第3話:創造的問題解決とコンセプチュアルスキル(2013.06.20)
◆はじめに
前回はコンセプチュアルスキルについてイメージを掴んで戴くために、概念化するとはどういうことかについて考えてみた。今回はもう少しイメージを明確にするために、問題解決のケースを使って、コンセプチュアルスキルの役割について考えてみよう。
【ケース】
京都で帆布製バックを製造販売しているA社は観光客を中心に人気があり、80%の売り上げが観光客だった。
ある日、社長が「わが社もインターネットに直販サイトを作り、京都に来たときに買ってくれる人以外にも広く商品を使って貰いたい」と言い出した。そこで営業マネジャーのMさんは異業種交流会の活動でよく知っているウェブデザインを手がけるS社の社長に相談した。しかし、S社の見積もりはA社で考えている予算の倍で、他を探しても予算内では納まらないと思うよと言われた。
途方にくれたMさんはいろいろと考えを巡らせ、結局のところ、社長は何をしたいんだろうと考えてみたところ、直販サイトは思い付きで、「A社のバッグを良さを知って、貰って観光客以外の人にもバックを売ること」だという結論に至った。さらに、Mさんは考えた。本当に観光客以外でなくてはならないのか?京都の観光客数を考えると、A社のバックを購入している観光客は2万人に1人にすぎない。まだまだ、開拓の余地がある。ならば、観光客にも売ればよいと考え、自分の解決すべき問題は「A社のバッグの良さを知って貰って売る仕組み作り」だと決めた。そう考えると、インターネット通販に拘る必要はないし、インターネットを使わないクチコミというのも考えられる。そんな想像をめぐらしているうちになんとかなりそうな気がしてきた。
◆マネジャーの宿命
組織の中では、ケースのような状況に直面することが少なくない。経営トップ(大企業であれば担当役員)が何かを思い付きでやりたいと言い出したが、それは何らかの理由で実現性がない。
このケースの場合であれば、「インターネット直販サイトを構築し、観光客として京都に来ない人にも自社のバッグの良さを知って貰った上で販売したい」と言い出したわけだが、予算の問題で実現性がない。マネジャーはそれを収拾しなくてはならない運命にある。
このようなときに、可能な予算でできるベンダーを探そうとか、可能な予算の中でできる範囲に収めようとかすることが多いが、関係者全員が満足するような成果は出せない。そして終わったあとで振返ると、うまく行かなかったのは、社長との予算交渉やベンダーとの価格交渉の仕方が悪かったからだとか、うまくコミュニケーションが取れていなかったからだとか反省し、次はうまくやろうと交渉やコミュニケーションスキルのトレーニングに励む。
しかし、問題の立て方に難があるのだから、また、同じような状況に陥ると同じ失敗を繰り返す。ケースでいえば直販用のウェブサイトを作るという社長のお題を問題として考えている限り、サイトの仕様や予算をどうするかという問題でしかない。当然、現実があるので交渉やコミュニケーションのスキルでできる範囲には限界がある。
◆「できる」マネジャーは問題の本質を考える
さで、では「できる」マネジャーはこんな場合どうするのか。彼らは「問題の本質」はどこにあるかと考える。
ケースの場合であれば社長が本当に望んでいるものは何かということだ。Mさんは社長の「インターネット通販をやりたい」という発言の本質を「自社の商品の良さを伝える」、「観光客以外に販売する」の2つだと考え、問題を「A社のバッグを、良さを知って貰って観光客以外の人にもバックを売ること」だと考えた。
そこからさらに本質を追求し、観光客は本質ではないという結論に至り、「A社のバッグの良さを知って貰って売ること」をこのプロジェクトのコンセプトとした。
◆コンセプトが選択肢を広げる
このようなコンセプトのプロジェクトにすれば、通販サイトを構築することは一つの選択肢にすぎなくなり、予算の問題を解決できるアイデアが見つかる可能性が大きくなる。
さらに、「良さを知ってもらう」、「販売する」ことに関して、インターネット通販よりよい方法が見つかり、予算をもっと効果的に使える可能性もある。たとえば、観光客がもっと足を運んでくるように情報発信することもできるし、来店した観光客に京都ならではのエクスペリエンスを提供するのもよい。エクスペリエンスという視点からは、ネット上はコミュニティサイトだけでもよいかもしれない、などなど。
◆抽象化で問題の制約を回避する
ケースで起こっていることを別の角度から考えてみよう。
「インターネット通販サイトを構築し、観光客として京都に来ない人にも自社のバッグの良さを知って貰った上で販売する」という問題は極めて具体的な問題である。上に述べたように、仕様やコストなどに工夫の余地はあるかもしれないが、さほど大きな幅はない。具体的な問題だからだ。具体的な問題には画一的とはいかないまでも答えがあるが、逆にいえば、ケースのように答えがない、つまり不可能なことも多い。
そこでMさんは問題を抽象化してみた。そして立てた問題が「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題である。この問題には、最初の問題よりははるかに答えが多いことは容易に想像できるだろう。
◆抽象化して想像力を働かせる
もっと重要なことは、「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題にすると、答えに想像力を働かせることができることだ。
たとえば、「インターネット通販サイトを構築する」という問題に対して、「好きなバッグを貸出し、良さを知ってもらう」というアイデアは出しにくい。サイト構築と何の関係があるのか分からないからだ。
ところが、「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題にすれば、このアイデアを出すことには抵抗がない。
このように抽象化することにより、それを実現する具体的なアイデアの幅が格段に広くなる。これが、問題解決における抽象化の効果であり、現場の人が抽象化を嫌う理由でもある。しかし、ここから窮地を救うアイデアが出てくることもあれば、イノベーションのネタになるアイデアが出てくることもあることを忘れてはならない。
◆創造的問題解決とコンセプチュアルスキル
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以上述べてきたように、直面した問題の答えを見つけるのが難しい場合には、抽象化して考えてみると答えが見つかることが多い。また、抽象化し、構造的、概念的に捉えることによって、問題の捉え方を変えることができる。
「インターネット通販サイトの構築」であれば、せいぜいユーザ視点からの仕様にするという程度の視点の転換しかできない。ところが、「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という概念化をした問題としてとらえることによって、良さを知ってもらう主体をA社ではなく、ユーザに変えるという視点の転換ができ、するとコミュニティといった答えがでてくる。
このような問題解決の方法は創造的問題解決というが、創造的問題解決のように「周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極めるスキル」は一般にコンセプチュアルスキルと呼ばれる。
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【演習】各ポイントのエクスサイズ
5.コンセプチュアルな問題解決演習
6.うまく行かないときの考え方
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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