第27回 続・イノベーションのエンジン(2014.03.12)
◆真のチームの条件
前回はイノベーションのためには、効率を犠牲にしてでも多様性のあるチームの必要であることについて述べた。そして車でいえば多様性がエンジンでイノベーションの成果を上げるにはターボチャージャーをつけなくてはならない。
【イノベーション戦略ノート:026】イノベーションのエンジン
今回はこの点について説明する。
「真のチーム」という言葉がある。これはチームに関する世界一の識者だといってもよい、マッキンゼーのパートナーのジョン・カッツェンバックが提唱する概念である。ジョン・カッツェンバックは膨大な高業績を上げているチームを調査し、真のチームの条件として
(1)少人数である
(2)メンバーが互いに補完的なスキルを有する
(3)共通の目的の達成に責任を持つ
(4)問題解決のためのアプローチの方法を共有している
(5)メンバーに相互責任がある
の5つがあるとしている。前回の多様性の議論は、(2)に相当しているが、それ以外について説明していこう。
◆チームは少人数でなくてはならない
(1)の少人数であること。これはイノベーションの場合は極めて重要だといえる。イノベーションが公式の業務として行われるときには、組織を引きずって他人数になることが多く、チームに組織の力学が働き、動きがとれなくなるからだ。
前回も触れたが、イノベーションはどのような人材が必要になるか、進みながら決まってくる。その意味で、チームは学習能力の高いコアな人材だけで構成し、あとはネットワーキングでスキルセットを補っていく方が望ましい。
ところが、そのような発想の中で出てくるのが日本だと然るべき立場の人を入れておこうという発想なのだ。然るべき立場の人がいれば、別の人を巻き込みたいときに話が通しやすいからだ。こうなると組織の原理そのものであり、チームとしては機能しないだろう。
◆チームにおける責任のあり方
(3)と(5)は責任についてである。ここが一番、意識変革が必要なポイントだろう。
チームのメンバーが責任を持つべきなのは、自分の分担についてではない。チームの目的達成についてである。極論すればイノベーションではある人の分担がちゃんとできなくてもチームの目的が果たせることがある。ある人の分担が結果として不必要な成果しか生まないようなことがある。たとえば、試作である。
もちろん、失敗にも意味があるので、無駄だと言っているわけではない。チームで未知なことに取り組むというのはそういうことだといっているだけだ。この点に対して、間違っている考えは、自分の分担さえちゃんとやれば自分の役割を果たしたと考えることである。メンバーの誰かがこのように考えた瞬間にイノベーションのチームは破たんするだろう。
その延長線上にチームメンバーの相互責任がある。真のチームでは一人の失敗はチームの失敗になる。誰かが失敗したら、全員の失敗になるといってもよい。したがって、一人の失敗は全員でカバーしなくてはならない。そのためには自分の仕事だけではなく、チームメンバー全員の仕事を把握しておく必要がある。
そんなことは不可能だと思う人が多いかもしれない。しかし、チームとはそういうものだ。逆にいえば、チームの人数はその範囲にとどめておくべきだということに他ならない。
◆抽象度の高い計画としてのアプローチを共有する
最後に残った(4)はごく当たり前の話である。プロジェクトにしろ、業務にしろ、チームで問題解決を行う場合には、どのようにアプローチするかをメンバーが共有しておく必要がある。共有の方法は計画が一番よい。計画を全員で行うことによって、自然と共有がてきていく。
ただ、イノベーションの場合、この当たり前がなかなかできない。それは計画に抽象性が必要だからだ。作業が主体のプロジェクトでは段階的詳細化も含めて計画が極めて具体的なものである。しかし、イノベーションでは不確実要因が多く、具体的な計画が難しい。というより、計画はアプローチ(進め方)というレベルで行わなくてはならず、それを実行段階で解釈し、具体化していく必要がある。
真のチームはこのレベルの計画を共有しなくてはならない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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