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顧客の表面的な要求に対して、洞察を繰り返し、本質的な要求を見極めて対応することにより、顧客が期待していなかった対応ができる可能性がある。顧客の期待と製品の関係には、3つのレベルがある

第25話:市場や顧客の要求の本質を見極め、期待を上回る製品やサービスを提供する(2016.05.10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆製品の3つのレベル

最近よく市場や顧客、ステークホルダーの期待を上回る製品やサービスを提供することが重要だと言われます。もう少し正確にいえば、期待をした以上に気に入られる製品やサービスを提供するということです。顧客も自分たちの期待を上回るものを提案したり提供してほしいと望んでいるという指摘もあります。

顧客の期待と製品の関係でいえば、3つのレベルがあると言われています。

一つ目はできて当たり前というレベルです。たとえば、基本的な機能や瑕疵がないことです。自動車であれば、エンジンがあり、ブレーキとアクセルで速度をコントロールでき、ハンドルがあって車を動かすことができることです。

次のレベルは顧客がこんなものが欲しいと言っているレベルです。たとえば、ナビゲーションシステムが欲しいとか、自動ブレーキが欲しいとかです。最近だと、自動運転も含まれるのでしょう。

ここまでは分かりやすいのですが、さらに「顧客の期待以上」という3つ目のレベルがあります。これは自動車でいえば、たとえば、空を飛ぶといったものでしょうか。少なくともその製品を購入しようとする顧客にとっては自分の頭にはない新しい概念のものということになります。


◆期待以上のものを提案するには

このような提案するにはどうすればよいのでしょうか。ここでコンセプチュアル思考が役に立ちます。たとえば、抽象的なレベルでいろいろと考え、具体化した製品やサービス、機能を考えていくことが不可欠です。

そのための第一歩は、顧客の要求の本質を見極めることです。いわゆる顧客の声にはさまざまなレベルのものがあり、それを整理していく必要があります。

「できて当たり前」というレベルの要求はあまり議論になることはないと思いますが、「顧客が欲しいと言う」レベルについてはそれをそのまま受け止めるのは危険があります。

むしろ、本当は何が欲しいのだろうという視点から顧客の声を聞いておく必要がありますので、そのためには常に「WHY」を考えながら顧客の声を聞くとよいでしょう。つまり、なぜ、そういう製品を欲しがるのだろう、なぜ、そういう機能を欲しがるのだろうかと考えながら顧客の声を聞いていくわけです。


◆顧客の声の例

例えば、家の壁を白く塗ってほしいといわれたとします。この要求に対して、実際に白く塗ることだけが真の要求だとは限りません。白だと言ったのはイメージで、本当の要求は壁の汚れが目立たないようにすることなのかもしれません。このような要求を引き出すには、「なぜ白く塗るのか」を考える必要があります。そのように考えると、「壁の汚れを目立たなくする」という本質的な要求にたどりつけるわけです。

ここで重要なことは、「壁を白く塗る」という要求と、「壁の汚れを目立たなくする」という要求では、対応の仕方が異なることです。「壁の汚れを目立たなくする」という要求の対応の一つは「壁を白く塗る」ことかもしれませんが、それ以外にも「ベージュに塗る」といった対応方法もあれば、「定期的に掃除する」といったペンキを塗らない方法もあり得ます。


◆要求の本質を見極める

このような中で要求の本質が何かを見極めるには、もう少しWHYを繰り返してみるといいでしょう。

なぜ「壁の汚れを目立たなくする」のかを尋ねてみると、「汚れが気になるからだ」と答えたとします。すると、白に塗るだけではだめなことが分かります。汚れが目立ちにくい色に塗るか、白に塗って定期的に掃除をするという方法になるでしょう。

さらになぜ「汚れが気になるからだ」と答えたかを聞くと、「家を建てたときと較べると全体的に汚れてきて特に壁が汚れているからだ」と答えたとします。すると、白に塗るよりは汚れの目立ちにくい色で塗る方が本質的な要求であることが分かります。


◆要求の本質を見極めるプロセス

それでは、要求の本質を見極める手順をまとめてみたいと思います。手順は

(1)できるだけ多くの要求を集める
(2)要求を抽象化し、本質を見極める
(3)抽象化された要求を具体化する
(4)本質的だと考えられる要求を決める

とまとめることができます。

まず、「顧客の声」を聞き、欲求や欲望であると思われるものは、その中から要求を抽出します。要求の中には本質的な要求がある場合も少なくありませんので、できるだけ多くの顧客の声を集めます。

その上で、抽象化するその中から要求の本質を見つけます。次に具体化をします。抽象化された要求のうち、本質だと思われるものをできるだけ多くの要求に具体化します。具体化においては潜在ニーズを織り込むといいでしょう。その上で、具体化された要求の中から、本質だと考えられる要求を決めます。もちろん、複数あっても構いません。

このようにすることで、具体的な本質要求を見出すことができます。


◆顧客の表面的要求から洞察を繰り返す

このように顧客の表面的な要求に対して、洞察を繰り返し、本質的な要求を見極めて対応することにより、顧客が期待していなかった対応ができる可能性があります。

顧客の高い満足を実現するには、顧客が要求していることを実現するだけでは難しいものがあります。おそらく、言ったことをしてくれるだけでは、当たり前だと思われるだけでしょう。

そこで期待を上回りたいわけですが、そこではコンセプチュアル思考により本質を洞察することがポイントになることを意識するとよいでしょう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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