第5話 コンセプトのチカラ(2012.10.01)
◆ビジョンを実現するコンセプト
ここまで、ビジョニングについて述べてきた。ビジョンを実現するために欠かせないのがコンセプトである。
コンセプトという「概念」は分かりにくいのだが、一言でいえば、ビジョンに向かっていくために自分は実現したいことである。ここで考えなくてはならないのは、ビジョンというのは単発のアイデアで実現できるものではないということだ。人によっては、実現できないからビジョンだという人もいる。実現できるべきか、できなくてもいいのかの議論はここではしないが、いずれにしても単発のアイデアではなく、継続的な活動であるということだ。そして、その継続的な活動の背骨(シナリオ)になるのがコンセプトである。
◆コンセプトのレベル
コンセプトにはいろいろな表現がある。たとえば、「誰に、何を、どのような形で提供するか」がコンセプトだという表現をよくする。
たとえば、スターバックスコーヒーは誰に何をどのような形で提供しているのか。「コーヒーを飲みたい人に、おいしいコーヒーを、素早く、持ち運べるように提供する」というだけでは不十分なことはお分かり頂けるだろう。会議室不足の今、オフィスビルのスターバックスにいけば、そこらじゅうで会議をしている。WiFiを使いたくて立ち寄る人もいるだろう。コーヒーを飲むことは二の次だ。ひたすら受験勉強をしている人もいるし、読書をしている人もいる。長時間、粘ってもあまり気にならない店だからだろう。
あるいはランドマークになっている店も多く、待ち合わせに使っている人も多い。コーヒーを飲みながら、待つことができるのもよい。あまり知られていないが、スターバックスにはコンセプトストアというのがある。京都だと六角堂の前に「京都烏丸六角店」というのがある。六角堂を眺めながらコーヒーを飲める。スターバックスエクスペリエンスを提供しているという。また、京都三条大橋店は川床でコーヒーが飲める店として有名だ。
ついでにいえば、京都リサーチパークにはドライブスルー店もあるし、高速のSAの店もある。
このような多種多様な店舗形態は、「コーヒーを飲みたい人に、おいしいコーヒーを、素早く、持ち運べるように提供する」というコンセプトではできない。
◆サードプレイスというコンセプト
よく知られるようにスターバックには「サードプレイス」というコンセプトがある。簡単にいえば、ファーストプレイスは家で、セカンドプレイスは職場や学校など。そしてこのふたつを結ぶ中間地帯が「サードプレイス」というわけだ。アメリカの社会学者レイ・オールデンバーグはサードプレイスには以下のような機能を必要だと指摘している。
・心をニュートラルにする。ありのままの自分に戻れる。
・いろいろな人との出会いの場を提供してくれる。
・知的フォーラムや、個人のオフィスとしても機能することがある。
・ローカルな場所にあって、いつでもアクセスできる。
・包容力があり、いろいろな人を受け入れる。
つまり、スターバックスは、老若男女に、さまざまな店舗形態によって、サードプレイスを提供しているのだ。
もちろん、「コーヒーを飲みたい人に、おいしいコーヒーを、素早く、持ち運べるように提供する」というのもコンセプトであるには違いないのだが、これとサードプレイスというコンセプトは、概念性の度合いが違う。
◆コンセプトのレベル
たとえば、特定の店舗を開発するときにもコンセプトは必要だ。この場合には、コンセプトは具体的なものになる。たとえば、新幹線の品川駅の改札内にスターバックスがあるが、この店舗は「コーヒーを飲みたい人に、おいしいコーヒーを、素早く、持ち運べるように提供する」というコンセプトだと思われる。
ところが、事業レベルでは、サードプレイスのような概念的なコンセプトが必要なのだ。その先には実現したビジョンやミッションがある。スターバックスのミッションは
会社として成長しながらも主義・信条において妥協せず、世界最高級のコーヒーを供給することである。
というものだ。このミッションを実現するためのコンセプトとして、サードプレイスがあるのだが、ポイントになるのは、持続性である。ビジョン・ミッションを実現するためには、活動の持続性が必要になる。
◆ビジョンに向け、持続性のあるコンセプトを示す
たとえば、「コーヒーを飲みたい人に、おいしいコーヒーを、素早く、持ち運べるように提供する」というコンセプトであれば、勝負のポイントは味とスピードであり、他のコーヒーショップに客を奪われ、持続的ではなくなるかもしれない。しかし、サードプレイスというコンセプトであれば、そのコンセプトの実現のためにはさまざまな要素が必要で、延々と自分たちの活動を改善していける。スターバックスには、有名なグリーンエプロンというサービスビジョンがある。
・歓迎する
・心を込めて
・豊富な知識を蓄える
・思いやりを持つ
・参加する
の5つ。このサービスビジョンを共有し、実現していくことによって、持続的にコンセプトを実現する活動が続くということになる。
これがコンセプトの持つチカラだ。イノベーティブ・リーダーのイノベーティブたるゆえんは、掲げたビジョンに向けた持続性のあるコンセプトを示せることにある。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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