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第11回 経営戦略とイノベーション(2013.06.07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆経営者のイノベーション観

これまでに何度か述べてきたように、イノベーションは経営戦略で決めた成長をするための一つの手段である。

日本の企業経営者のイノベーション観は、現場から偶発的に起こるものであって、マネジメントや管理の対象ではないというものが多い。これは、イノベーションに対する見方というよりも、経営そのものが戦略を作ってトップダウンでやるものではないと思っている延長線上にあるイノベーション観だと言ってよい。事実、過去の例を見てもイノベーションは現場のミドルの活躍が欠かせない。これを野中郁次郎先生は「ミドルアップダウン」と呼んでいる。

戦略経営の中でも、ミドルの役割は重要である。ちょっと脱線するが、戦略についての話をしておく。


◆これだけは覚えておきたい戦略の話

欧米で使われる戦略には3つのタイプがあるとされている。

一つは、「計画型」で、経営目的の達成の手段・計画が戦略だという考え方である。これはイゴール・アンゾフが提唱したものであり、欧米の多くの企業の戦略観はこのタイプである。戦略と言う言葉自体もこの意味で使われることが多い。

二つ目は、「ポジショニング型」で、自社を外部環境の中でどうポジショニングさせるかが戦略だという考え方だ。これは、マイケル・ポーターが提唱したものであり、計画としての戦略と併せて使われているケースが多い。

三つ目は、自社が保有する独自の経営資源、どのように競争優位を築くかが戦略だという考え方である。これは、ジェイ・バーニーが提唱したものであり、「リソースベース型」と呼ばれる。このような戦略観を取る企業も少なくない。

この3つに加えて、日本の企業を分析して、考えられた戦略タイプがある。それは、ヘンリー・ミンツバーグが提唱した、「創発型」という戦略タイプである。創発は、ミドルマネジメントが日常業務の中で適応し、新しいチャンスを取り込んでいくパターンが戦略とする考え方である。ミンツバーグは、意図せざる行動と学習の過程から生まれるパターン形成を重視したが、このタイプの戦略が欧米でも徐々に浸透しつつある。

日本の企業でも計画型の戦略を作る企業が増えているが、実態的には以前として創発型が多く、両者を調整しながら併用している。まず、この点を頭に入れておいてほしい。


◆計画型の戦略を取る場合のイノベーションの位置づけ

計画型の戦略を取るケースでは、イノベーションは目的達成の手段であり、ある程度計画を持って行われる。変革プログラムとして目標を設定し、テーマを出して、プロジェクト化し、プログラムの目標達成をしていく。

たとえば、ある事業で売り上げを30%アップする戦略を作り、これを目標としたプログラムを作る。そして、製品開発プロジェクトや、営業力強化プロジェクトを作って、目標達成にまい進する。


◆創発型の戦略を取る場合のイノベーション

では、創発型の場合にはどうだろうか。実は、これは冒頭に述べた経営者のイメージに近い。ミドルマネジャーがイノベーションの必要性を感じ、自分で動くなり、部下を動かして、イノベーションを実行する。その方向性がイノベーションの戦略になるのだ。

少し古いが、この本にミドルアップダウンのイノベーションの事例がたくさん取り上げられているので興味があれば、読んでみてほしい。

野中 郁次郎、勝見 明「イノベーションの本質」、日経BP社(2004)


◆ミドルアップダウンで必要なミドルマネジャーの資質

このようなやり方がしようと思うとマネジャーの資質が必要である。ミドルマネジャーは事業計画の実行のため、定常業務の管理もしなくてはならない。そこで、部下がいろいろな問題を起こすが、これを解決していかなくてはならない。いわば、これがマネジャーとしての本務である。この本務をしながら、イノベーションにも取り組むというのは非常に難しい。心情的にも、評価的にも目先の問題の解決が優先されるからだ。

さらに、成長目標が設定されると、定常業務の強化をしていかなくてはならない。ところが、コストを削減しても売り上げは伸びない。また、同じような製品を開発しても、食い合いをするだけで売り上げは伸びない。

これまでとは異なる市場を狙える製品を開発する必要がある。ここにミドルマネジャーの悩みがある。

この問題を解決するときに有効なのが、組み合わせである。Aという商品とBという商品の機能を組み合わせて、異なる市場を狙う。たとえば、ナビ付きの電子ピアノとエレキギターの機能を組み合わせて、ナビ付きのエレキギターを作り、ギターを弾けないけど弾きたい人を狙う。

こういう発想をするには、ちょっとしたコツが必要だ。電子ピアノとギターを眺めていても発想できない(できるかな、まあ、たとえ話として)。「ナビゲーション」、と「素人でも弾ける」という2つの概念を組み合わせて、このような発想が出てくる。

ミドルアップダウンにおけるミドルマネジャーの役割は、概念レベルでこのような組み合わせを考え、メンバーに具体的なアイデアを出させることである。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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