プロジェクトをコントロールする際に欠かすことができないのは、ステークホルダを動かすことである。今回はこの問題を考えてみる。
◆まずは、ステークホルダを「味方」だと考える
まず、最初に考えるべきことはこれだ。プロジェクトを「失敗させまい」とすると、ステークホルダ(厳密にいえば、プロジェクトチームメンバー以外のステークホルダ)は「敵」に見えてしまう。
しかし、プロジェクトチームのメンバーだけが頼りで、他のステークホルダはすべて敵だとすれば、如何にステークホルダマネジメントを巧みに行ってもそのプロジェクトは必ず失敗するだろう。プロジェクトの成功ポイントの一つにステークホルダマネジメントを上げる人は少なくないが、もっと正確には、可能な限り多くのステークホルダを味方につけることだといえる。
◆ステークホルダを味方につけるには
ステークホルダを味方にするにはどうすればよいのだろうか?
この問題は現実には結構難しい。人間的な側面が関係してくるためだ。実際に、そのプロジェクトが成功しようがすまいが、自分にはあまり関係のない状況で、彼がプロジェクトマネージャーをやっているのなら一肌脱ごうかといった関係は少なくない。いわゆる人間関係だ。
これはとても大切なことだと思うし、ある意味でこれから述べるようなビジネス的によい関係に比べるとはるかに強力だともいえる。しかし、ビジネスの中で考えるとこのような人間関係を作っていくのは、Win−Winの関係を継続的に作っていくしかないと思われる。つまり、これこそが、ステークホルダを味方にする唯一の方法であるといえる。
◆Win−Winの関係の基本
Win−Winの関係を作るには何が重要かというと、共通の利益を作りこんでいくことである。まさに、Win−Winの言葉通りなのだが、これは双方が満足するということである。痛み分けをすることではない。
痛み分けをするのは簡単だが、共通の利益を作り出すというのが意外と難しい。プロジェクトには当然、目的があるし、目標もある。ステークホルダとの共通の利益を作り出すことは目的ない。ただし、目的を達成するための目標として設定することはできる。
◆Win−Winの関係の例
実際にあった例をひとつモデル化して紹介しよう。SIプロジェクトで顧客からプロジェクトに対して仕様追加の依頼があった。対応すると納期の10%遅れ、予算の20%オーバーが予想される。
このようなときに、依頼された内容の是非についての議論を始めると、Win−Winの関係を作るのは難しくなることが多い。Win−Winの関係を作るというのは一種の問題解決であるので、そのような要求がでてきた背景(原因)を知ることから始まる。
仮に、顧客の要求が利便性のためだとしよう。すると、どこがどのように便利になるのかを聞き出していく。そして、顧客の真の要求がどこにあるのかを探っていくのだ。ずっと突っ込んでいくと、その機能自体はあればよいという程度のもので当初の仕様からもれていたのだが、実現できないとユーザがシステムを使おうとせず、それはまずいということになったようだ。
ここまで分かれば、ユーザが使えばよいことが分かる。そこで、顧客のプロジェクトで実施する予定のユーザ教育の強化と、カットオーバーの後のユーザサポートの強化を支援することにした。このための予算はプロジェクト予算の2%程度であり、プロジェクトの収益を維持したままで対応できた。
仮に、顧客の要求が必要かどうかという議論を始めると、答えは仕様変更をするか、しないかになる。仕様変更すれば、追加受注をとって予算オーバーは防げるとしても、カットオーバーは遅れる。追加発注をして、スケジュール遅れでは、顧客にとってはハッピーではない。もちろん、受注側も他のプロジェクトへの影響は避けられない。やらないとなると、顧客は途方にくれるだろし、後に良い関係は残らないと想像するのが普通だろう。
◆Win−Winの関係を作るステップ
このようにWin−Winの関係を作っていけばよいが、これは
ステップ1 相手の立場を理解する
ステップ2 対立の先にある共通の利益を見つける
ステップ3 相手の利益を引き出す質問をする
ステップ4 共通の利益を見極める
ステップ5 共通の利益に基づく問題解決策を提案する
というステップで実現できる。ぜひ、一度、上の例をこのステップに当てはめてみていただきたい。
◆エクスサイズ
さて、ここで、エクスサイズである。いま、あなたがプロジェクトの中で利害関係の対立で頭を痛めている問題に上のステップ1〜5を適用してみてほしい(できれば、提案まで!)
【エクスサイズ:Win−Winな提案を考える】
解決したい問題:
Win−Winな提案
ステップ1:
ステップ2:
ステップ3:
ステップ4:
ステップ5:
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・(演習5)期待と要求のロールプレイ
6.まとめ
・(演習6)カレンシーを再考する
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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