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量的効率化ではなく、質的効率化を求めていけば、自然とイノベーションは実現される。日本は量の効率化を追いかけ、疲弊している。今必要なのは、量の効率化ではなく、質の効率化である

第57回 質的効率を追求する(2014.10.16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆量的効率化

効率というと一般的には量的な効率をイメージすると思う。高度成長期から、生産量とか、売上などをいかに効率よく大きくするかに注力をしてきた。そして、この追求の中で、品質の高いものを、大量に少しでも安く提供するという価値観が定着してきた。これが量的効率化である。

量の効率の追求においては多くの改善が行われたが、一方で、イノベーションと呼べるものはあまり生まれてこなかった。正確にいえば、生産方式や流通方式などにおいては多くのイノベーションが生まれたが、製品イノベーションはあまり見られなかった。

今の日本は量の効率化を追いかけ、疲弊している。今必要なのは、量の効率化ではなく、質の効率化である。


◆質的効率化

質的効率化とは、誰も(他者が)作っていないものを効率的に作ることである。ただ、ここでいう効率は量の効率とは方向性が違う。量の効率化がコストでの競争を目指すものであるのに対して、質の効率化は差別の大きさでの競争を目指している。

分かりやすい例をあげると、量の効率化を追求しているのがサムスンで、質の効率化を追求しているのがアップルである。

かつて、日本には匠の技と呼ばれるものがあった。ところが、高度成長期が終わり、どちらの方向に向かうかというところで、さらなる量の効率化を目指すようになったところで、非効率だという理由で廃れていった。


◆質的効率化を実現するアップル

これに対してジョブズがMacBook Airでやったことを考えてみてほしい。「ユニボディ」と呼ばれる技術で、本体のパーツをひとつのパーツで構成し、継ぎ目を設けない構成で、アルミ削り出しで実現している。これはなどは、匠の技以外の何物でもない。

そして、一見、同じようなデザイン、同じような操作性でも、他のPCやスマートフォンとは一線を画した製品に仕上がっている。このこだわりがアップル製品の他を圧倒する質感やクオリティを創り出していることは間違いないだろう。

ただ、アップルの本当にすごいところは、これを工業化してしまったことだ。アルミ削り出しでユニボティを実現することはできる。日本でもそんな商品は結構ある。しかし、それだけでは競争力にならない。低コストの大量生産製品と競合しないからだ。競争力にするには質的な効率化が必要であり、ジョブズは中国のEMS企業などをうまく活用してこれを見事にやってしまったわけだ。


◆デザイン思考の目指すところは質的効率化である

ただし、アップルの例は質的な効率化の特別な例かもしれない。少なくとも外野から見ている分にはジョブズという存在があって実現されたように見えるからだ。

もっと一般的にいえば、質的効率化を実現するのは真の意味でのデザイン思考である。真の意味だとわざわざ書いたのは、デザインにこだわることではないという意味だ。

ジョブズがデザインにこだわり、会社全体をそれにフォーカスした活動にしたように、デザイン思考のためには技術力だけではなく、いろいろなものが必要である。

たとえば、

・新しいことを重視する価値観
・差別化を重視する組織文化
・卓越したマネジメント
・バランスのよい財務体質

といったものは不可欠だろう。抽象的にいえば、よい会社であることが必要である。

そして、質的効率化を求めていけば、自然とイノベーションは実現される。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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