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第142話:ティール組織を実現するコンセプチュアルスキル(2018/12/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに

今年のマネジメントの一番の話題はやはり、「ティール組織」であろう。今年1月に英治出版より

フレデリック・ラルー(嘉村賢州解説、鈴木立哉訳)
ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」、英治出版(2018)

が翻訳出版され、ほぼ1年経った今でも雑誌記事などでティール組織をテーマにした記事をよく見かけるし、関連書籍もぼちぼち登場してきた。

そこで今年最後の記事は、ティール組織について書くことにした。

まず、ティール組織とはどういう概念なのかを簡単に触れておく。いまだに尋ねられることがあるのは、そもそもティールとはどういう意味の単語なのかということだ。ティールとは「青緑色」の意味である。


◆ティール組織以前の組織

ラルーは人類の歴史における組織の進化を色で例えており、色で組織の特徴を表現しており、その一つがティール(青みかがった緑)である。ラルーの考えた組織の変化は以下のようなものである。

(1)衝動型(レッド)
組織の最初の形態。数百人から数万人の規模へと拡大し、特定の個人の力や恐怖などによる支配・運営が行われる。この組織の思考パターンは自分が全ての自己中心的思考であり、短期的思考の傾向が強い。

(2)順応型(アンバー)
衝動型組織に権力や役職、官僚制、制度、秩序、統制などの概念が組み込まれ、順応型組織となる。アンバー組織になると時間の流れによる因果関係を理解でき、長期的な展望や計画を立てることが可能になる。また、厳格な階層に基づくヒエラルキーが生まれ、それによる役割分担が行われるようになる。

(3)達成型(オレンジ)
順応型組織が社会的な成功を最終目標に掲げ、プロセスやプロジェクト、研究開発、マーケティング、製品管理などの概念を組み込むことによって達成型組織に変わっていく。オレンジ組織では、ヒエラルキーによる「命令と統制」から技術革新による「予測と統制」へ変化していく。

(4)多元型(グリーン)
達成型組織のような実力主義に基づくピラミッド型の階層構造に、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン、ステークホルダーマネジメントなどの概念を加えたものが多元型組織である。グリーン組織は、多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織であり、ヒエラルキーはあっても、ボトムアップの意思決定や多数のステークホルダーによって、個人のあり方も尊重されるような組織運営を目指す。

以上のような組織の変化を経て、生まれてきた組織がティール組織であるが、ここまでで注目しておきたいのは、(3)のオレンジ組織である。達成型の組織は産業革命をきっかけに生まれた

「企業全体の目標を部門・社員単位に細かく分解して任せ、それぞれの達成を積み上げることで目標を実現する」

という考え方に基づく組織であるが、考え方が現代にいたるまでマネジメントの基本とされているし、ほとんどの企業や組織はこの型に当てはまっている。


◆ティール組織とは

これに対して、ティール型組織は以下のような組織だ。

(5)進化型(ティール)
進化型組織は上司からの指揮命令系統自体が存在しないにもかかわらず、組織の目的実現のためにメンバー同士が信頼関係のもと組織運営を行う組織。このため、ティール組織では達成型の組織構造や慣例、文化の多くを撤廃し、「自主経営(セルフマネジメント)」、「全体性(ホールネス)」、「組織の存在目的」という3つのポイントを重視している。

ラルーは、オレンジ組織の経営者たちが組織を機械に例え、グリーン組織の経営者たちが組織を家族に例えたように、ティール組織の経営者たちは組織のことを生命体や生物に例えている。


◆ティール組織構築の3つの突破口

では、もう少しティール型組織の詳細についてみて行こう。ティール型組織の突破口になっているのは

(1)自主経営
(2)全体性
(3)存在目的

の3つのポイントである。これは、ラルーが調査した対象に共通してみられるティール組織への突破口(ブレークスルー)であり、それぞれ以下のようなものである。

自主経営は組織を取り巻く環境の変化に対して、意思決定に関する権限と責任を全メンバーに対して与え、個々のメンバーが第三者からの指示を仰ぐことなく、自ら目標設定や動機付けを行うことによって生まれる力を、組織運営に活用するという考え方である。

