前回、プロジェティスタの活動の説明のためのケースを示した。
◆S氏の行動(ケース)
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このような状況において、Sさんは、商品コンセプトを変えることを提案した。コンセプト開発は、ずっと、「AV機器」として進められてきた。Sさんが提案したのはデジタルデータを持ち運ぶ装置だった。つまり、A社がこの商品で提供するのは、完結したAV機器ではなく、あくまでも、音楽用のデジタルデータを運ぶ端末であり、もっといえば、ハードディスクである。
移動中には、どうにか聴ける程度の性能があればよい。それをほかのAV機器の中に組み込むことによって、音楽を聴ければよいというものだった。
この当時はまだ無かったのだが、ハードとしてはiPodを想像してもらえばよい。
この提案は結局、プロジェクトXでは受け入れられることなく、プロジェクトXは、当初のコンセプト通りに開発フェーズに入っていった。
企画時の開発期間の無理がたたり、結局、開発スケジュールは遅れ、P社の商品が先行して出てしまった。これで、ICオーディオの基本性能と先行で有利に立とうとしていたA社のプロジェクトは終わった。一旦、プロジェクトは中断し、マーケティング部門で、この後の展開を協議することになった。方向性として
・現行で仕様進めて、プロモーションで勝負
・再設計を行い、より高性能の機器に仕様変更
というオプションが真っ先に上がったが、ここで、Sさんがコンセプト会議で行った提案が陽の目を浴びた。
・基本機能は現行の仕様で進めるが、音楽データ携帯端末の機能を付加する
というものだ。これが採用された。
すでに音楽基本機能の開発はほぼ終わっていたため、Sさんはソフトウェアリーダーという立場のままで、プロジェクトリーダーのNさんの下で実質的には、全プロジェクトを取り仕切るような立場になった。
この開発は、今までの開発と少し、勝手が違った。大きな点は2点ある。
ひとつは、音楽データの収納方法である。これまでは、CDという流通メディアでのイメージをそのまま、ICオーディオ上に記録し、再生できるようにするものだった。言ってしまえば、CDチェンジャーの電子版という趣だった。
しかし、音楽データの携帯端末だと考えると、明らかにこれだけでは不十分である。明示的に「検索」を意識する必要がある。では、どのような検索機能を設ければよいかは、A社はもちろん、業界にもノウハウはなく、手探りである。
もう、一つは、再生部のソフトの作りだ。これまでは、完結した装置として、決まったハードウェアの上でよい音で再生できればよかったが、今度は相手はさまざまである。いろいろなハードとの組み合わせでよい音を再生できなくてはならない。
このような状況において、Sさんは「コラボレーション」をキーワードに進めていくことをNさんに提案した。
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◆コラボレーションとは
今回のストーリーはここまでにしよう。ここで、コラボレーションという概念について、簡単に説明しておく。コラボレーションとは、
人々がチーム、社内、社外の人たちと協力して、計画して、問題解決をしながら、計画の実行していくこと
である。コラボレーションはよくコミュニケーションの発展的な活動だと言われるが、この定義から分かるように、コミュニケーションと比較するより、むしろ、(狭い意味の)プロジェクト活動と比較した方がわかりやすいかもしれない。
基本的には同じ活動であるが、根本的な違いは、プロジェクトはクローズな活動であるのに対して、コラボレーションはオープンな活動である。
クローズとオープンの意味はいろいろある。
◆プロジェクトとコラボレーションの違い
まず、物理的に違いがある。プロジェクトでは、プロジェクトチームとそれ以外という関係を作る。プロジェクトとは直接的に成果物の生成に貢献する人である。成果物がものであれば生産する人に他ならない。そして、チームに線を引き、それ以外はできるだけ「排除」することによって、効率よく生産をしようとする。排除した人は、敵に回すとまずいので、「ステークホルダマネジメント」ということで、良好な関係を維持する。
コラボレーションでは、直接、生産に関与しない人も、意志決定者として「巻き込もう」とする。ものすごく単純化してしまえば、プロジェクトで主要ステークホルダという人たちはすべて巻き込む。生産性の定義にもよるが、生産性は下がる。
二つ目はものを考える範囲(問題解決の範囲)の違い。プロジェクトでは、問題に対する解決策をスコープの中で考える。たとえば、市場や顧客からの要求をスコープの中で実現するにはどうするかを考える。どうしてもスコープの中で解決策が見いだせないものについては、その問題を迂回する。あるいは、問題によっては受容する。
コラボレーションでは、目的の中で解決策を考える。もちろん、目的を逸脱するような解決策は排除していくが、目的の範囲に入る場合には何とか実現しようとする。このために必要な人をどんどん巻き込んでいく。これが、一番目に述べたものにつながる。
三番目は能力(個人、チーム)に関する違い。プロジェクトは、能力は制約として考える。つまり、特定の個人が今、発揮できる以上のパフォーマンスを発揮することは考えない。チームとしても同じだ。これに対して、コラボレーションでは、能力は制約として考えずに、可能性(オポチュニティ)として考える。
主立った違いを3つ上げるとすれば、こんなところだと思う。
さて、もう一度、ケースに戻る。プロジェクトXが置かれている状況を考えると、S氏がこの後とるべき道はコラボレーションである。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
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