第15回 変化を利用する(2013.08.09)
◆変化に対応する
コップに半分入った水をみて、まだ、半分も残っていると思う人もいれば、もう半分しか残っていないと思う人もいるように、変化の渦中においてチャンスだと思う人もいれば、ピンチだと思う人もいる。
経営者は盛んに時代に取り残されないようにしようといって社員にはっぱをかけるが、こういう企業ではイノベーションは生まれにくい。変化に対して、なんとか自分たちの顧客や市場ポジションを守ろうとするからだ。
最近の例でいえば、スマートフォンだ。NTTドコモはガラケイと呼ばれるフューチャーフォンをスマートフォンに置き換え、ガラケイと同じことができる環境を作ってしまった。フューチャーフォンの時代から、スマートフォンの時代に変わったという認識があり、それに対応しなくてはならないと思ったわけだ。そして、その方法として、新しい器に古い酒を入れて、出したわけだ。
iモードはフューチャーフォンでは非常に優れたシステムだと思うので、iモードで学んだことを使って、スマートフォンへの対応をしていけばiPhoneとの戦いも別の形になっていたかもしれない。
時代の変化に対応しようとするとどうしてもこういういまあるものをどのように適応させるかと考えるパターンが増えてくる。問題への対処に追われて、新しい要素を導入しながらも新しい価値を生み出していないわけだ。
もちろん、時代の変化への対応から始めて本質的な変化を起している例もある。たとえば、電子書籍だ。電子書籍はデジタルの時代の書籍流通のあり方として考えられたものであるが、そこに新しいデバイスの普及が重なり、本では考えられないような量の情報を持ち歩きできるとか、体系的に管理できるといった付加価値が加わっている。
◆レーザーのイノベーション
これに対して、変化を利用するという視点を持つとどうなるか。ひとつの例として、ウェザーニューズ社の取り組みを見てみよう。
最近、ゲリラ豪雨なるものの被害が増えている。これは天気予報では対応できない。気象庁のレーダーでは、高さがある程度高い積乱雲でないとレーダーに写らないし、事前に発生が予測できたとしても、雨が降り出すまでの時間が短く結果として予報が出せないといった理由があるからだ。
この問題を解決しようと、レーダーのイノベーションが行われている。たとえば、WITHレーダーというレーダーで、低いところの積乱雲を写せる小型レーダーが開発され、実用化している。しかし、積乱雲を捉えることはできても、予報を出すという問題は解決していない。もちろん、設置には膨大な費用が必要になる。
◆「ゲリラ雷雨防衛隊」
これに対して、民間の天気予報の大手であるウェザーニューズ社が、独自にゲリラ豪雨の発生を観測し、大雨が降り出す前にメールで知らせるという仕組みを作った。レーダーの進化によるものではなく、「ゲリラ雷雨防衛隊」というサポーター制度を作り、ゲリラ豪雨の可能性があるとその地域の隊員に雲の監視を依頼する。
そして、送って貰った情報(映像や文章による状況報告)をもとに予報をし、メールで配信するというシステムだ。この仕組みはゲリラ豪雨だけではなく、台風や大雪にも対応している。
この仕組みの原型ができたのは2008年であるが、ソーシャルネットワーキングが注目され始めた頃である。
しかも、その前年にはiPhoneが発売され、いよいよ、これまでテキストだけだった電話機を使ったコミュニケーションに画像、映像を使うことが容易になったという変化もある。
◆変化を利用する
この2つの変化に注目し、自分たちのサービスを高度化する方法を考えると、「ゲリラ雷雨防衛隊」のサービスは極めて自然なものであるにも関わらず、見事な破壊的イノベーションである。
よく技術について、新しい技術を使って何ができるかという議論はするが、時代の変化をみて何ができるかという議論はあまりしない。ところが、イノベーションではこちらの方がはるかに重要である。
たとえば、いま、アベノミクスの成長戦略で規制緩和が検討されているが、規制緩和というのは大きな変化になるので、規制緩和を利用して何をするかということは当然考えるだろう。そこにイノベーションのネタがある。たとえば、託児所の規制が緩和されれば今まで分断されていた幼児ビジネスが一挙につながり、これまでとは違ったビジネスが出てくる可能性がある。つまり、イノベーションが生まれる。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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