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イノベーションでは、組織の壁を壊し、問題を大きくし、問題を解決する。問題を大きくするには「問い」が重要

第82回 イノベーションにおいて問いが重要な理由(2015.08.05)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆技術統合における事例

ずいぶん、古い本の話で恐縮だが、ハーバードビジネススクールのマルコ・イアンシティ教授が「技術統合―理論・経営・問題解決」(NTT出版、2000)の中で、技術統合の必要性を示す例として興味深い事例を挙げているので紹介しよう。

SGIのレゴ・システム(グラフィック・ワークステーション)の開発プロジェクトで発生したASICのバグ(予想外の処理遅れ)によりシステムのハングが起こるという問題の対処に関する事例だ。

最初の段階では、ASICの問題だということで、ハードウエア設計チームが独断で判断し、問題源のある特定領域での解決を図ろうとし、4週間の時間と20万ドルの費用をかけて、チップの再設計を行った。ところが再設計したチップがまた新たな問題を引き起こした。デスマーチだ。

それで問題はハードウエアのチームでは収まらなくなり、プロジェクト全体の問題になった。そこで、OSのソフトウエアチームの提案は「実行遅延(待ちサイクル挿入)し,タイミングを取る」というものだった。実際にOSを手直してみるとそれで問題は即刻解決した。ASICとOSの2つの領域の知識の組み合わせが問題を解決したのだ。


◆問題を大きくし、組織の壁を壊す

この事例は開発中の問題解決の話だが、イノベーションにおいても重要な示唆を含んでいる。この事例では、どこに問題があったのだろうか?発生した問題現象をASICの問題としてハードウエアのチームだけで解決しようとしたが、問題領域の取り方に問題があったことは結論からみれば明らかである。

だが、問題領域をOSまで含んだシステム全体として取ることは難しい。組織で仕事をしている限り、いやでも組織の壁ができる。この場合だと、ハードウエアチームとソフトウエアチームだ。ところが、この事例が語るように、この壁を乗り越えるとまったく違った問題解決方法が見つかることがある。

たとえば、スマートフォンに価格を変えないでフルセグのテレビチューナーをつけたいと考えたとしよう。そのためには、現行のものより30%のコストダウンが必要だ。これだとハードウエアのコストダウンの問題である。

ここでなぜ、フルセグテレビをつけたいかを考えてみる。すると、ライバルメーカーがフルセグをつけてきたからだという。ここで、問題が30%のコストダウンから、競合に対抗することに代わってきていることに注意してほしい。30%のコストダウンはその一つの方法に過ぎなくなったわけだ。


◆問題を大きくするには「問い」が重要

この問題を解決するためなら全く別の方法でも構わない。価格を上げても競争力があれば構わない。たとえば、テレビをフルセグにする代わりに、ハイレゾ対応にするといった答もありなのだ。

既存の技術の組み合わせで新しい価値が生まれるというのは、見方をかえれば、問題を大きくしていることに他ならない。そして、イノベーションにおいては、答えより、「問い」の方が重要だとよく言われるのは、問いによって問題を大きくすることができるからだ。たとえば、上の例で30%のコストダウンを一生懸命考えている人に、「どうすれば競合に勝てるのだろう」という問いを投げかかてみる。


◆技術統合とイノベーション

最後に技術統合そのものについて少し、コメントしておく。マルコ・イアンシティは開発組織全体を見渡し、効率的な技術開発・製品開発を行うためには、上流の技術開発と下流の製品開発との間を統合する技術統合チームの存在が必要であるとした。イノベーションには技術統合チームが不可欠であると考えられる。

今、技術統合がデザインイノベーションの文脈から再び注目されるようになってきた。デザインと技術の統合としての技術統合である。この問題については、別途、述べたい。


【参考資料】
技術統合―理論・経営・問題解決」(NTT出版、2000)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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