第13話:5つの軸について考える(4)〜森も木も見る(2015.04.27)
◆大局と分析
抽象と具象、直観と論理、主観と客観に続く4番目は大局と分析です。前回も述べましたが、これまでの3つではコンセプチュアルであること(概念側にあること)、すなわち、抽象的、直観的、主観的はあまりよいこととされません。しかし、大局はよいこととされます。これは興味深いことです。
コンセプチュアルスキルはカッツ教授の指摘しているように、職位の高いマネジャーになればなるほど重要になります。その理由は、抽象/具象とともに、この軸にあります。職位が高くなればなるほど、大局的にぱっと全体を把握するスキルは極めて重要なスキルになるからです。
◆こんな例を考えてみましょう
たとえば、こんな状況を考えてみてください。あなたはある商品を展開している事業部の事業部長です。事業部には商品を開発している開発部、商品を販売している営業部、商品を製造している生産部があります。
営業部長から販売した顧客から営業課に製品のトラブルが起こったというクレームがあったという報告を受けました。生産部長と話し合ったところ、原因がよく分からないといい、生産の問題ではなく商品のスペックの問題だと言います。
生産部長の言う通りなら開発部の応対が必要になります。
ところが、一方で、開発部は開発期限を過ぎた商品開発を抱えていて、生産部から早くしてくれないと発売予定日に必要な数の商品を揃えるのは無理だと突き上げを食らっています。
開発部長は生産の問題の可能性もあるといいつつ、トラブルの原因の調査をする時間を取ることができないと言ってきました。また、これ以上、無理をすると新しい商品でもクレームが出てしまいかねません。あちらを立てればこちらが立たずという状況にあります。
◆事業部長は何をすべきか
このとき、事業部長はまず、自分なりの視点で起こっていることの全体像を大局的に把握する必要があります。こうやって文章で整理して書いていくとだいたい何が起こっているか分かりますが、上のような情報が時系列的に次から次に入ってくる中で、どこかのタイミングで全体の状況を把握するのは難しいものです。
つまり、
・営業、生産、開発、顧客が関係者である
・営業は顧客からクレームを受けている
・生産と開発は責任の押し付け合いをしている
・製品トラブルの原因は分からない
といったことを頭に思い浮かべて問題の全体像をイメージし、何らかの対処をする必要があります。原因が分からないので動きようがないと考えているようでは事業部長失格です。
◆大局把握から分析に
たとえば、イメージとして「社内では責任の押し付け合いをしている一方で、顧客は起こっている」と大局把握です。大局を把握するというのは実は問題の本質を考えることでもあります。
そしてこのような大局把握をした上で、原因よりは顧客への対応が先決だいうことで、営業を同行して顧客の訪問をし、謝罪がてら事情を聞きだします。顧客から情報を得て、その情報に基づき、関係者を集めてなぜ、起こったかを分析していきます。
さらに原因の見当がついたら、全体を見て、何をすれば再発防止になるかとよく考える必要があります。つまり、ここから分析をするわけです。
たとえば、原因が生産担当者の不適切な作業にあったとします。ところが、問題が出ている顧客と出ていない顧客があり、その違いは営業の顧客への説明であることが判明しました。さらに突き詰めていくと、商品に関する開発の説明を正しく理解している営業とそうではない営業マンがいることが分かりました。
生産課で不適切な作業をしないようなルールを決めるといった対処だけではなく、このように分析をしていくことによって全体としてもっとも効果的な対応を考える必要があるのです。すなわち、大局的に考える必要があるわけです。
◆大局だけではダメ
冒頭で述べましたように、この軸については大局的なことを否定する人は少ないのですが、逆に大局的だけで済ましてしまう人がよくいます。よく木を見る西洋人、森を見る東洋人といいますが、両方ともみないと適切な判断はできないのです。
特に、リーダー的な立場になると森を見ることはたいへん重要です。一つ一つの事象を見ていたのでは追いつきません。しかし、もっと大切なことは大局的にイメージとして把握したことが妥当かどうかをチェックすることで、かつ、何が違和感があった場合にはイメージを修正していくことも重要です。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
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15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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