第4話:コンセプチュアルスキルによるコミュニケーション革新(2013.08.05)
◆コミュニケーションはヒューマンスキル?
ロバーツ・カッツの提唱するマネジャーに必要な3つのスキル、「コンセプチュアル・スキル」、「ヒューマン・スキル」、「テクニカル・スキル」の体系でいえば、多くの人はコミュニケーションの問題はヒューマンスキルの問題だと考えます。
確かに、コミュニケーションの取り方(聞き方、話し方、、、)はヒューマンスキルの中でも重要問題ですし、コミュニケーションの目的の一つである相手に影響を与え、動かすことはヒューマンスキルの問題ですので、ヒューマンスキルに大きく依存することは間違いありません。
ただ、コミュニケーションの目的の達成がヒューマンスキルだけでできるのでしょうか?というのが今回のテーマです。
◆情報を扱う
マネジャーが仕事を行う上でもっとも重要なのは今も昔も「情報」です。マネジャーにとってコミュニケーションが大切だというのは、コミュニケーションが情報を扱うものだからです。
ただし、ドラッカーの有名な言葉に、「コミュニケーションと情報は別物である」というのがあります。コミュニケーションと情報は依存関係にありますが、イコールではありません。この点を頭の片隅に置いておいてください。
マネジャーは従来情報をパワーの源泉として使っていました。今でもそういう部分はあるかもしれませんが、部下より多くの情報を持つことによって適切な判断ができることがマネジャーのパワーの一つでした。
この背景にあるのは、ビジネスが企業の意思だけで進められることでしたが、今は、ビジネスは顧客や市場の意思を中心にして進んでいくようになりました。もちろん、企業には経営方針や経営戦略がありますが、それは市場や顧客の声を聞いた上で反映して決められるようになりました。
このような経営では、担当者よりマネジャーの方がたくさんの情報を持っているという図式は必ずしも成り立ちません。顧客や消費者の情報は最前線で仕事をしている現場の担当者がより多くの情報を持っています。そこで、現場が自立してビジネスをしていく方が合理的になってきました。
◆コミュニケーションのの役割と問題
マネジメントのスタイルもトップダウンで指示統制型(管理型)から、支援型に変わってきました。支援型のマネジメントは、部下に権限委譲をし、自立的に仕事を進めてもらうことが目的です。
ここでもやはり情報が問題になります。部下が自立的に仕事をするために必要な情報を提供し、さらにはその仕事のモチベーションを高めていく必要があります。これを行うのがコミュニケーションです。
ところが実際には必要な情報が提供されていません。つまり、コミュニケーションに問題があるわけです。権限委譲といいながら実際には権限委譲が機能していないケースはほとんどコミュニケーションに問題があります。
この問題がやっかいなのは、よく言われるようにマネジャーが自分の業務で忙しいからコミュニケーションがとれないとかいう問題ではないことです。コミュニケーションのとれない理由は、どういう情報を提供すればいいかが分からないこと。もっと深刻なケースが、その業務を行うのにどんな情報を手にいれればいいのかすら分からないようなマネジャーもいます。そこで、困ったらできるだけ早くエスカレーションしてくれという話になります。一見部下のことを考えているようですが、自分の問題で、問題が起こることを容認しているにすぎません。
◆マネジャーの仕事とコミュニケーション
なぜ、こんなことになるのでしょうか?
マネジャーの仕事は、部門の目標に対してその目標を達成するために必要な業務はどのようなもので、その業務間にはどのような関係が持たせ、どのように展開するかを決めることです。簡単にいえば、目標達成のために、業務を構想・企画し、戦略を考えることです。そして、この中から、部下に任せる部分、提供する情報などが決まってきます。
このようなプロセスがあって初めて、部下との間で意味のあるコミュニケーションが生まれます。
◆コミュニケーションの例
ひとつ例を挙げて考えてみましょう。たとえば、最近の職場でよく問題になるのが、部下が与えられた仕事を何のためにやっているかが分からないという問題があります。いわゆる目的です。これは部下が任された業務で問題に直面したときの判断基準として極めて重要です。同時に、モチベーションを持って仕事をするためにも不可欠です。
この問題、気がつけば簡単に伝えられるように思いますが、そんな単純な問題ではありませんし、誰かが与えてくれるわけでもありません。マネジャー自身が意味づけをして、部下に伝えなくてはならない問題なのです。
これに対して、よく「顧客が必要としている」と説明するマネジャーがいますが、適切な答えではありません。このような目的はモチベーションにはなりますが、意思決定の根拠にはなりません。これでは権限を委譲したことにはなりません。
権限委譲のためには、複雑な情報を適切に伝える必要があるわけです。そこで、
事業部長は○○といっている
営業部長は○○といっている
顧客は○○といっている
と、それぞれの言い分を伝えて、「よく考えてやってくれ」というマネジャーがいますが、これではマネジャーの責任を果たしたことになりません。
マネジャーの責任とは、集めてきた情報、自分なりの解釈を一旦整理し、さらに分からないことも洞察した上で、業務を構想し、企画し、部下に情報と一緒に業務を依頼することです。
この部分は、「期待している」とか、「頑張ってくれ」とかいったヒューマンスキル系のコミュニケーションだけでは不十分で、結局、部下は十分に業務が遂行できないままで、自分のところに跳ね返ってくるわけです。
◆マネジャーのコミュニケーションにはコンセプチュアルスキルが不可欠
このために必要になるのがコンセプチュアルスキルなのです。
つまり、コミュニケーションを相手を動かすことだと考えると、ヒューマンスキルだけでは不十分です。コンセプチュアルスキルを持ち、動けるような情報の提供をしていくことが不可欠なのです。
これを行わずして、困ったときに初めて顔を突き合わせて、相談し、問題解決をしながら進んでいたのでは生産性が悪いことこの上、ありません。このように、マネジャーのコンセプチュアルスキルは部下の生産性に重大な影響を与えるということをよく認識しておきたいものです。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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