【スケジュール作成における対話シーン】
PM 「では、これからスケジュール作成を行います。スコープ定義をもとに皆で考えながら作成していきましょう。方法としては、バックヤード方式を用いたいと思います。私が、成果物のひとつを上げて直前でやる作業を質問していきますので、思いつくまま答えて下さい。皆さんが答えてくれた内容は付箋紙に書いて模造紙に時系列に貼っていくことにします。よろしいですか」
全員 「はい、了解しました」
PM 「では、まず販売業務の『業務フロー図』からいきましょうか。この成果物を完成させるために、直前にやることは何ですか」
メンバA「まずは、最終レビューで承認を得ることですね。営業課長と営業部長の承認で良いと思います」
PM 「他の方々は良いですか。では、その他に何か必要なことはありますか」
メンバA「ないと思います」
PM 「わかりました。では、最終レビューの直前にやることは何でしょうか」
メンバB「当然ですが、事前レビューで受けた指摘事項の修正作業だと思います」
PM 「なるほど、そうですね。他にはありませんか」
メンバA「あえて上げるなら、部長と課長に対するレビューの依頼と日程調整がありますね。細かい話ですが」
PM 「日程の調整は大切な作業ですね。他にはありませんか」
メンバA「他には思いつかないですね」
PM 「了解です。では、修正事項の前にやることは何でしょうか」
メンバB「先ほどと同様のパターンになるので、1次レビューと日程調整ですね。その他にはないと思います」
PM 「異論はありませんね。では、1次レビューの直前には何をやりますか」
メンバC「作成作業になると思います。」
PM 「なるほど。他の方々は、それで良いですか」
メンバA「個人的な意見ですが、どこかでウォークスルーをやった方が良いと考えています。このタイミングが良いかどうかは検討の必要性はありますが…」
PM 「良い提案をありがとうございます。この点に関して何か意見のある方はいますか…」
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適切なプロジェクト計画がプロジェクトを成功に結びつける必要条件であることは言うまでもありません。そして、成功を確固たるものにしようとするのであれば、そのプロジェクト計画を、プロジェクトチーム全員が心から達成しようとする「本気の計画」にする必要があります。
もし、プロジェクトマネジャーが唯一人で作成した計画であったり、あるいは誰かから与えられた計画をチームメンバーに説明し指示しただけであったりすれば、そのプロジェクトの目標達成に責任を負っているのはプロジェクトマネジャー唯一人ということになりかねません。なぜなら、一方的に与えられたプロジェクト計画に対してプロジェクトメンバーが当事者意識を持つことは困難だからです。
プロジェクト計画に対するプロジェクトメンバーの責任ある関与を高め「本気の計画」にするためには、プロジェクト計画を「対話」を用いて作成していくことが何よりも大切です。
プロジェクト計画を作成するにあたっては、目的を明確にした上で、スコープを定義することが第一歩になります。(スコープとは、そのプロジェクトで提供する製品とサービスの範囲のことです。)
スコープ定義に対話を用いるというのは、プロジェクトの完成イメージに関する、それぞれの考え(仮説)を見える化し、お互いに理解し合うということです。
スコープ定義は多くの場合、顧客の考えを正しく理解するということが中心になります。しかし、ただ単に顧客の考えをヒアリングしようとするのは対話とは言えません。受け手側が自分自身の考えも提示することで、それぞれの違いを明確にするというのが対話の基本姿勢です。
このことにより、スコープのモレやダブリを防いだり、解釈の違いをなくしたりすることが強化されます。また、場合によってはそれぞれの考えを保留し並べてみることで、作りすぎのムダに気がついたり、新たなアイディアが創発されることもあります。
スコープ定義が出来上がれば、プロジェクト計画のメインであるスケジュール計画とコスト計画に移ります。ここでも計画作成に対話を用いることで、プロジェクトメンバーの当事者意識と責任感を高めることができます。
スケジュール計画およびコスト計画作成における対話では、指定された納期と与えられた予算(つまり、顧客や上位組織が持つ仮説)に対して、自分たちの仮説を明確にし、その二つの仮説のギャップを認識することがスタートになります。
ここで最も気をつけなければならないのが、自分たちの能力では、顧客や上位組織から与えられた目標を簡単に実現できそうにない時、そこで安易なトレードオフを行なおうとしてしまうことです。これは単なる「交渉」であり、「対話」とは言えません。まずは、現時点の自分たちが持てる能力を最大限に活用し、その目標を達成するための知恵を創造しようとすることが大切です。ここで求められるのは「win−win」の思考様式と行動様式であり、妥協点や落とし所を見つける姿勢でありません。自分たちの作業を改善したり工夫したり、あるいは本来の目的に立ち戻った上で新たなやり方を生み出し、何とかプロジェクトの目的を達成するために衆知を集めることが重要です。
もしも、いくら知恵を絞っても目標を達成できそうにない場合は、顧客や上位組織に相談し、そこでまた対話を行うことになります。そして、ここでも知恵を出し合った「win−win」の解決を目指します。
ここでは、プロジェクト目標や経営資源配分の変更など、戦略レベルの調整が行なわれることがありますが、場合によっては、ターゲット市場の変更や人材開発方針の見直しなど、更に上位レベルの戦略変更が行われることもあります。
つまり、対話によるプロジェクト計画は、戦略レベルの仮説を、現場レベルで検証するという側面をも持っているのです。
中村 文彦 オープンウィル代表 中小企業診断士
1962年生まれ。明治大学文学部卒。大手食品メーカーの戦略的物流システム開発プロジェクトにプログラマーとして従事した後、営業およびプロジェクトマネジメントを担当。その後、中堅情報サービス企業にて、経営管理全般および組織開発・人材開発を担当し、独立。また、NPO日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)に所属し、各種研究会やPMシンポジウムの企画・運営等のプロジェクトマネジメント推進活動に参加している。
中小企業診断士、経済産業省認定情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、上級システムアドミニストレータ)
著書『ITプロジェクを失敗させる方法 〜失敗要因分析と成功への鍵』ソフトリサーチセンター
本連載は終了していますが、PM養成マガジン購読にて、最新の関連記事を読むことができます。