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戦略経営を前提にすると、イノベーションは計画された活動であり、イノベーションマネジメントで何をすべきかを考える。同じことをやっていれば価値は半減する

第1話 戦略実行とイノベーション(2013.06.18)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆イノベーションとは何か

イノベーションという言葉を聞かない日はない。実は、こういう状況はこの15年くらいで2回はあったように思う。1990年代の終わりと、リーマンショックの前である。要するに、経済や企業の成長が停滞してきたり、社会に閉塞感が出てくるとイノベーションという言葉が登場するようだ。

今年度の事業方針にイノベーションという言葉が入っているという話を聞く一方で、先日ある人から、今年度から事業方針の中からイノベーションという言葉が消えたという話を聞いた。上のような経緯があるので、分からなくはない。

ここで一つ疑問がわく。そもそも、イノベーションは必要性に駆られて行う「特別な」活動なのだろうか?イノベーションマネジメントの連載を始めるに当たり、最初にこの議論をしておきたい。

イノベーションという言葉は「技術革新」と訳されることが多いが、この根源は経済白書にある。1958年の経済白書で、イノベーションを「技術革新」と訳して以来、そのような訳が定着してきた。今の日本の置かれている状況を考えると、これは世紀の誤訳といってもいいと思うが、高度成長期をこのイメージが支えてきたことも確かだ。

イノベーションと似て非なる言葉に、インベンションという言葉がある。日本語に訳せば、「発明」である。スティーブ・ジョブズがiPhoneのプレゼンで電話を「再発明」したといったものだから、最近ではリ・インベンションという概念を提唱している学者もいる。この話はややこしいので、連載中に機会があれば触れることにしここではこれ以上触れない。


◆イノベーションとインベンション

さて、インベンションは普遍性のある原理を見出す発明であり、企業の活動でいえば基礎研究活動で行われるものだ。これに対して、イノベーションは価値を見出すことであり、企業の活動でいえば開発で行われることが多い。

世紀の発明というと、電気、蒸気などのエネルギーが思い浮かぶ。たとえば、ワットの発明した蒸気機関、これはインベンションである。蒸気機関を使って、発電をする仕組みを作った。発電所だが、これはインベンションというよりイノベーションである。このように考えると、インベンションとイノベーションの間には、インベンションがあって、それを使ってイノベーションが起こるという関係があるように思える。つまり、基礎研究活動で要素技術のインベンションを行い、開発活動でその要素技術を使って製品を開発し、また、生産方法を開発し、市場に出すイノベーションがあるという活動になる。

IBMの元CEOのパルミサーノ氏は、イノベーションはインベンションとインサイト(洞察)が交わるところで起こると洒落たことを言っている。製品開発では、洞察は技術の可能性に関する洞察と、市場のニーズに対する洞察が行われ、イノベーションが起こるわけだ。


◆シュンペーターの「新結合」

もう少し、遡ると、企業が行う不断のイノベーションが経済を変動させるという理論を構築したヨーゼフ・シュンペーターは、1912年に刊行した「経済発展の理論」で、イノベーションを新結合と呼んでいた。そして、新結合は、経済活動において旧方式から飛躍して新方式を導入することであるとした。この本の中で、シュンペーターはイノベーションとして以下の5つの種類があることを示している。

・新しい財の生産
・新しい生産方式の導入
・新しい販売先の開拓
・新しい仕入先の獲得
・新しい組織の実現

つまり、バリューチェーンのすべてにおいてイノベーションは起こり、新しい価値を創出するといっているわけだ。

このような経緯があり、イノベーションとインベンションの関係を示すキーワードは、「組み合わせ」であると考えられるようになっている。つまり、発明された技術と技術を組み合わせて新しい価値(製品、生産方法、販売先、サプライチェーン、バリューチェーン)を生み出すことがイノベーションである。また、イノベーションで生まれた価値を組み合わせて、さらに新しい価値を生み出すイノベーションもある。


◆戦略経営とイノベーション

さて、イノベーションをこのように捉えたときに、一つ考えるべきことがある。それは、イノベーションは特殊な活動なのかという問題だ。この議論の鍵になるのが、「戦略」である。

戦略といってもいろいろあるわけだが、ビジネスの世界に戦略という概念が持ち込まれたのは第二次世界大戦後であり、アンゾフの成長マトリックスなどが初期の研究である。戦略の目的は企業の成長である。成長するためには、新しい財が必要であり、新しい財を持つにはインベンションか、イノベーションが必要である。

インベンションを行う基礎研究は成果を得るまでのタイムスパンや不確実性の関係で事業計画からは一線を画されており、戦略を実行する方法はひらすらイノベーションとなっている。

つまり、戦略経営を前提にして考えるなら、イノベーションは特別な活動ではなく、計画された活動であり、また、財(リソース)という点において既存のリソースから切り離して行われる活動ではなく、既存のリソースを前提にして行われるものである。

企業で話をすると、日常業務に忙しくて、イノベーションなんて考えている時間はないという話をよく耳にする。この言い分をこれまでに述べてきたことで言い換えると

戦略は絵にかいたモチであり、成長するつもりはない

ということを言っているに等しい。


◆同じことをやっていれば価値は半減する

もう一つ考えて置かなくてはならないことがある。それは、同じことを繰り返していれば、いかに品質や精度が上がろうと、何年かすれば価値は半減するということだ。非常に不思議なことにこの認識がある人は少ない。永久機関ができないのと同じで、永遠の価値などない。しかも、新しい価値がその価値を持続できる期間は極端に短くなっている。

たとえば、米国大統領に世界を変えたと言わせた世紀のイノベーションである「iPhone」ですら、5年しかたっていないのに大きくシェアを失っている。ところがこれに対して、商品価値は失われていないという人がいるので、驚く。理由を聞くと、質感やデザインはGalaxyの比ではないという答えが返ってくる。アプリケーションの質量もAndroidを依然として引き離しているというわけだ。

これは典型的な作り手の論理で、購買側の論理としてはデザインにしろ、質感にしろ、アプリケーションにしろ、飽きてきたら価値にはならない。価値に差異がなければ、安い方を買う。そもそも、この種の高額商品ではその価値は相対的なものではない。ここにも誤解がある。

飽きさせないためにはイノベーションしかない。戦略ノートにも書いたが、その意味でイノベーションは企業の目的に基づくものでは必ずしもない。最終的には結び付くのだが、とにかく新しいものを提供する、つまり、イノベーション自体を目的にしなくてはならない。これは技術革新のことを言っているのではなく、イノベーションのことを言っている。

◆この連載のスタンス


この連載は上の2つの問題意識を前提に、イノベーションマネジメントとは何をすべきかを考えるものである。本当はイノベーションマネジメントという言葉もどうかと思う。この前の入門編の連載では、タイトルをイノベーションを起こす「マネジメント」としたが、イノベーションをマネジメントすべきなのではなく、継続的にイノベーションが起こるようにマネジメントすべきなのだ。もちろん、イノベーションには定常業務とは異なるマネジメントが必要なのだが、それは単に、ポートフォリオ、プログラム、プロジェクトのセットで行うプロジェクトマネジメントをどのように適用していくかという議論である。

ということで、今度の連載は実践編ということで、戦略マネジメントとしてのイノベーションマネジメントについて考えていきたい。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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