行錯誤的なマネジメント(アジャイルの場合プラクティス、ゲームストーミングの場合、ゲーム)を行います。ここで試行錯誤といっているのは、そのようなマネジメント活動によって思ったような効果が得られるかどうかわからないという意味です。

あるいは、もう少し細かいレベルまで展開を決めておくこともできます。たとえば、PMstyleでアジャイルプロジェクトマネジメントの応用として提供しているクリエイティブプロジェクトマネジメントでは、

構想:ビジョンを掲げ、プロジェクトを立ち上げる
思索:変革をフレーミングする
探索:社内外の人々を巻き込む/チームを動かし、問題を解決する
適応:イシューの管理/行き詰ったプロジェクトを立て直す
終結:ビジョンを実現するための人創り

という展開(目標)までを決めています。そして、これらの目標に対して、プラクティスを適用し、実行をしていくわけです


◆プラクティスは共通

いずれにしても、マネジメントは管理に近いようなものであればある程度プロセスが構築可能ですが、イノベーションのように不確実性の大きい場合にはプロセス化は不可能で、その場合、プラクティスやゲームが重要な役割を果たすわけです。

そこで問われるのが、プラクティスです。プラクティスとはその単語の示す通り、経験的なもので、共有されるものです。プラクティスのレベルで考えると、APMのプラクティスであろうと、ゲームストーミングのゲームであろうと、PMBOK(R)のツールと技法であろうと、特に区別されるものでありません。その局面の目的・目標が達成できるなら、アジャイルプロジェクトマネジメントにPMBOK(R)のツールと技法を用いても一向に構いません。

もちろん、マネジメント手法によって効果のありそうなプラクティスが体系化されていますので、まったく異なる手法からプラクティスだけ持ってきても効果的ではないかもしれませんが、プラクティスは使い方次第ですので、使いやすいものがあれば、どんどん、使うとよいと思います。特に、試行錯誤の中では使うプラクティスも試行錯誤ですので、新しいプラクティスを別の分野に探すということも視野に入れるとよいでしょう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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