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非常識な目標を設定することで、従来のやり方を根本から見直さざるを得なくなり、イノベーションを起こすことができる。「原価が1割下がらんのやったら、3割下げることを考えたらどうや」松下幸之助

第10話 非常識な状況を設定する(2013.02.18)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆原価が1割下がらんのやったら、3割下げることを考えたらどうや

松下幸之助翁がブラウン管の原価を一割下げる方法はないものかと技術者たちが集まって議論していたところに通りがかり、

「みなさんね、原価が1割下がらんのやったら、3割下げることを考えたらどうや」

というアドバイスをしたというエピソードがある。3割下げようと思えば、今の設計や材料、工程に至るまで根本から見直す必要があるからだ。

絶頂期の松下(現パナソニック)は、マネ下とか、二番手商法とか、創造性のなさについて揶揄をされることが多い会社だった。製品技術的にはそうかもしれないが、このエピソードを読むかぎり生産や販売においては、どんどんイノベーションを繰り返していたことは間違いない。たとえば、ナショナルショップは間違いなく販売イノベーションだ。その秘訣はこのエピソードにあるように思う。

松下幸之助に関する本を読んでみると、この手のエピソードには事欠かない。このように、困ったときに極限の状況を考えてみるというのは水平思考の手法の一つである。

◆10%では従来の枠組みをから抜け出せない

ブラウン管の例でいえば、10%のコストカットをしようとするから、従来の延長線上でいけると考え、実際にそのように考える。昨年、NECが13インチのウルトラノート(LaVieZ)で900グラム弱の商品を開発して話題になった。開発物語を読んでいると、徹底的に部品重量を絞って1キロ弱になったそうだ。樹来の方法ではこれ以上の軽量化の目途が立たず、開発プロセスを根本的に見直し、一つ一つの部品設計を徹底的に見直し、実現したそうだ。

このように非常識な目標を設定することにより、従来のやり方を根本から見直さざるを得なくするという方法を取ることによってイノベーションを起こすことができる。NECの例で興味深いのは、部品については改善を行い、プロセスをイノベーションし、トータルとしてはイノベーティブな製品を生み出していることである。


◆環境設定を非常識にする

非常識な設定をするのは、目標だけではなく、環境でもよい。たとえば、毎年研修を行っている企業に対して、今年は売り上げを倍にしたいと考えた。ここで、倍の人に売ろうと考えてみても、目標を達成するアイデアは出てきにくい。そこで、売り上げを倍にすることは一旦忘れて、環境に対して、ホワットイフの水平思考を使ってみる

・もし、顧客が1人しかいなかったら
・もし、顧客が100万人いたら
・もし、営業予算が無限にあったら
・もし、営業予算が1円もなかったら
・もし、研修価格が無償だったら
・もし、研修価格が現在の5倍だったら

などと、ありえない状況を設定して、考えてみる。すると、常識ではしばられないアイデアが出てくる可能性がある。もし顧客が1人だけだったら、今のプログラムでは考えられないパーソナルなサービスを導入するだろう。それを今の顧客に提供できれば、結果として売上を倍にできるかもしれない。たいへんな商品のイノベーションになる。営業予算に関する非常識な設定は売り方のイノベーションを生み出すかもしれない。研修の価格に関する非常識な設定はビジネスモデルのイノベーションを生み出すかもしれない。

◆水平思考の使い方

このような水平思考の使い方もある。

水平思考で注意すべきことは、アイデア出しのツールとしては強力に行うことができるが、そのアイデアは時として実行されないままで終わることがあることだ。水平思考により、いきないみんなの腹落ちし、膝を叩きたくなるようなアイデアはそうそう生まれてくるものではない。

非常識なアイデアによって、多くの人を動かすには納得が必要になる。松下翁のエピソードは松下翁だからみんなが従おうと考えたのではないかという節もある。NECの軽量パソコンにしてもトップダウンだった。

この議論はいいアイデアとは何かという問題でもあるし、実行の問題の問題でもあるので、その際にもう一度議論する。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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