◆PMOのマネジメント機能とは
前回のコラムでは、プロジェクトマネジメントの組織成熟度を上げていくにはPMOというのは単にプロジェクトマネジメントの支援をするだけではだめだという指摘をした。今回はもう少し、この問題に踏み込んでみたい。
PMOというのも組織である。従って、マネジメントされなくては、望まれるパフォーマンスを出すことは難しい。PMOに組織のマネジメントとして求められることには、以下のようなものがある。最低限でも
(1)PMO活動の成果の定義と測定
(2)PMOの戦略と役割の見直し
(3)PMOの機能の評価と見直し
(4)PMOスタッフのローテーションと育成
の4つについてはマネジメントとして実施される必要がある。少しずつ説明していこう。
◆PMO活動の成果の定義と測定
PMOを設立する、あるいは、運営するに当たって最も頭を悩ますのがこの問題である。PMO関係のセミナーを開催すると必ずといってよいくらい出てくる質問でもある。
このような問題が出てくる背景には、(2)と関係があるが、PMOを設立する際に、戦略がなく、それゆえに、役割が熟考されていないケースが多いことがあげられる。
まずは、PMOへの長期的な期待(戦略)を明確に描き、その戦略に対して、どのような効果があるかを評価できるようにする必要がある。そのようにすれば、成果の定義もおのずから明確になってくる。
成果の定義の基本的な考え方は2つある。ひとつはあくまでもPMOは間接部門であり、直接部門、つまり、プロジェクトの成功の度合いによってPMOの評価に変えるというものである。もうひとつは、PMOも完結した活動組織であり、PMO活動そのものの成果を評価するという考え方である。どちらを選ぶかは戦略の問題でもある。
◆評価指標の例
前者の場合によく使われる指標は
・プロジェクトの成功率(QCDSの目標達成率)の改善
・プロジェクトのトラブルによる損失額の減少
である。また、もう少し、大きく見ると
・プロジェクトのROIの改善
といった指標で見ることもある。このような考え方はPMOの活動はあくまでも支援活動であり、必要な支援を適切に、タイムリーに提供することにより、プロジェクトの成功確率、あるいはROIが上がるという考え方に基づいている。
これに対して後者のような捉え方をする際によく使われる指標は
・標準ツールやテンプレートの利用プロジェクト数(率)
・プロジェクトマネジメントノウハウやテンプレートの登録件数
・成熟度アセスメント結果の向上
・プロジェクトマネジャーの数や認定制度があればシニアPMの割合の増加
・プロジェクトマネジメント教育の受講者数や、受講時間
・プロジェクトマネジャーの平均コンピテンシー
・計画レビューによる不適合計画率
・メンタリング活用者数
などがある。また、これらの指標よりは少し、上のレベルの指標として、プロジェクト監査を行い、
・監査結果における不適合指摘項目数
などを指標として評価することもある。
◆どちらが適切か
どちらがより適切な評価かという問題があるが、これは冒頭に述べたように、戦略の問題である。
しかし、どのような戦略が適切化というのはある程度、一般的な議論ができ、その組織のプロジェクトマネジメントの成熟度による。
成熟度が低い組織では、プロジェクトの成功は偶発的なものであったり、プロジェクトマネジャーの属人的な能力に依存する場合が多い。言い換えると、プロジェクトを開始する時点でほとんど成功するという予測はつかない。このような組織においては、まずは、後者のような評価をすべきだろう。前者のようにプロジェクトの結果を評価してみても、それがPMOの姿を的確に表現している評価だとは考えにくい。PMOの立上げの段階では、このような評価が望ましい。
逆にプロジェクトマネジメントが成熟してくれば、結果を問うべきである。PMOの仕事は、定義しにくいものがある。例えば、ステークホルダ間の調整を行い、プロジェクトマネジメントの円滑な運営を図るというような仕事は、機能としては定義しにくく、結局、PMOの総合的な活動だと考えることが自然である。すると、そのような活動によってステークホルダがどう変化したかということより、プロジェクトの成功に結びついたかという方が実態を適切に反映すると考えられるためである。
(2)以降については次回説明する。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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