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【PMOコラム70】PMOのサービスマネジメント(11)〜PMOのサービスデリバリーを行う人材をいかに育成するか(2008.09.01)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


前回まで3回にわたり、PMOサービスのデリバリーのイメージについて述べてきた。今回は残された大きな問題で、このような人材をどう育成するかという問題について考えてみたい。


◆サービス人材の育成方法

PMOに限らず、一般的なサービス人材の育成方法というのは2種類ある。

ひとつは、外部から従業員の行動を望ましい方向へ矯正することである。たとえば、タクシー会社で運転手は入社すると、1週間くらい指導員がついて、いろいろと指導するようにしている会社があるそうだ。たまたま、○○のタクシーで出くわしたことがあって、指導員に「タクシーの運転手さんは二種免許を持っていてプロでしょう。また、前職で別のタクシー会社におられた方も多いんじゃないですか?さらにどんなことを教えるんですか」と聞いてみた。帰ってきた答えは、○○には○○の考え方があり、社員になったからには合せてもらう必要があり、ルートの選び方、接客、安全運転などサービス全般について指導するとのことだった。なるほどと思った。接客はもちろんだが、車の走らせ方も確かにタクシー会社によって違う。タクシーの運転手さんは、まずは、矯正により、育成をされている。

もう一つは、サービス提供者が自ら内発的に望ましい行動がとれるように持っていくことである。タクシーの例でいえば、1週間のあとは、一人で走ることになるわけだが、このような内発的な行動改善をする人としない人ではずいぶん違うのだろうと思う。上に書いたできごとをきっかけに僕はできるだけ、○○タクシーに乗るようにしているが、同じ会社の中でもはやり、違う。接客というのはそんなに変わらないと思うのだが、たとえば、東京駅八重洲口のような混雑場所での降車の対応であったり、トランクの荷物の出し入れであったりは、ずいぶん、個人差があるように思える。自動車の運転そのものは能力差があると思うが、これらはおそらく習慣の問題であるので、自分自身がどれだけ心がけているかの問題だろう。


◆PMOサービス人材の育成の現状

さて、PMOサービス人材の話に戻るが、非常に遅れているように思う。外部からの矯正も、内発的な改善も行われていないのが現状の企業は多い。

ある企業のPMOマネジャーの方(旧知の知人)とこの話で激論になったことがある。基本的には各人がプロフェッショナルなので、専門知識の習得を含めて、内発的な改善を課しており、特に指導はしないということを言われた。では、実際にそのためにどのような支援をしているのかというと、それは支援をすべきことではないだろうと言われていた。

この方が言われているのが典型的な考え方だと思う。まず、プロジェクトマネジャーとPMOの違いが整理できていないのではないかと思われる。極論すれば、優秀なプロマネをPMOに引っ張り込めば、それでPMOの活動はよいものになると思っている節がある。PMOがプロジェクトマネジャーの派遣のみをしているケースを除いてこれは正しくない。

◆PMOサービス人材育成の事例

タクシーの話に例えれば、プロジェクトマネジメントというのは車の運転のようなものであるかもしれないが、PMOの活動は組織の風土や、経営戦略によって大きく変わってくる。外部的な矯正にしろ、内発的な改善の支援にしろ、何か、行う必要がある。

外部的な矯正の事例としては、PMOマネジャーが直接指導する以外にも

・メンタリング
・プロジェクトから顧客満足度フィードバック

といった方法を採っている組織がある。また、内発的改善では、

・PMO活動ガイドライン(マニュアル)
・PMO活動レポート&チェックリスト
・メンタリング

など、マニュアルや訓練によって「望ましい行動」を身につけさせるようにしているところが圧倒的に多い。ちなみに、上のPMOマネジャーはマニュアルは外部矯正ではないかと言っていたが、違う。内発的な改善である。PMOがマニュアルを外部矯正だと思っているようでは、プロジェクトマネジメントの普及などおぼつかないだろう。

もう一つは、状況を理解して「望ましい行動」を自らつくりだしていくようにするような方法がある。


◆PMOサービス人材育成ベストプラクティス

著者の知る事例の中でベストプラクティスだと思える事例を紹介しよう。

中堅のSI企業で、PMOマネジャーの下に10人ほどのPMOスタッフがおり、年間100近くのプロジェクトを見ている企業がある。特に、何をすべきだとか決まっていないし、PMOの活動はすべて「プロジェクト」として動いている。たとえば、プロジェクトマネジメント標準にあたらない項目を追加したければ、それをプロジェクトとして申請する。許可は例外を除き、PMOマネジャーが行う。PMOマネジャーはプログラムマネジメントを行っており、年間予算の範囲で申請を許可する。許可が出たら、SIプロジェクトと全く同じプロセス、ツールを使って、申請者がプロジェクトマネジャーになり、それを進めていく。例外はない。リカバリーのような緊急対応においても同じように行う。PMOに5年もいれば一端のプロジェクトマネジャーになる。PMO活動の計画を作るというのはSIのプロジェクトマネジメントに関するかなりの洞察を要するからだ。この取り組みは2001年から始めているが、今では、PMO出身のプロジェクトマネジャーは重宝がられている。

PMOに限らず、日本の組織はそのような価値観が強い企業が多いので、この方法が最も適しているのではないかと思われるし、プロジェクトマネジメントの組織学習にもつながっていく。その意味で、PMOサービスデリバリーのための人材育成の方法としてはお勧めである。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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