プロジェクトリーダーシップでもっとも重要なことはプロジェクトの目的と目標(ゴール)を明確にできることです。
◆がんばれるとき、無気力になるとき
まず、最初に興味深い事例を引用から始めたいと思います。神戸大学の金井教授の著書「働くみんなのモチベーション論」からの引用です。
金井壽宏「働くみんなのモティベーション論」、NTT出版(2006)
この中でモチベーションの持論の例として岡島英樹さんという方の例が取り上げられています。ネタ元はレポート見たいです。レポート課題に
(設問)自分が調子よくがんばれているときと、無気力になってしまっているとき、この両者を分けている要因は何だと思いますか。具体的な場面を念頭において考えてください。
という設問があって、岡島さんは以下のように答えられています。
【がんばれる】
□ゴールの姿がよく見える
□それを実行する前に思い描いていたストーリーどおりに進めらている
□想像できる結果が自分なりに満足いくものになりそうである
□周りの方々からそれなりに評価されていることが実感できる
【無気力になる】
■ゴールの姿が想像できず、自分でも何のためにそれを実行しているか分からないと考えてしまったとき
■実施していることが何の役にも立たないと考えてしまったとき
■周りの方々から自分がやっていることに対してまったく関心をもたれていないと感じたとき
このような場面を受けて、「両者を分けるもの」という設問に対して岡島さんは以下のような結論をされています。
・実行していることに対して、目標や方向性などが自分なりに理解できているかどうか
・実行していることが無駄ではなく、また、周りからも評価を受けているかどうか
前置きが、長くなりましたが、この事例を見ても、目標を与えることがリーダーシップにとって非常に大きなポイントになっていることは間違いありません。
◆目的と目標
さて、チームで共有したいものに、「目的」と「目標」の2つがあります。目的はチームがチームとして機能するために不可欠なものです。目的がなければ集団はただのグループに過ぎません。グループが目的を共有することによってチームになるといえます。
図1:目的と目標の関係
ここでよく問題になるのが、「成果物を得る」ことが目的になり得るかどうかです。例えば、「システムを開発する」、「商品を開発する」といったことが目的になり得るかどうか。チームにとって目的というのはあくまでも主観的なものです。つまり、チームがそれを目的だと考えれば目的だと言えますし、目的ではないと思えば目的とは言えません。
一方で、プロジェクトチームは、多くの場合、組織が何らかの意図を持って作ります。この意図は、基本的には組織としての「プロジェクトを実施する目的」になります。これは、組織の戦略目標の一端を担っていることが多いようです。
戦略実行型の組織として組織全体が機能していれば組織の目的とプロジェクトの目的は一致します。例えば、バランススコアカードのように戦略目標を現場のプロジェクト目標まで落とし込む仕組みができていれば基本的には一致ことになります。
問題は、その目的がチームとして最適な目的かどうかです。言い換えると、チームをやる気にさせる目的であるかどうかです。もし、目的に対してチームがやる気にならない限り、どのような目標を与えてもチームはやる気にならず、目的を果たすことも、目標を達成することもままならないでしょう。
◆組織の目的とチームの目的を調整する
このためには、チームリーダーは組織の目的と、チームの最適な目的を調整する必要があります。つまり、チームにとってやる気の源泉になり、なおかつ、組織にとって戦略目標に対する寄与が大きい目的というのが探し求める目的ということになります。これをメンバーや組織、あるいはチーム外部のステークホルダとの調整で作り出すのがプロジェクトリーダーシップの本質であるといってもよいでしょう。
プロジェクトリーダーはここをよく理解しておく必要があります。上で述べた岡島さんの話をもう一度、読み直してみてください。岡島さんが挙げた2つのポイントのうち、
・実行していることが無駄ではなく、また、周りからも評価を受けているかどうか
というのは非常に意味深い言葉です。これは、自身がそのプロジェクト(仕事)をすることに納得でき、なおかつ、組織やステークホルダも納得できるような目的設定ができていることを意味しています。
このようにチームが燃え、なおかつ、ステークホルダも納得できる目的としては
・競合に勝つ
・改革する
・最先端を行く
・顧客に最大の満足を与える
といったものがよく出てきます。
◆目的に整合する目標を設定する
そして、もう一つの
・実行していることに対して、目標や方向性などが自分なりに理解できているかどうか
が目標設定の重要性を示しています。目標は目的を具体化したものです。例えば
・競合に勝つ
という目的を設定したとすれば、
・競合より機能性の高い商品を開発する(スコープ目標)
・競合より早く商品を上市する(スケジュール目標)
・競合より安い価格で商品を提供する(コスト目標)
といった目標設定が考えられるでしょう。
ここで考えなくてはならないことは、できるだけ具体的な目標を設定することです。目標設定においてはSMARTという原則がよく使われます(図2)。SMARTの原則を適用すると、プロジェクトにおける目標設定は「プロジェクト計画」そのものになることが多いと思います。
図2:SMART
繰り返しになりますが、例えば、スコープ目標としてある機能を開発目標にしたとしましょう。そのときに、それがいくら業界で初のものであっても、如何に顧客が喜ぶものであっても必ずしもよい目標ということにはなりません。その目標が組織とプロジェクトの合致した目的の実現できると納得できるものであって初めてよい目標になるのです。もちろん、それにはSMARTであることが前提になることは言うまでもありません。
◆目的を見直す
もうひとつ、このような考え方で目的の設定をすると、目的は変わることもあります。例えば、競合に勝つという目的を設定してプロジェクトを進めていったときに、競合がコケタとしましょう。そのときには競合に勝つという目的はもはや、組織の戦略目標の実現手段としてあまり意味を持たなくなります。そのときには、もう一度、目的を議論し、設定しなおす必要があります。その上で、目標も再設定します。つまり、図3に示すようなサイクルをまわしていくことになります。
図3:目的と目標のマネジメント
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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