◆逆ピラミッドの実現はミドルから
前回は、逆ピラミッドの重要性について述べた。逆ピラミッドの議論は本質的にはトップマネジメントに対する議論であるので、ミドル・アップダウンで逆ピラミッドを実現していくのは容易ではない。
ミドルが上位から協力を引き出して、それをプロジェクトに提供していくような活動が必要である。この活動は一昔前の日本型組織では普通に行われてきたことだが、権限の明確化や、ミドルへの成果要求の激化などの理由によりできなくなってきている。
資生堂の前会長の池田守男さんのようなトップがいれば話は早いのだが、短期的には成果を上げることと相反するような施策を打ち出すには、かなりの覚悟が必要というところだろう。現場の重要性は語るトップは多くても、支援のための具体的な施策を打ち出しているところは決して多くない。
そこで、やはりミドルということになる。ミドルから見たときに、上位組織と部下は景色が違う。部下は権限で動かすことができるが、上位組織は動かすことができない。ただし、部下を権限で動かしても質の高い成果は期待できないことを考えると、基本的には上も下も権限を抜きにして動かす工夫が必要であるし、それがリーダーシップである。
◆部下を動かすのに権限はいらない。上位組織を動かしてみせればよい
僕の知り合いのミドルで、「部下を動かすのに権限はいらない。自分が上位組織を動かせれば、部下は勝手に動く」ということを言っている人が複数いる。もちろん、人によって表現は違うのだが、おおむねこのようにいっている人が両手では数えきれないくらいいるのだ。
また、現場リーダー(ジュニアマネジメント)やメンバーにミドルに求めるものを聞いていると、チームの統制より、上位組織への、あるいは顧客への影響の方が圧倒的に多い。つまり、ミドルから見たときに、部下を動かすためにもっとも効果的な方法は上位組織に対する影響力を持つことなのだ。ひいては、優秀なミドルマネジャーというのは上位組織を動かせるマネジャーであるといってもよいだろう。
では、影響力を与えるにはどうすればよいか?根回しという言葉があるが、いつの間にかずいぶん、ネガティブな言葉になってしまった。特に、若い人にはなにか、こそこそやっているようであまり良いイメージがないようだ。
しかし、上司を動かすために必要なのは、よい意味での根回しである。根回しによって上司を動かすことである。
◆良い根回しと悪い根回し
良い根回しと悪い根回しの違いはなんだろうか?
そもそも、根回しというやり方は日本独自のやり方ではない。どこの国、どこの会社に行っても、ある程度、このような活動はは行われている。10人の会議で10人すべて別の意見を持っていたら議論にもならない。したがって、普通の会議であればアジェンダの調整をする。会議参加者が納得するようにアジェンダの調整をするのはマネジャーの手腕の一つでもある。
ここに一つの問題がある。日本の根回しというのはアジェンダの調整を徹底的にやって、議論の準備ではなく、議決の準備までしてしまうことにある。これは悪い根回しだ。議論している限り、別の新しい意見が出てくることもあれば、一旦葬られた意見が復活してくることもある。支持した意見を変える人もいる。これらをすべて許容するので民主的なのだ。この可能性を排除するのは悪い根回しである。
したがって、上司を動かすというのは、上司に自分の意見を受け入れてもらい、議論に参加してもらうことであり、上司にさらに根回しをしてもらって上まで話を通してもらうことではない。このような根回しはよい根回しだといえる。
ここに気を配っておかないと、上司を動かしたつもりが、自分の意見とは似て非なる意見が通ってしまう危険性がある。
では、良い根回しはどのように行っていけばよいか?この際に有力な武器になるのが、カレンシーという概念である。これについては、また別途。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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