第1話 イノベーションにはマニフェストが必要である(2012.08.06)
◆はじめに
この連載は、「ミドルマネジャーがイノベーションを起こす方法」の2つの柱の一つである。一つの柱は、ミドル自体がイノベーターになることで、これをプロジェティスタと呼んでいる。プロジェティスタについては、「イノベーション・リーダーシップ」という連載でその活動を議論している。
もう一つがこの連載で、こちらはリーダー、あるいはマネジャーとして、イノベーションを起こす方法である。
◆イノベーションをコミットする仕組み
イノベーションが掛け声だけに終わっている一番の理由は、明確なコミットメントがないことだ。これまでイノベーションはマネジメントの対象にされてこなかった。たとえば、3Mは、「絶えざるイノベーション」で最も有名な企業であり、興味深い社内ルールをいくつか設けている。
もっとも有名なのは、「15%ルール」で、自分の就業時間の15%は、自分の好きな研究の時間として使えるというものだ。これは、いろいろな企業が取り入れ始めている。また、事業レベルの目標として、「25%ルール」というのがある。これは、5年以内に新製品として発売した商品の比率が、常に25%以上あることを目標とするというもの。
このほかにも、自分で社内ベンチャーを作りたい人は、他事業部からでも資金を集めスタートできるが、2年以内に一定の資金を使い果たしてしまえば終わりとするという「スポンサー・シップ」、リスクがあっても失敗を恐れずチャレンジする機会を得られる「Opportunity to fail」など、イノベーションを生み出すことに最も努力している企業の一つだ。
◆イノベーションはマネジメントできないのか
ただ、15%ルールが象徴するように、イノベーションはマネジメントの対象外だと考えられてきた(3Mの興味深いのは、その一方で、25%ルールを設けていることだ)。イノベーションのイメージとして、「スカンクワーク」的なイメージがある。スカンクワークとは、隠れて行う仕事のことで、3Mのようにその存在を公認しているかどうかは別にして、研究開発のようにテーマを管理することはしない。言い換えると、成果は、実施者任せになる。
研究開発とイノベーションとの基本的な違いは、成功確率にある。研究開発であれば、基礎研究を除くと、たとえば、成功確率が50%のテーマに投資することはないだろう。ところが、イノベーションとなると、50%なら、成功確率は高いと言えるかもしれない。
この性格の違いが難しさの原因になっている。研究開発であれば事業に対するコミットメントを直接言える。ところが、イノベーションで事業に対するコミットメントを直接いうのは難しい。そこで、必要になるのがマニフェストなのだ。言い換えると、自社(自部門)はイノベーションに取り組むという宣言書が必要なのだ。そして、イノベーションの活動はその宣言に対してコミットメントする。
◆マニフェストにコミットメントする
3Mのいくつかのルールの集合はマニフェストだとみなすことができる。しかし、マネジメントは難しい。マニフェストにコミットし、マネジメントをするには、もっと具体性が必要になってくる。
イノベーションマニフェストに最低限必要だと思われるのは、
・イノベーションの必要性
・重点分野
・イノベーションへの決意
・提案されたアイデアの管理・評価方法
・従業員への要望
・アイデアの検討をする確約
・ポジティブなスタンスの表明
などの事項である。マニフェストで重要なことは、アイデアの評価をポジティブに行うが、アイデアの評価そのものは、厳しく行うということだ。数年前から経営方針にイノベーションを掲げて、アイデアの積極的な採用をしている企業がある。しかし、なかなか、結果が出ない。評価が緩いので当然だが、これによって活動そのものが停滞している。
ここが重要なところだ。これまでアイデアを「門前払い」していたような組織が、目をつぶってアイデアの実行を支援しても何も変わらないのだ。イノベーションに求められるのは、ポジティブスタンスと、シビアな評価の両立である。
具体的な話についてはこの記事の中で説明していくが、マニフェストはその拠り所でなくてはならない。そして、経営トップ、管理者、リーダー、従業員などが、立場に関係なくコミットできるものではなくてはならない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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