全体性とは、組織内の心理的安全性を高め、全てのメンバーが自分の個性や長所を全面に出して活動できる環境を整えることによって、集団的知性が生み出す力を最大化させるという考え方である。

組織が一体感を持って進むために実現すべき目的を設定するが、従来の組織のように目的や将来ビジョンを固定化してその方向に向かって突き進むのではなく、ティール組織では存在目的を固定せず、進化する存在目的として流動的に捉え、日々新たな目的を求めながら進化し続けていく。


◆突破口を実現する組織慣行

このような突破口に対して、本書では、経営トップや組織オーナーの満たさなければならない条件を明確にしている。以下のようなものだ。

・経営トップ
ティール型の世界観を理解し、精神的な発達を遂げる
・組織オーナー
ディール型の世界観を理解し、受け入れる

その上で、3つの突破口を実現するためのさまざまな事例を提示したり、提案したりしている。ポイントになるのは組織慣行で、ティール組織の構築は組織慣行の構築であると考えている。

3つの突破口に対する慣行は以下のようなものである。

(1)自主経営に関する慣行
・助言プロセス
・紛争解決プロセス
・同僚間の話し合いに基づく評価と給与決定プロセス
(2)全体性に関する慣行
・安全な空間をつくるための基本ルール
・オフィスまたは工場
・オンボーディングプロセス
・ミーティングで実践すべき慣行
(3)存在目的に関する慣行
・採用
・「誰も座らない椅子」ミーティング

ラルーはこれらの慣行を決める方法についても紹介しているので、興味がある人はラルーの書籍を読んでみてほしい。


◆組織慣行を定着させるためのコンセプチュアルスキル

では、これらの慣行を定着させ、3つの突破口を実現するためにどのような条件が必要なのだろうか。経営トップや組織オーナーについてはラルーが指摘しているが、組織メンバーにおいても不可欠なスキルがあると考えられる。それは、慣行によって変わってくるが、業務スキルであったり、ヒューマンスキルであったりする。その中で、どのような慣行を採るにも共通的に不可欠だと考えられるのがコンセプチュアルスキルである。

まず、自主経営として、組織を取り巻く環境の変化に対して、個々のメンバーが第三者からの指示を仰ぐことなく自ら目標設定や動機付けを行うことによって生まれる力を、組織運営に活用しようとすれば、上で紹介した経営トップや組織オーナーの理解と支援が不可欠であるのはいうまでもないが、組織のメンバーにも

・組織に必要な目標の設定

をするスキルが欠かせない。これはコンセプチュアルスキルであり、大局―分析軸、抽象ー具象軸、主観―客観軸の3つの軸を中心にしたコンセプチュアル思考が基本である。

次に、全体性として、全てのメンバーが集団的知性を生み出すためには

・メンバーが相互に理解し、統合できる

スキルが必要だ。これにもコンセプチュアルスキルが不可欠で、大局―分析軸、抽象―具象軸、直観―論理軸を中心にしたコンセプチュアル思考を実践すればよい。

最後の存在目的については、存在目的を固定せず、進化する存在目的として流動的に捉えるためには、目的の抽象度を変化させるとともに、

・目的と目標の行き来

ができなくてはならない。これも、コンセプチュアルスキルによって実現できる。大局―分析、抽象―具象、主観―客観、長期―短期の4つの軸を中心にしてコンセプチュアル思考をすればよい。

このように突破口となる慣行を実現し、ティール組織を実現するには、組織のメンバー一人一人のコンセプチュアルスキルが重要なポイントの一つとなるだろう。


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   4.コンセプチュアル思考の実際(講義)
   5.コンセプチュアル思考で変化に対応する
    (個人ワーク、グループディスカッション)
   6.コンセプチュアル思考で不確実性に対応する
    (個人ワーク、グループディスカッション)
   7.コンセプチュアル思考を応用した活動(まとめ)
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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