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第69回 イノベーションと好奇心(2015.01.21)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆イノベーションの推進力は野心と好奇心

イノベーションという言葉には価値創造という言葉をつけて考えるので分かったようでわからない言葉になっているが、もう少し簡単にいえば

ものごとを変える方法を「新しく」考えること

である。

このように考えたときにイノベーションにとってもっとも重要なことを一つ上げるとすれば、「好奇心」だと思う。日本のエンジニアが非常に優秀なのは好奇心が強い人が多いからである。ついでにいえば、これまでに付き合ったことのある米国のエンジニアでは好奇心より野心が強い人が多いように思う。

昨年、ノーベル賞を取った中村修二先生に対して日本人がもろ手を挙げて評価しないのは彼からは好奇心より、野心を感じるからだろう。彼の著作を読んでいると好奇心がないとは思わないが、同時にノーベル賞を受賞した2名の先生と比べると、研究の推進力の割合として野心の方が大きいと思う。

ただ、今回10年ぶりくらいにマスコミに大量露出したのを見て感じたのは、だいぶ、好奇心の割合がだいぶ増えてきたなということだった。

誤解のないように言っておくが、野心といっているのはイコール私利私欲ではないし、誰かに勝つことでもない。

たとえば、世界の人を貧困から解放したいというのも野心だし、戦争のない世界を作りたいというのも野心である。これらがイノベーションの推進力になっているケースは多い。


◆好奇心を持ち続けろという教え

僕自身は野心より、好奇心が重要だと思っているが、そのスタートは大学のときにある。

大学の卒業式で主任教授のはなむけの言葉は、騎馬民族になれというのと、死ぬまで好奇心を持ち続けろという2つだった。

好奇心については大学院の指導教官から「いい研究をしたければ好奇心を持て」と言われ続けていたので、そのあたりからそういう価値観が芽生えてきたのだと思う。

そんなこともあって、今は世の中やものごとへの好奇心がなくなったら仕事を辞めようと思っている次第だ。


◆好奇心は衰えない

『ファストカンパニー』誌の共同創刊者、ウィリアム・テイラーのHBRブログ記事「The Best Leaders Are Insatiable Learners」によると、「自己革新」で知られるジョン・ガードナーはマッキンゼーでスピーチをする機会を持ったときに、マッキンゼーの戦略家たちに

「野心といった小さなことではありません。野心はやがて衰えていきます。むしろ、そうあるべきでしょう。それでも人は死ぬまで活力を持って生きられるものです。好奇心を持ってください。だれもが面白い人間になろうとしますが、そうではなく好奇心を持つことが活力となるのです。『本当に大切なのは、知っていることについて後から学ぶ何かである』という格言の通りです」

と演説したそうだ。好奇心が重要なことは強く共感する。


◆元気があればイノベーションはできる

日本人が好きなイノベーションはおそらく好奇心に基づくイノベーションであり、野心に基づくイノベーションではない。プロジェクトXのイノベーションはほとんど好奇心に基づくものである。

つまり、イノベーションをどんどん起こしていきたければ好奇心を刺激し、好奇心を持ちづけるような教育や人材育成をすることが極めて重要である。

ビジネスマンの人材評の中でよく「元気」という言葉を使うが、これは身体が健康だという以上に、精神的に健康、つまり、好奇心を失っていないことを意味している。アントニオ猪木ではないが、精神的な「元気があればなんでもできる」ということだ。


◆好奇心とは

好奇心を持つ際に重要なことはガードナーのフレーズの最後にある『本当に大切なのは、知っていることについて後から学ぶ何かである』ということだ。まったく知らないものに対する好奇心を持っている人は多い。ところが知っていることについて好奇心を持つ人はそんなに多くない。

日本人はこれが得意だ。その例が改善である。改善というのは知っていることに対して常に好奇心を持ち続けることによって生まれる。もっと正確にいえば知っていることについて知らないことを探求していく、つまりなぜそうなっているのだろうと考えることによって、改善につながる気づきを得ている。これはまさに「よい研究をしたければ好奇心を持つことだ」という僕の指導教官の言葉に通じている。

イノベーションもまったく同じである。目の前のものだけではなく、世の中のシステムに対してなぜそうなっているのかという好奇心を持ち続けることによって、

・何をどのように変えるか
・どのような方法で変えるか

に気づくことができる。数年前からイノベーションを起こすきっかけとして行動観察が注目されているが、行動観察の効果は好奇心にかかっているといっても過言ではない。

ところが多くのビジネスマンは忙しさのあまり、好奇心を失いつつある。時間は有限であるが、好奇心は忙しくても持つことができる。むしろ、忙しさの中で好奇心を持つことは忙しさを緩和するのに役立つだろう。

リーダーはぜひ、好奇心を持とう。

【参考資料】
ジョン・W・ガードナー(矢野 陽一朗訳)「自己革新 [新訳]――成長しつづけるための考え方」、英治出版(2012)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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