第2話:抽象的に考え、具体的に行動する(2013.10.13)
◆イノベーションを起こす方法
たとえば、あなたは画期的なイノベーションを起こしたいと思っているとします。そのアイデア出しをどのようにしますか?
デザイン思考を活用し、イメージを形にしながら新しいアイデアを生み出していく方法もあります。自分が思い浮かべるテーマに関連する人たちを集めて対話を繰り返すのも一つの方法かもしれません。キラークエスションを使うと言う方法もあるでしょう。この方法ならいいアイデアが生まれるという方法があれば、誰も苦労しないと愚痴の一つをこぼす人もいるかもしれません。実際に、創造とか革新、イノベーションをキーワードとする思考法や、活動体系は試しきれないくらいの数がありますが、このこと自体が有効な方法がない証拠かもしれません。
その中で、多くの方法や活動の共通するのが、今回のテーマである、抽象的に思考し、具体的な行動に落とすという考え方です。もちろん、これだけではありません。たとえば、この前に、現象を観察するとか、現象を分析するなどが入ることもありますし、抽象的な思考と具体的な行動を繰り返す場合もありますが、コアになるのは抽象的な思考と、具体的な行動です。
冒頭の問題で、イノベーションにおいて、抽象的に考え、具体的に行動するというのがどういうことか、シミュレーションしてみましょう。
◆具体的なイノベーションの例を考える
まず、イノベーションの具体的な例を考えてみます。その方法もいろいろとありますが、たとえば、この10年ほどで自社の業績を画期的に飛躍させたイノベーションや、自分の生活を大きく変化させたイノベーションなどがいいでしょう。
僕は本を読むのが好きですので、まずアマゾンを思い浮かべます。アマゾンによって本が自由に手に入るようになりました。都会で生活していると分からないと思いますが、地方の書店難民は予想以上です。週刊誌やコミックスはコンビニなどで手に入りますが、書籍を買おうと思っても書店がないのです。東京の都心で生活してても、地方で生活していても、書籍類を買うことについてはまったく同じにしてくれたのがアマゾンです。特に、年間4千円弱を支払えば、すべての注文の送料が無料になる会員制の送料無料サービスは画期的だと思います。このサービスにより、どこにいても欲しい本を次の日には手に入れられるようにしました。若干のお金を払うことによって、本を手に入れることに対する空間と時間の問題がなくなりました。
もう一つ考えてみると、お財布携帯です。最近、1~2泊の出張で東京に行っても、ほどんど現金を使わないことが珍しくなくなってきました。京都の事務所からホテルまでは携帯一つあれば行けます。公共交通機関はもちろんですが、都心でタクシーで移動するときもお財布携帯に対応しているタクシー会社が増えてきました。僕が定宿にしているビジネスホテルは朝食がついているので朝食代は要りませんが、レストランや定食屋さんでEdyやSuicaで決済できるところがすごく増えてきました。カフェはスタバが多いのでスタバカードで済みます。ホテルの料金やちょっと買い物をしなくてはならないときはクレジットカード。
だからなんだっていう人もいるでしょうけど、現金の持ち合わせを気にする必要がない、お金を使った記録が残る(携帯の2台持ちで、お財布携帯も分けていますので、公私の区別もつきます)、電車に乗ったあとで行く場所を自由に変えることができる。
この3つだけでも大きな変化です。
◆共通しているものを考える
お財布携帯とアマゾンに共通しているのは、僕の行動を制約から解放してくれることです。たとえば、アマゾンは最近は本だけではなく、さまざまな商品を同じように届けてくれますので、行動の自由が大きくなります。たとえば、旅行先で突然トレッキングをしたくなれば、靴を購入し、次の日には届けてもらうことができるわけです。
◆自分の仕事に応用する
さて、ここでこの発見を自分の仕事に応用してみましょう。僕は研修のビジネスをやっています。アマゾンやお財布携帯から学べることは何でしょうか?行動を制約から解放するというのは共通点としてありそうです。これだけでも大きなメリットだと思いますが、お財布携帯やアマゾンのやっていることをもう少しよく考えてみると、制約から解放してくれるだけではなく、精緻に計画しなくても、とりあえず動きだし、動きながら計画を精緻化したり、変更したりすることをできるような支援をしてくれていることが分かります。
これは今のビジネス環境の中ではとても重要なことかもしれません。そこで、研修ビジネスにもこの要素を入れてみることを考えます。研修で制約といえば時間です。そこで時間から解放するにはどうすればいいかということを考えてみる必要がありそうす。さらに、動きながら計画して進めていくという点では、たとえば、受講するカリキュラムを受講をしながら見直しができるということが考えられます。
◆具体的に考え、ダメなら、抽象レベルで考え直す
そこで、例えば時間から解放するためにはどうするかということを具合的に考えてみます。最初は時間を考えてみます。たとえば、研修時間を業務終了後にすると考えました。研修を受けるということは時間を使うということなので、時間帯を工夫しても本質的な問題解決にはなりません。定時後に研修するなら忙しいときは残業をさせろという人が出てくるのは目に見えています。
ただ、いくつか方向性は考えられます。たとえば、研修に使った時間はたとえば、いまやっているプロジェクトで回収できるようなものにするとか、研修そのものを業務の時間にカウントできるようなもの、たとえば、研修のアウトプットが業務のアウトプットにもなる研修はどうか。
そこで、また、具体的なプログラムを考えてみます。こういうことを何度かやってみて、時間の制約から解消するプログラムを作り上げて、実施していきます。
研修の例でいえば、このような流れで出てくるアイデアに「パフォーマンスコンサルティング」という斬新な研修の仕方がありますが、まさに研修方法のイノベーションができるわけです。
◆抽象と具体の行き来により、多様性を増やす
以上のような考え方はイノベーションに限らず、あらゆる問題解決に適用できます。ベンチマーキングがそうですし、別の分野の役立ちそうな経験を持ってきて、一度、概念化し、そこから、自分の分野で同じコンセプトでやるには具体的にどうすればよいかを考えてみればいいわけです。
このときに考えておいてほしいのは、抽象と具体を行き来するときに必要なのはコンセプチャルスキルだけではないことです。特にコンセプト(抽象)を具体に落とすには専門的な能力が不可欠です。如何によいアイデアがでてくるかは専門能力次第です。
このことは具体的なレベルだけで考えてしまうと、自分が知っている範囲でしかできないことを意味しています。だからよいアイデアが生まれないということをよく覚えておいてほしいのです。
概念化したものを具体化すれば、その専門についてオールマイティではない人を集めればいろいろなアイデアが出てきて、よいアイデアが生まれる可能性が高まります。
これが重要なのです。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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