第1回 イノベーションは手段ではなく、目的である(2013.04.09)
◆はじめに
「イノベーションの理論と実際」という連載の構想をしている中で、ある人とイノベーションに関してどんな情報提供がいいのだろうというやり取りをしていたら、PM養成マガジンの戦略ノートのような何でもありというスタイルがいいのではないかという話になった。確かにそうだと思い、連載のタイトルを本タイトルに変えた。
不思議なもので、タイトルを変えるだけで、いろいろな発想が湧いてくるものだ。
この連載はイノベーションに関して、さまざまな視点から考えたこと、感じていること、学んだことなどを、気の向くままに書いていこうと思う。
◆イノベーションなくては生き残れない
> 最初は、やはり、この話題。いつのまにか、競争の手段から、生き残りの手段になりつつあるようだ。イノベーションという概念そのものがあいまいな中で、そのような議論にいかほどの意味があるかという批判もあろうが、おしなべていえば正しいように思う。
そのような状況になってきたのはさまざまな要因があると思うが、中でもビジネスのライフサイクルが短くなったことと、一つの市場で複数の企業がパイを分け合うことが難しくなった影響が大きい。
特定の市場の特定の期間をみると、独り勝ちしている企業がある。しかし、それは長続きせず、あっという間に別の企業にとって代わられる。その展開が携帯電話である。
誕生の時期のモトローラから始まり、ノキア、ブラックベリー、アップルと30年間で4社が圧倒的なシェアを持つトップ企業になっている。
このような状況では、負けてもすぐにチャンスがやってくる。勝っていてもいつ負けるかわからないリスクがある。つまり、勝っていようが負けていようが、企業として存続するためには、イノベーションを続け、チャンスを勝ち取っていかなくてはならない。一昔前にトップ企業のマーケティング戦略は通じにくくなっている。ノキアがその例だ。3Gのイノベーションを引っ張ってしまい、ワールドクラスの企業が存続が危ぶまれる存在になってきた。
◆新しいものを求める
今はそんな状況であるが、新しいものを求めることは今に始まったことではない。ある意味で、新しいものを探究することは人間の本能である。
著者が仕事を始めたのはもう25年以上前になるが、そのころから常に新しい技術は探究されてきた。何か明確なビジネス上の目的があって、その目的のために新しい技術を探究していたというより、キャッチアップするという漠然とした目的があり、その目的に一歩でも近づくために、常に新しい技術を探究することが求められた。
そんなことが本当にできたのかというところがミソだ。キャッチアップとはいえ、予算もあるだろう。しかし、キャッチアップならできる。キャッチアップする場合には、ドミナントモデルはたいていある。
言い換えると、キャッチアップの場合、新しい技術は、自社にとって、あるいは、日本にとって新しい技術であり、世界的に見れば普及したものに改良を加えているだけだったものが多い。当時はそれでもビジネスとしての意味があったし、政策的にも意図されたものだったように思う。
したがって、投資したけど、開発に失敗してまったく回収できなかったといった大きな失敗がなかった。思ったほどうまくいかなくても、市場が成長していたので、別商品に応用するとかなにがしか回収できる方策が見つかった。悪くいえば戦略がなくても、なんとかなったわけだ。
◆教科書的なイノベーションの位置づけ
著者は、このような時期にキャリアの前半を過ごしてきたせいもあってか、新しいものを探究するというのは、手段ではなく目的であるという意識が強い。キャッチアップではなくなっても、常に新しいことを考えるという意識がある。「そこに山があるから登る」という感覚である。
教科書的なイノベーションの位置づけは、競争戦略を策定し、戦略を実行していくには、競争に勝つ必要があるわけなので、常に新しいなにかが必要になる。つまり、戦略実行の手段がイノベーションであるということになる。したがって、競争の基盤が技術やビジネスモデルではなく、顧客関係などであればイノベーションは必ずも必要ないという理屈にもなる。また、戦略という視点からいえば、新しいものの探究が戦略実行の手段でなければ意味がないという話になる。
投資という点でいえば、そうかもしれない。しかし、そのような認識だからイノベーションがうまくいかないともいえる。
◆イノベーションは戦略を起点としない
イノベーションは常に新しいものを求めるが、それがそんなに都合よく、ほしいときにできるはずがない。R&Dのような新しいものを生み出すための計画された助走というイメージではなく、常に「動き回る」中からアイデアが生まれ、実行されていくのがイノベーションである。言い換えると、イノベーション自体を目的とする活動の中から初めてイノベーションは生まれてくる。
もちろん、戦略を無視していいなどと言っているわけではない。ただ、戦略が起点になるわけではないといっているだけだ。戦略イニシアチブがあり、イノベーション活動がそこにカップリングするようなイメージである。このカップリングには、多分に偶発性があるのがイノベーションでもある。
もう一つ、ここについていえば、戦略自体にもマネジメントにもイノベーションはあるのだ。したがって、すべての戦略はイノベーションを起点とし、マネジメントされると考えると、つじつまが合わなくなる。イノベーションはプロセスではない。
◆偶発性を呼び込む
ここを理解している企業はそのようなマネジメントを行い、成果を上げている。つまるところ、この議論は常に動き回り、いかに偶発性を呼び込むかという議論だが、代表的な方法は2つあるように思う。
一つの方法は勤務時間の中の一定の時間を自由に使ってよいというパターン。もう一つが、R&Dのプレステージのような位置づけで、成果をポジティブに評価する少額の予算をつけるという方法。
本質的には双方とも同じで、労務でコントロールするか、お金でコントロールするかの違いだが、こういうマネジメントを行っている企業はイノベーションを目的としてとらえている企業だといえる。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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