第1回 コンセプチュアルという考え方(2018.04.04)
◆はじめに
この連載では、
・コンセプチュアルスキルとは何か
・コンセプチュアルスキルは、重要か
・コンセプチュアルスキルを高める手法やツールにはどのようなものがあるか
といったことを解説していこうと思っています。目安としては15回〜20回くらいの連載にする予定です。
内容的には、PMstyleの「
コンセプチュアルスキル講座」で5年間にわたって開催している講座「
コンセプチュアルスキル入門」をベースにしたものを考えています。
まず、第一回は「そもそもコンセプチュアルってどういうこと」なのかを考えてみたいと思います。
部分的にはこれまでにいくつかのメルマガやブログに書いてきたことですが、体系的に書いたことはなかったテーマです。ご活用いただければと思います。特に、ミドルマネジャーの方が部下に勉強させるのに役立てばと思っています。
◆なぜ、抽象的な話は嫌われるのか
「コンセプチュアルスキル入門」講座では、最初に「なぜ、抽象的な話は嫌われるのか」というアイスブレークから入ります。よく出てくる意見は「伝わりにくい」ことをはじめ、いくつかありますが、まれに、
「具体化できないから」
「具体と抽象の関係がはっきりしないから
という意見が出てくることがあります。
あるいは、マネジメントの研修などで、よく担当者から「弊社のメンバーは抽象的に考えることが苦手なので、できるだけ具体的な話をしてください」と注文されることがよくあります。
コンセプチュアルスキルというと、抽象的にものごとを考えるスキルで、難しいというイメージがありますが、実はそうではありません。抽象的にものごとを考えること自体、そんなに難しいことではありません。難しいのは、
抽象と具象を「行き来する」
ことです。
◆具体的にしか考えないという「思考停止」
これを難しくしている主要な原因は、具体的な例で考えることによって「思考停止」に陥ることだと思われます。つまり、抽象的な思考を避け、具体的な情報を求めることによって、考えずに済ませようとしているのです。
この問題の典型的な例が顧客やユーザへの対応です。日本では50年くらい前から「お客様は神様です」という文化が根付き、商品やサービスの提供者だけではなく、顧客自身もそのように考える傾向があります。
これ自体は良いことだと思うのですが、問題は神様にどう接するかです。神様のいうことは絶対に正しいのだから、求めるものを自分たちの全知全能を絞って提供しようと考える人たちが少なくありません。
果たしてこれは正しいのでしょうか?
著者には正しいとは思えません。神様に対して、全力を絞って対応するという考え方はいいのですが、問題は「求められていることを実現する」という方向性です。これでは不十分です。もっとはっきりいえば、何も考えていない、つまり「思考停止」に陥っているわけです。
顧客が本当に求めているものが何かを考え、提供する必要があります。では、どうすれは顧客が本当に求めているものが何かを知ることができるのでしょうか?顧客に本当に欲しいものは何かと求めても、まず、答えは出てこないでしょう。
◆顧客の要求の本質を考える
ここで使えるのが、「本質を考える」という方法です。詳細は、また、次回以降していきますが、イメージだけ説明しておきます。辞書を引くと「本質」とは
「あるものを成り立たせている特有の性質、それなしにはそのものが存在しえない性質、要素」
と説明されています。これを要求に当てはめてみると、「顧客の要求の本質」とは
「顧客の要求」を成り立たせている特有の性質、それなしには「顧客の要求」そのものが存在しえない性質、要素
ということになります。
この定義によると、顧客の要求の本質とは、顧客がほしいと言っているものとは限りません。たとえば、「珈琲を飲みたい」といっている人がいたとします。この人は本当に珈琲という「飲料」を欲しがっている場合もありますが、「休憩したい」とか、「雑談したい」といった要求を「珈琲を飲みたい」という言葉で表現しているのかもしれません。だとすれば、これが要求の本質です。
◆本質を引き出すコミュニケーション
気を付けておきたいのは、本質を察知できないのは必ずしもコミュニケーションのスキルの問題ではないということです。
上で、顧客の口から本当に欲しいものは出て来ないと言いましたが、聞き方がまずいからだと考える人も多いと思います。確かにその通りで、「珈琲が飲みたい」といっているのに、「本当に欲しいものは何か」と尋ねても答えられないことが多いでしょう。そこで、別の聞き方をするといいとなりますが、問題はどのように尋ねるかです。
例えば、
「あなたはなんのために珈琲を飲みたいですか」
「あなたは珈琲を飲むことによってどう変わりたいですか」
と聞いてみましょう。これだと「雑談したい」という答えが得られる可能性があります。
◆コンセプチュアルな例
一つ、例を挙げてみましょう。著者の書いた「
コンセプチュアル思考」(日本経済新聞出版社、2017)の中で取り上げている例ですが、顧客が「家の壁に白いペンキを塗ってほしい」と依頼してきました。そこで、何種類かある白系のペンキから顧客に選んでもらって塗ったところ、なんと顧客はこれではダメだと言い出しました。
このように顧客がほしいと言っているコト(やモノ)が必ずしも欲しがっていることだとは限りません。ここで「どのペンキにしますか」と聞く代わりに、「ペンキを塗ることによって何を変えたいですか」と聞いてみます。すると、「汚れが気になっているので、新しいときの状態にしたい」と答えが返ってきました。
つまり、汚れが目立たない状況、あるいは新しいときの状態にしたい」というのが顧客の要求です。少し、本質に近づいたわけです。
ところがまっさらな家ではありませんので、それは無理な相談です。そこで、さらに顧客に、「新築の時はどこが気に入っていましたか」と尋ねます。こう尋ねて仮に「新しいもので統一されていたところ」だと答えが返ってきたとします。
しかし、新しくすることは無理ですので、本質はもう少し掘り起こしていく必要があります。キーワードは「統一」だと考えてみます。そして「全体が統一されていて、自然な感じがすればいいですか」という問いを投げてみます。そこで「はい」という返事が得られました。
これは、「白いペンキで塗る」ことに較べると、ずいぶん抽象的な話です。頼まれていることは具体的な作業ですので、これを具体化しなくてはなりません。そこで、「家全体が統一されて、自然な感じがする」ペンキの色を探してみます。するとベージュがよかったので、ベージュのペンキを塗りました。
これだけでも、顧客の満足度は白いペンキを塗るよりははるかによいでしょう。
ここで注意してほしいことは、ひょっとすると、「全体が統一されていて、自然な感じがする」家にするには別の方法があるかもしれないことです。例えば、アルミサッシュだった窓を木枠に変えると壁はそのままでむしろ、汚れもいい雰囲気に映るかもしれません。
このように抽象と具象の関係は1:Nです。具体的なことだけを考えていたのでは、せいぜいペンキの色を変えるくらいしかアイデアは出てきませんが、抽象的なレベルで考えることによって、最初の具体的な方法では全く想定していなかったような方法が見つかる可能性があります。
このように抽象化して考え、最初の具体的なアイデアの範疇を超えて、具象と行き来するという意味です。
◆コンセプチュアルであることの定義
コンセプチュアルスキルでは、抽象と具象だけではなく、もう少し幅を広げて、「概念」と「形象」という形で行き来をすることによって思考の幅を広げていきます。
以上がコンセプチュアルスキルのイメージですが、本連載ではコンセプチュアルであるという概念を以下のように定義しておきます。
見えないものを把握し、価値を判断し、全体を描き、思考や行動をしている
次回以降、この定義を前提に、コンセプチュアルスキルについて詳細な解説をしていきたいと思います。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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