第1回 プロジェクトマネジメントの経営管理への応用(2010.04.06)
◆PMOと経営企画
今回から、戦略的PMOをテーマにした新しい連載をします。今、行っている連載「PMOによるプロジェクトマネジメントの成熟」はオペレーショナルなPMOをイメージしていますので、これはこれで続けていきたいと思っています。
戦略的PMOは、戦略の実行支援をするPMOのことです。プロジェクト型組織を前提にすればプロジェクトガバナンスの活動を中心にした組織になりますが、この連載ではもう少し、高い視座でみたいと思っています。経営管理です。
現実に今、従来型の組織として運用している組織を、どのようにプロジェクト型の組織に変えていくか、ここに現実の世界の戦略的PMOのもっとも重要なミッションがあります。機能的には経営企画の仕事になりますが、仮にプロジェクト型の経営組織になった場合には、PMOは経営企画部門になりますので、この議論が経営企画の議論だというのは当たり前のことだといえます。
昨年、おもしろい仕事をしました。PMOの処遇に困っている組織は多いと思いますが、PMOを経営企画と統合する仕事のコンサルティングをしました。この仕事を通じて、いろいろと考えさせられたことと、プロジェクトマネジメントの仕事を始める前に経営コンサルティングの仕事でいろいろと考えてきたことを併せて整理して、記事としてお届けできればと思います。
◆プロジェクトマネジメントは現場管理ではない
プロジェクトマネジメントはオペレーションのマネジメントですが、単なる「現場管理」の仕組みではありませんし、「品質管理」や「生産管理」の仕組みでもありません。オペレーションは経営計画を反映して行われるものですから、経営戦略に基づいてこれらの活動を統合して行うマネジメントの仕組みです。
ここでやっかいなことは、定常業務の場合には、経営方針や経営戦略は、組織マネジャーが業務標準として組織に落とし込んでいきますので、担当者は業務標準を遵守して業務を進めていけば、必ず一定の割合で戦略への貢献が可能になります。
これに対して、プロジェクトの場合には、そのようなお膳立てをしてくれる人がいないため、プロジェクトごとに方針や戦略をプロジェクトに反映していく必要があります。それは、プロジェクトの目的決定であったり、スコープ、スケジュール、コスト、品質などの目標設定であったり、人材育成、技術獲得のような機能別の目標設定であったりします。このようなプロジェクトの持つ特性は、逆にいえば、経営環境の不確実性が大きくなって、もはや、組織的な業務管理では間に合わなくなってきた現場に対して、従来のラインマネジメントのように経営から現場まで一貫した活動を行うためのマネジメントソリューションを提供する可能性を秘めています。
◆IT業界におけるプロジェクト管理の範囲
たとえば、ITを考えてみましょう。プロジェクト管理の重要性に早くから気づき、導入を進めてきました。初期においては範囲は開発の現場管理でした。ITの場合、ライフサイクル的には成長期から成熟期への移行期にあったため、現場の生産管理が確立しておらず、それを補うという目的もあったわけです。しかし、今ではその範囲は拡大され、
(1)プロジェクトの受注管理
(2)プロジェクトの開発管理
(3)プロジェクト成果のフォローアップ(保守)
という風に、現場の生産の前後まで適用範囲が広がっています。
なぜ、このようにプロジェクトマネジメントの適用範囲が拡張されてきたかと考えてみますと、IT分野では、(1)はもともと戦略性の高い業務で、かつ、不確実性も高いものでした。つまり、案件を受注するかどうかは、その案件が自社の戦略達成にとって意味のあるものなのかという戦略的な判断によります。さらに、受注の段階では業務の内容が明確には決まっていませんので、その後の大きな不確実性を負うことになります。この2つの状況を考えた場合、プロジェクトマネジメントは受注管理において、強力なマネジメントのツールになるわけです。
保守も同様です。ITIL(Information Technology Infrastructure Library) が発表されてからもう20年になりますが、日本でもかなり普及してきました。同時に、ITサービスマネジメントという概念自体も浸透してきたため、保守に戦略性が求められるようになってきました。同時に、やはり、ここでもライフサイクルマネジメントのツールとしてプロジェクトマネジメントが注目されるようになってきています。
プロジェクトマネジメントをどのように適用しているかは、別途、この連載の中で紹介していきたいと思っていますが、とりあえず、戦略との整合性のある、言い換えると、戦略実行に貢献する業務管理としてプロジェクトマネジメントが活用されているわけです。
◆プロジェクトマネジメントによる経営管理の可能性
このような例は他にもあります。もっとも「当たり前」の分野は、経営企画です。経営企画の業務はすべてプロジェクトマネジメントが有効な管理手段となるといっても過言ではありませんが、中でも、戦略管理にはプロジェクトマネジメントは極めて有効です。また、営業マネジメントにもプロジェクトマネジメントは有効だと考えられています。上で述べたITプロジェクトの場合も、単なる受注管理にとどまらず、もっとさかのぼって営業管理にもプロジェクトマネジメントを適用しようという動きがあります。また、逆にIT業界でもみられたように戦略的保守をプロジェクトマネジメントを活用して実現することもさまざまな業界でチャレンジされるようになってきました。また、最近では生産管理というプロジェクトマネジメントとは真逆の分野でプロジェクトマネジメントを適用に挑戦する動きもあります。
いずれにしても、組織全体をプロジェクト型の経営をするためには、今、行われている業務マネジメントに如何にプロジェクトマネジメントを適用するかがカギになってきます。この連載では、最初の切り口として、経営管理へのプロジェクトマネジメントの適用について考えてみたいと思います。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「プロジェクトマネジャー養成マガジン」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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