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破壊的イノベーションとは、パラダイムシフトの際に起こる既存の市場を壊滅させるイノベーションである。イノベーションのジレンマが起こる理由の一つは組織の価値観である

第33回 イノベーションをめぐるジレンマ(2014.04.23)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆破壊的イノベーション

イノベーションのジレンマ(正確にはイノベーターのジレンマ)は、ハーバードビジネススクールの教授であるクレイトン・クリステンセン先生が名付けた破壊的イノベーションの理論である。破壊的イノベーションはパラダイムシフトの際に起こる既存の市場を壊滅させるイノベーションである。

最近の例でいえば、フィルムの市場を破壊したデジタルカメラがそうである。破壊的イノベーションの特徴は、パラダイムシフトの特徴といってもよいが、あり得ないと思われることが起こることだ。

クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ 増補改訂版」、翔泳社(2001)

◆写真で起こったイノベーションのジレンマ

デジタルカメラが市場に出てきたときに、プロのカメラマンは、画像の粗さ、操作性の悪さなどから、プロのツールとしては使いものにならないと考えた。おまけにメリットである現場でとった写真をリアルタイムで本社に送る通信機能も速度が遅く、実用的なものではなかった。

ところが、デジタルカメラの改良が進むにつれて、画質もよくなり、取扱いも便利になったため、徐々にフィルムのカメラにとって代わるようになってきた。そして、ついにプロの市場も含めて、写真フィルムの市場を壊滅した。

フィルムのイノベーションはフィルムを発明し、市場を独占しつづけた世界的な優良企業であるコダック社の破たんを招いた。実は、デジタルカメラで常に一歩先を行っていたのはほかならぬコダックだった。プロ仕様のデジタルカメラを最初に出したのもコダックだったし、デジタルデータをプリントする装置を最初に開発したものコダックだった。個人が撮影した写真のビューアを最初に作ったのもコダックだった。

ところがコダックは、デジタルカメラをフィルムカメラの格下の商品と考え、他社がデジタルカメラの改良に注力しているときに、銀塩フィルムの画質の向上を図っていた。そして、気がついたときには銀塩フィルムの市場は風前の灯火だった。

このあたりのことを書いた小説があるので、興味がある人は読んでみてほしい。

楡 周平「象の墓場」、光文社(2013)

クリステンセン先生の研究はなぜ、こんなことが現実に起こってしまうかということを突き止め、その解決策を考えようというものだ。


◆イノベーションをめぐる意思決定

さて、この辺から本題に入る。今回の戦略ノートのタイトルを「イノベーションのジレンマ」としたのはクリステンセン先生の研究を紹介するためではない。

イノベーションのジレンマが起こる理由の一つは組織の価値観があるとされている。コダックの例でいえば、デジタルカメラより、フィルムのカメラの方が製品として格が上だと考えるのは根拠などはない。価値観の問題である。その価値観ができるのは、パラダイムシフトが起こった場合に、本来、比較しても仕方ないものを比較するからだ。カメラの場合には画質である。

写真の命は画質である。だから画質が悪いものはトップにいる自分たちが手掛けるカメラではないと考える。ところが、デジタル化の本質は画質でない。画質はいずれ追いつくことができる。本質はデジタル化により、利便性が向上し、用途が増えることだ。コダックはこのことに気づいていながら、それは自分たちのすべき事業ではないとし、立ち上げては方針変更で撤退し、やがて破綻していった。

では、なぜ、こんな意思決定をするのだろうか?問題はここである。


◆イノベーションをめぐるジレンマ

日本の企業でイノベーションのできない理由としてよく聞くのは、組織がやらせてくれない、失敗できないといった理由だ。

もっともらしい話ではあるが、ここにもジレンマがある。それは、社内のみんなが価値を認めてくれるようなものであれば、独自性などないというジレンマである。ある製品企画があったときに、決定権を持っている人は売れないと思えば開発を認めないだろう。日本は摺合わせの文化があるので、実質的な決定権者が4〜5人いる場合は珍しくない。4〜5人全員がこれはいいと思うような製品に独創性などないのが普通だ。

このジレンマが実はクリステンセン先生のイノベーションのジレンマの一因になっている。逆にいえば、みんなが反対しているものを、何とかして実現して行かなければイノベーションは興せない。これは成功するとか、失敗するとかいう以前の問題である。


◆権力とイノベーション>

この問題を解消するのはどうすればようのだろうか?答えは権力にある。

米国でイノベーションのジレンマが起こる原因も権力にある。トップの権力(基盤)が強すぎるのだ。権力を持つ経営トップが、株主へのコミットメントとして自社の価値観にこだわり、かつ、早く成果がでることにこだわるので、新しくて成果の小さい新しい事業はできない。

日本の場合は逆で、権力を使わないことで問題が起こっている。もし、本当に独創的なことをしようと思えば、権力をうまく使う必要がある。日本の企業においてイノベーションと権力の関係は興味深いので、機会を見て考えてみたい。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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