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第9回 PMOの設立(1)〜プロジェクトマネジメントの導入とPMOの設立(2006.05.15)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


前回は、PMOという組織は自己組織化を行うべき組織であり、成熟度レベルでいえば、「場当たり的レベル」で設立すべきであるという話をした。今回は視点を変えて、プロジェクトマネジメントの導入とのPMOの設立との関係を考えてみたい。

◆PMOの設立目的は2つ

この問題はそれまでの組織での品質管理やプロセスマネジメントの状況に依存するために、一概に論じるのは難しい。しかし、ここでは著者がこれまでに経験したコンサルティングの事例などを踏まえて、敢えて乱暴な議論をしてみたい。

乱暴に言えば、PMOの設立の目的は2つある。
一つは、プロジェクトマネジメントの導入であり、もう一つはプロジェクトマネジメントを改善することである。どこに線があるかというとはっきりしないが、区分は間違いなくある。前回述べた成熟度の議論でいえば、前者は組織として標準的なプロジェクトマネジメントのプロセスを作るところ(すなわち、標準化されたレベル)までであり、後者は計測化されたレベル以降である。この2つはPMOの性格が大きく変わる要因でもある。


◆PM導入のトップダウンアプローチとボトムアップアプローチ

ここで難しいのが、プロジェクトマネジメントの導入をどんな形で進めていくかである。つまり、トップダウンでPMO組織を作ってその組織を中心にして進めていく場合と、ボトムアップで、たとえば、改善サークルを作ってそこで標準を定めていくような進め方もある。これは一長一短であると同時に、最終的な狙いによってどちらがよいか決まってくるような性格がある。

PMO組織を作ると、展開が早くなる。少なくとも、計測化されたレベルまでの進展は早い。しかし、得てして当事者意識が希薄になり、決めた標準に対してやらされ感のようなものが生じる。その結果、次のコントロールされたレベル当たりからの進展が極端に遅くなることがある。平たく言えば、標準を決めたものの、形骸化し、表面上は組織の決め事としてそれを遵守するものの、実質的な意味でその標準が使われない。

標準は、主体的な形で使われない限り、改善されていかない。いろいろと要求はでるが、それは自分たちのやり方を変えないための要求であることが多い。そのような事態に陥ることが多い。

ボトムアップにやっていくと、展開が遅い。ただ、遅いだけれあればよいが、この種の活動で進展が遅い場合、活動の求心力を保つのが難しい。標準化、改善活動の求心力を保ったままで進めていく唯一の方法は、小さいスパンで成果を出し、それを評価しながら、モチベーションに変えていくという方法である。ボトムアップ活動ではこれができない。

どちらがよいかは事業の性質と組織文化の問題である。ここで特に大切な視点は、プロジェクトの経営的な位置づけである。

たとえば、SI企業ではSIプロジェクトは事業そのものであり、プロジェクトマネジメントは事業を創って行く上で何よりも大切なものである。従って、プロジェクトマネジメントの導入はトップダウンでやっていく必要があるし、現に多くのSI企業がそうしている。

これに対して、製造業の製品開発を考えてみると、プロジェクトは、事業を行うための一つの手段に過ぎない。従って、プロジェクトの重要性は戦略によって決まる。一つの例としてiPodという商品を考えてみればよく分かる。Appleという企業は伝統的にそうであるが、製品競争力で勝負するという戦略を取っている。すると、製品原価(プロジェクトコスト)やリードタイムをあまり気にするよりも、如何に価値の高い商品を作るかが問われる。従って、バリューエンジニアリングの導入はトップダウンでやるかもしれない。しかし、プロジェクトマネジメントの導入をトップダウンでやることは考えにくい。このような場合には、プロジェクトマネジメントの適用はボトムアップで行い、現場が納得するものにしていく方が得策だろう。


◆改善への取り組み体制

改善への取り組みは、今度はちょうど、逆の位置づけになる。改善には現場からのフィードバックが不可欠であり、それゆえに、ボトムアップ活動以外の活動でそれを進めていくのは難しい。

だからといって、では、ボトムアップに改善活動が進めていけるかというとそうでもない。改善のためにはモニタリングが必要である。標準的なプロセスでマネジメントを行うことと、モニタリングを行うことの間には一線がある。全社はいずれやらなくてはならないことのやり方を変えているだけであり、後者はプロジェクトマネジメントの立場からすれば本来やらなくてもよいことをやっているからだ。そこで、そのボトムアップ活動のプロモートをしていくのがトップダウンで設立されたPMOという形が図式になる。後者の場合には組織としてのコミットメントが必須であるが、その中で、当事者たちにボトムアップ活動として進めていくという非常に難しい舵取りがPMOに要求される。

ここでも、一つの方向性としてサークル活動があることは間違いないが、計測のための余計な手間に対して合意を作ることはそんなに容易ではないので、あまり現実的ではないだろう。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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