◆成熟するって?
成熟するというのは一言でいえば、どういうことですか?
という質問を受けることがある。管理状態を言えば、全体最適、継続的改善などいくつかのキーワードがあるが、じゃあ、それで何が実現できるのか?というのが多くの人の知りたいところである。
この問題に対するプロジェクトマネジメントのコンサルタントとしての典型的な答えは、
プロジェクトマネジメントの成熟とプロジェクトの成果の間に明確な関係はない。プロジェクトの成果は経営の問題であり、成果がうまく計画されていれば、プロジェクトマネジメントの成熟によって、その成果を得る確率は高くなる。
というものだと思う。実際にプロジェクトがオペレーションであり、プロジェクトマネジメントがオペレーションマネジメントであることを考えると、これで正しい。
が、ほとんど、これでは納得してもらえないし、プロジェクトマネジメントを確立していこうという動機にもならないだろう。
◆ロバストはプロの論理
著者はプロジェクトマネジメントが成熟することのキーワードとして、「ロバスト」というキーワードが適していると考えている。ロバストとは、「頑強」であるという意味だ。成熟度レベルの議論で、最適化というのが出てくるが、実は最適化というのはそんなに難しいことではない。最適化より遙かに難しいのは、どんなに状況が変わっても、最低レベルを確保することである。
たとえば、何があってもQCDの目標をクリアするというのはたいへん、困難なことである。昔、少しお世話になったことがある福田収一先生(現在、Stanford
University, Consulting Professor)が近著の中で、最適化というのはアマチュアの論理で、ロバストはプロフェッショナルの論理であると指摘されている。この指摘は大変に奥深い指摘である。
品質の問題を考えてみよう。プロジェクトをロバストにするためには、品質がポイントになる。品質で最適化をするのは難しいことではない。こういうとかちんとくる人もいると思うが、バグや不具合をなくせばよいだけだ。組織に品質管理基準があればそれに沿って品質管理を行えばある種の最適になっている。
◆ロバストの実現には捨てることが必須
ロバストであるためには、これではダメだ。極論すれば如何に品質を落とすかが問題になってくる。もちろん、品質を落として顧客が不満に思ったのではどうしようもない。顧客を満足させならが、如何に品質を落とすか。
そして、これこそがプロの仕事である。書名を覚えていないのだが、プロ職人の紹介本で、研ぎ師のことを書いた記事で、プロの研ぎ師は刃物をやたらと切れる状態にしないというのを読んだ記憶がある。たとえば、包丁で、魚を切るとか肉を切るとかある程度用途は決まっていても、実際には切られるものの状態はまちまちであるので、ぎりぎりに仕上げると刃こぼれがあったりするらしい。かといって、甘くすると、切れない。この見極めがプロと素人の違いだという。まさに、ロバストであり、品質を落とすことの重要性を示す話だと思う。
これと同じ議論で、プロジェクトをロバストにするには、何かを捨てる必要がある。もちろん、意味もなく品質を下げるとか、スケジュールを遅らせるというのは単なる責任放棄である。捨ててもかまわないものを見つけ、それを捨てる。この見切りがプロの仕事である。
◆ロバストは組織全体で初めて実現できる
ここで考えて起きたいことは、これを現場でやるのは至難の業だということだ。たとえば、商品の仕様を経営レベルで細かく規定する。スケジュール的に無理がでてきたので、仕様ベースで取捨選択をする。これは本当にプロでないとできないし、現場で実績を積んでキャリアアップしていくようなキャリア制度の中ではそのようなプロは育たないだろう。
そこで、もう少し、上流で捨てる必要がある。目的とか、目標のレベルでやらなくてよいことを絞り込む。その上で、スコープに展開していく。そんな組織全体での取り組みが必要になる。
そのように考えると、プロジェクトをロバストにすることこそ、プロジェクトマネジメントの組織成熟度が向上したときのゴールにふさわしいと思う次第である。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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