第12回 イノベーションと組織(2013.06.22)
◆イノベーションと組織の論点
最近、イノベーションへの組織的取り組みを話題にした記事をよく見かけるようになってきた。この議論はある意味でイノベーション戦略の本質である。イノベーションと組織に関する議論には
・イノベーションは個人によるものか、組織によるものか
・イノベーションを生み出す組織とはどのようなものか
・組織によるイノベーションはどのように行われるのか
・戦略とイノベーションの関係はどのようなものか
・イノベーションと組織プロセスはどのような関係があるか
などの論点がある。これらの論点を通して、イノベーションはどのような戦略を持って行われるのかを考えてみたい。
◆イノベーションを行うのは個人か、組織か
まず、イノベーションは個人によるものか、組織によるものかという議論は簡単なようで以外と難しい。組織に所属している限り、組織にとって非公式の個人の活動というのはない。その意味では、イノベーションはどのような形であろうと組織によるものだが、個人か組織かというのはもう少し狭い意味で、組織が個人に資金と本人以外の人を提供しているかどうかと意味だと考えるべきだろう。
このように考えると個人のケースが圧倒的に多い。これはある意味で当たり前の話で、上司が部下に仕事をさせる場合に、イノベーションは何をやってほしいかを明確にできない。会社によっては新しいことをやってくれとか、イノベーションに取り組んでくれといった指示をしている会社もあるようだが、まあ、これは何もしていないに等しい。指示ができない限り、リソースを割り当てることはできない。できるのは部下が指示をしていないことに目をつぶるくらいだ。
◆自由な時間の提供と経営目標を両立するマネジメント
これだとあまりにも野放しなので、もう少しスマートにやろうというのが3Mの“15%ルール”である。これは、執務時間の15%を自分の好きな研究に使ってもよいとするルールだ。3Mだけではなく、googleにも20%ルールがある。3Mの面白いのは15%ルールに、戦略ゴールとして、全売上高のうち、発売から1年以内の新商品が10%、4年以内の商品が30%と言う設定をしていることだ。3Mがこのようなマネジメントができるのは商品特性による部分もあると思われるが、個人に自由な時間を与え、新製品率を目標設定するというのは組織によるイノベーションへの取り組みとして、もっともシンプルな方法だといえる。
ということで、この3Mのやり方は次の論点であるイノベーションを生み出す組織の一つの答えなのだろう。自律性を重んじ、レールを引く(指示する)のではなく、ガードレール(新製品率)を作り、逸脱しないようにする。
◆組織としてイノベーションを行うという意志が重要
3Mの事例でもっと重要なことは、組織としてイノベーションを行うという強い意志を持っていることある。組織に意志がなければ、この15%ルールは形骸化し、機能しない(新製品率の実現に貢献しない)のではないか思われる。
自由を与えるとイノベーションは起こるというのは誤解である。イノベーションは制約や目標がある場合の方が起こりやすく、その意味で3Mのやり方は理に適っている。
戦略とイノベーションの関係や、組織的なイノベーションの方法については、新しく連載を始めた「イノベーションを実践するマネジメント」で述べるので、ここでは触れない。
◆イノベーションは特別な活動ではない
ここで触れておきたいのは、イノベーションと組織プロセスの関係である。これがこの議論のある意味本質で、イノベーションは組織プロセスと無関係に行われるようなイメージがあるが、特殊なケースを除くと、実際のイノベーションに取り組む人も組織で定常業務を行っている人であり、イノベーションのプロセスも組織で定義されているプロジェクト型業務のプロセスを使うことが多い。また、イノベーションの成果は定常業務に組み込まれることが多い。また、プロセスイノベーションの場合、新しいプロセスが組織プロセスになる。
その意味で、イノベーションは既存の組織プロセスと密接な関係がある。というよりは、区別して考えるべきものではない。この点に対する誤解、つまり、全く別の活動をしてイノベーションを捉えていることが、不必要にイノベーションのハードルを上げている。
このように考えると、イノベーションは既存の組織の活動の延長線上にあると考えるべきだろう。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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