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日本では、イノベーションは、よそ者、ばか者、若者に任せろという風潮があるが、前提の刷り込みがない人、女性や若者を活用することで、前提や制約を捨てることができる

第87回 大量生産とイノベーション(2015.12.09)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆なぜ、技術も美的センスもある日本人がiPhoneを作れなかったか

先日のダイヤモンド・オンラインにコンサルタントの佐藤智恵さんが、ハーバードビジネススクールのデビッド・モス教授にインタビューした記事が掲載されていた。

その中で、モス教授はイノベーションは「世界では、iPhoneのように技術と美的センスを組み合わせた製品は高く評価される。日本人には技術も美的センスもあるにも関わらず、活用できていないため、iPhoneが創れなかった」といった趣旨のことを言われていた。

今回のテーマはこの問題について考えてみたい。


◆大量生産を前提にしている

モス教授は、技術や美的センスを活用できていない原因を、すでに、第3次産業革命が到来しているにも関わらず、今も大量生産することを前提に物事を考える傾向があることにあるという。

そして、この問題を解消するためには、経営の問題として社員の能力を活かすことが必要で、若者と女性を今よりもさらに活用すべきだと述べている。

この指摘は重要な指摘である。この指摘を実現するためには、現場は何をすればよいのだろうか?


◆生産パラダイムを変える

確かに今は女性と若者が活用できていない。それは大量生産のパラダイムが変わっていないからだろう。

つまり、重要なことは大量生産を前提にものごとを考えていることだ。大量生産を前提に考えているため、技術的な展開も、美術センスを発揮することもその前提の中で何ができるかという発想になってしまう。ここを変える必要がある。

ここで注意しておく必要があるのは、iPhoneが大量生産していないかというとそんなことはないということだ。iPhone 6であれば1億台近くを初期ロットで生産している。ただ、大量生産することを前提にしていない。

まず、どのような商品を届けたいかを明確にし、その際、技術や美的センスに徹底的にこだわる。妥協しない。そのようにして商品を設計し、その上で生産方法を考える。

あまり、注目されていないが、アップルの、特に、iPhoneの生産は非常にイノベーティブである。これまでにはないやり方で大量生産を行った。その理由はもちろん、技術やデザインを先に決めて、それを大量生産しようとしたからだ。

これが大量生産を前提にしていないということだ。日本だけではなく、多くの企業はこれができていない。非常にイノベーティブな製品を作ると、大量生産ができないままで、終わっているのだ。


◆イノベーションに前提は要らない

この問題を解決するのはそんなに簡単なことではない。技術や美的センスを持っているのが、女性や若者であるとは限らないからだ。モス教授が言っているように、日本人は技術も美的センスも持っている。その人たちを如何に活かすかという議論が必要である。

そのためには、生産だけではなく、設計(デザイン)にまで立ち入って議論する必要がある。

イノベーションにおいては、前提は要らない。これがすべてだと思われる。

もちろん、最終的に製品化するとなると、さまざまな制約が出てくるが、その制約は一旦、外して考えることが有効なケースが多い。一旦、外して自由に考え、その上で制約をクリアする方法を考える。アップルがiPhoneで行ったことはまさにそういうことだ。


◆イノベーションはよそ者、ばか者、若者に

問題は前提や制約を捨てるということは非常に難しいということだ。頭では分かっていても、なかなかそういう発想で物事を考えるのはできない。そこで、注目されるのが、若者や女性だ。つまり、前提を刷り込まれていない人を活用するのがよい。

日本では、イノベーションは、よそ者、ばか者、若者に任せろという風潮がある。これはいずれもこれまでの前提の刷り込みがない人であり、女性や若者を活用することによってそのような状況を作れることが多いと思われる。


【参考資料】
「ハーバードの知性に学ぶ「日本論」」
技術と美的センスを兼ね備えた日本人がなぜiPhone を生み出せなかったのか

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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