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第5回 それって、コミュニケーションの問題ですよね。(2007/09/13)

株式会社プロジェクトプロ 代表取締役  峯本 展夫


内部統制の要素とPMBOKの知識エリアとのマッピングで、今回は、「情報と伝達」と「モニタリング」のうち、コミュニケーションに関する部分について考える。


情報と伝達
組織目標の達成に必要かつ適切な情報が識別、把握、処理され、必要な関係者相互に正しく伝えられること。



この「情報と伝達」の要素が、PMBOKのコミュニケーション・マネジメントの知識エリア(計画プロセス群の「コミュニケーション計画」と実行プロセス群の「情報配布」)とマッピング可能なことはあまり異論がないだろう。そして、コミュニケーションの問題がプロジェクト成功の可否に大きく影響することは、プロジェクトマネージャーであれば、誰しも(嫌というほど)経験している。

しかし、内部統制を考えるとき、例えば、「リスクの評価と対応」ほどには、この「情報と伝達」は重要視されているとは言い難い。プロジェクトも同様である。いかにコミュニケーションに関わる問題を知っていたとしても、実際にはコミュニケーション・マネジメント計画書が十分に活かされているプロジェクトは稀である。もちろん、筆者もコミュニケーション・マネジメント計画書を作れば全てうまくいくとは考えていない。むしろ、形式的にこのような計画書を策定する弊害も多く知っている。コミュニケーション・マネジメント計画書で計画されていない会議体が、単に計画書にないとの理由で開催されないなどという本末転倒なケースが実際にあるのだ。

誤解を恐れずに極論を言うと、コミュニケーション・マネジメント計画書自体には価値がない。これは、コミュニケーション・マネジメントは意味がないと言っているのではない。もっとコミュニケーション・マネジメントに目を向けてほしいとおもっている。誰かが「それは、コミュニケーションの問題ですよね」と言ったとき、それはコミュニケーション・スキルの問題なのか、コミュニケーション・マネジメントの問題なのか(あるいは、その両方なのかなど)考えて欲しい。

単に、コミュニケーション計画のアウトプットとして「コミュニケーション計画書」に価値をおくのではなく、コミュニケーション・マネジメント計画書を作るプロセス、変更するプロセスに価値を見出して欲しい。このプロセスで最も重要なのは「コミュニケーションに対する要求事項の分析」である。ここでは、組織構造や責任関係を十分に考慮する必要がある。これは、そのまま、内部統制における「情報と伝達」の本質に通じる。上記のように「組織目標の達成に必要かつ適切な情報が識別、把握」とは、組織内部の構造や責任関係を考慮した上で、関係者全員のコミュニケーションに対する要求事項を明確にすることにある。

この他にも、コミュニケーション計画のプロセスで重要なことは、例えば「共通用語集」を作るプロセスにある。この「共通用語集」は、コミュニケーション計画書の中に記載する内容のひとつで目立つことはないが、異なる背景を持つ人が一緒に仕事をするときに言葉を定義しておく意義の重要性は強調しすぎることはない。内部統制であっても、企業の中では機能組織を超えて共通に理解する環境が必要なのである。内規等の見直しプロセスにも共通用語集に重点を置いてほしい。共通用語の定義を議論する中で、互いのおもわぬコンフリクトの背景に気づくこともあるだろう。

内部統制というと、どうしても最初に、情報が制限されることに目が向くが、この「情報と伝達」の要素の本質を考えることで、このイメージを払拭して、コミュニケーションを活性化させる仕組みづくりを目指したい。それには、まず、コミュニケーション計画のプロセスを取り入れることが役に立つはずである。

次に、この「組織目標の達成に必要かつ適切な情報が識別、把握」した後に、「処理され、必要な関係者相互に正しく伝えられること」を保証する仕組みがPMBOKの「情報配布」に相当する。PMBOKによると、情報配布プロセスは、コミュニケーション・マネジメント計画の実行と、予期しない情報要求への対応とからなる。繰り返すが、コミュニケーションなど計画通りにいくことなどまずなく、「予期しない情報要求への対応」こそが重要である。つまり、情報配布プロセスの変更をする仕組みがポイントになる。PMBOKでは、これは「統合変更管理プロセス」で処理する。内部統制の仕組みの中でも最重要なものである。

モニタリング
内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス。



つづいて、内部統制の要素「モニタリング」と、PMBOKのコミュニケーション・マネジメントに関連付けられるものに、「実績報告」と「ステークホルダー・マネジメント」がある。どちらも、PMBOKの「監視コントロール・プロセス群」のプロセスである。前半で挙げた「統合変更管理プロセス」は、これら監視コントロール・プロセス群のコアとなるプロセスであり、さまざまな変更要求はここで統合して処理される。

「実績報告」はプロジェクト特有の部分も多いが、ガバナンスを考えるとき、非定型な業務において財務的な影響がプロジェクトが終わってみないとわからないでは話にならない。今後、実績報告に関してもパフォーマンス測定や予測などプロジェクトマネジメント手法の活用の重要性が増すと考えられる。
「ステークホルダー・マネジメント」は、積極的にステークホルダーとのコミュニケーションをマネジメントすることで、ステークホルダーに起因するプロジェクトの成功にネガティブな可能性を減らすことを目的とする。これは、内部統制においても、例えば「業務担当者の報告のエスカレーションが有効であるか」などを監視する仕組みとして活用できる。これも内部統制を硬直化したハードな仕組みとしてではなく、ステークホルダー間の良好で建設的な関係を保つためにも必要なことである。

このように見てくると、内部統制を考えるときに、あらためてPMBOKにあるプロセスや仕組みが役に立つことがわかる。逆に、プロジェクトマネージャーとして、内部統制という観点から、プロジェクトにおけるコミュニケーションの問題を再考するきっかけになれば幸いである。

著者紹介

峯本 展夫 (みねもと のぶお)
株式会社プロジェクトプロ 代表取締役 / エグゼクティブ・コンサルタント

1963年 : 大阪生まれ
1989年 : 大阪大学工学部卒業後、大手信託銀行に入社

第3次オンラインシステム開発など、約12年間銀行における情報システムのプロジェクトに参画。邦銀初となるイントラネット・システムを立ち上げるなど、多くのプロジェクトを成功させる。
その後、コンサルティング業界に身を投じ、フリーのプロジェクトマネジャーおよびコンサルタントとして活動する。活動の中で、国内におけるプロジェクトマネジメント成熟度のレベルに問題意識を持ち、プロジェクトマネジメントに特化した企業変革コンサルティングとトレーニングをおこなうプロジェクトプロを設立する。

PMP (米国PMI 認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)
CISA (米国ISACA公認情報システム監査人)
東京大学非常勤講師 (大学院MOT : 環境ビジネス論 プロジェクトマネジメント担当)

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