◆プロデュースで解決できる
昨日、「プロデュース能力」という本を書かれた佐々木直彦さんにお会いし、いろいろな話を伺った。この本は、日本能率協会マネジメントセンターから出版されているが、始まりはPHP研究所だったそうである。PHP研究所で走り出した企画が一旦頓挫した。そして、再び、クライアントからの問いかけに、「プロデュースで解決できる」というひらめきを覚えた佐々木さんが日本能率協会マネジメントセンターに企画を持ち込んだ。
そこで出会ったのが、なんとPHP研究所でプロデュース本の企画を担当した編集者だったというドラマティックなストーリーがある。そして、PHPから数えて10年かかり、やっと世の中にでてきたそうである。
プロデュースというのはかくも難しく、また、体系化に時間のかかるテーマだということを痛感した。
佐々木さんはコンサルタントだが、人材育成がメインの仕事のひとつである。お話をしていて、プロデュースにこだわる理由が「育成」にあるように感じた。
◆「見つける」から「育てる」へ
最近、多少様子がかわってきたが、日本ではリーダーは「探す」という風潮がある。非常に不思議なのだが、人材全般に探すという風潮があるわけではない。IT産業を除くと、現場で働く人は育てなくてはならないという意識はおそらくどこの国にも負けないくらい強いと思う。実際にそれを実行しているし、トヨタなどはその文化を海外に輸出し、受け入れられている。
にもかかわらず、リーダーは「発見する」という雰囲気が強い。これはプロジェクトでも同じだ。「今回のプロジェクトでは彼に○○パートのリーダーをやらせてみよう」という発想をする。「やらせてみる」という言葉の中に育成というニュアンスが込められているという人もいる。その人はたぶんそう思っているのだと思うが、一般にはこれは「選ぶ」というニュアンスの方が強い。
たぶん、世界観として、世の中には指導できる人とできない人がいて、指導者を選ぶという感覚なのだろうと思う。もっとうがった味方をすれば、リーダーを選ぶことが上位管理者のステータスであり、権限の源だと考えている節もある。
この考えは世界的にみれば主流ではない。今は、「リーダーは育てるものだ」という考えが主流になっている。リーダーを育成するという話はこの連載の中でもいずれ取り上げる話題であるが、今日、話題にしたのはちょっと目的が違う。
◆プロジェクトを定義する
リーダーを育てるのではなく見つけるという感覚に似ているのが、プロジェクトに対する感覚である。多くの人がよいプロジェクトは見つけるものだ、あるいは、「定義する」ものだと思うようになってきた。つまり、採算の取れないプロジェクトはいくらやっても採算が取れないので、筋のよい商品開発プロジェクトを見つけたい、お客さんと契約交渉をして儲かるSIプロジェクトを作りたいと思うようになってきたのだ。一昔前からするとこれは大変な進歩である。
実際にそんなプロジェクトがゴロゴロと転がっているであれば、それはひとつの見識であるが、世の中、そんなに甘くはない。多くのプロジェクトは「よいプロジェクトであるべきだ」という期待をかけられて、行き詰っている。どうしても利益がでない、どうしても納期に間に合わないなどの行き詰まりだ。
どうしてこのような問題が起こるのであろうか?よく指摘される上位組織にプロジェクトの選別眼がないというのは一つの理由かもしれない。しかし、仮に鋭い選別の眼を持ったマネジャーがいたとしても、その組織のバジェットを満たすだけのプロジェクトや商品が存在しなければ見つかりようがなく、この問題は解消されないことになる。
◆プロジェクトを「育てる」
そこで必要になってくるのが「プロジェクトを育てる」という視点である。リーダーと同じように発見ではなく、育成が求められているのだ。儲からないプロジェクトを儲かるプロジェクトに変える。納期に追われるプロジェクトをみんなが完成を待ってくれるプロジェクトに変える。
プロデュースというのは無から何かを作り出すようなイメージが強いが、そればかりではない。佐々木さんがいわれるように問題解決にプロデュースが必要なケースの方が現実的には多い。これこそ、プロジェクトを育てるということだ。
トム・ピーターズが「セクシープロジェクト」の中で、プロジェクトは小さく生んで大きく育てよと力説しているが、これだ。「プロジェクトを育てる」という視点を持ちたい。そして、それを現実のものにするためのプロデュース能力を獲得していきたい。仕事やプロジェクトのプロデュースこそ、ミドルの本分である。
では、プロデュース能力とはいかなる能力か、次回から解説しよう。
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好川哲人、MBA、技術士
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