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PMstyle ほっと一息。小説コーナー

【AT物語】アリス賞3席 『鉄塔の美男、ポートタワー』 著:鈴木道代


◆ポート病
 1990年頃の神戸の街は、とても賑わっていた。私には子供が二人いる。長男は、JR三宮駅と人工島ポートアイランドを南北に結んでいる自動運転のポートライナー太郎。次男の六甲ライナー次郎はJR住吉駅から、人工島六甲アイランドを結んでいる。兄ポートライナーの技術やノウハウを継承し、1990年誕生後から無事故である。
 1980年、世界初の無人運転の新交通システムとして太郎は生まれた。太郎は最先端技術のできるやつと自信満々だが、列車仲間うちでは運転が荒いとの評判である。コンピュータのブレーキング指示コマンドを時たま無視しているようだ。三宮駅で交差するJR神戸線の翔、阪急電車の大介、阪神電車の正人、神戸地下鉄の晴美とは、三宮駅通過時にテレパシー笛でエールや情報を交換している。
 太郎には運転手は乗っていない。運転席が子供たちに大人気である。ある日先頭に座った男の子が三宮駅で太郎から降りたとたん、ポート病になってしまう。ポート病に罹ると、突然元気がなくなり、目がうつろになり、1週間常にぼーっとし、魂を奪われたような状態になるのだ。幼稚園、保育園のママ友の間で、ポート病の噂が広まり、太郎を運行する神戸新交通システム社にはクレームの嵐。太郎はなぜ子供をポート病に罹らせててしまうのか?と悩む。このままでは、太郎の安全性への信頼が薄れ、ひいては無人運転が問題になり、その親である私にも責任が及ぶかもしれない。困ったやつだ!

◆スピード落とせ
 次郎が走る六甲アイランドは住宅街であり、ラッシュ時以外は閑散としている。兄の9年間の運行実績から、スピードを抑制する精度が高く、あまりにも遅いため乗客から「のろま」とのクレームも受けていた。次郎は、兄と比べ華やかさに欠ける自分に劣等感を感じていた。次郎という名前も気に入らないようだ。すまない!
 二人は仲の良い兄弟だ。困った時には知恵を出しあっていた。太郎は、テレパシーで次郎に相談する。次郎は、「太郎がスピードを落さないため、車体の揺れが酷い」との父の愚痴を伝え、スピードを緩めることで、子供の乗り物酔いを防ぐことを提案する。
 太郎はスピードを落とすために、速度指示コマンドを10%オフに変換して運転する。神戸新交通システムでは、スピードが落ちたため太郎を故障と判断し、整備士が運転日誌を持参し太郎の様子を見に来た。コンピュータ制御技術が同様でありながら、スピードに問題がない次郎の運転日誌も比較のために持参していた。太郎は、興味本位で次郎の運転日誌を覗く。そこには見慣れない記号の羅列があった。人間には見えず、列車のみが読み取れる記号文字である。太郎は自分には学がないから理解できないと思い、大介に記号の読み方を教えてもらう。そこには、次郎の思いがあふれんばかりに詰まっていた。兄は三宮駅で複数乗り換えができるのに、自分は各駅停車のJR住吉駅だけ。兄と比べ華やかさに欠ける。などなど。そして、太郎は、弟次郎が自分をだましていたことを知る。
◆翔の悪だくみ
 翔は自分のことをエリートだと思っている。昔は、JRが全国津々浦々を走っていたからだ。現在は神戸線を翔が走っている。並行して東西を走っている大介や正人とは容易にタッグを組みことができそうであるが、コンピュータ制御されている太郎と次郎が邪魔であった。神戸の覇権を握る私の息子であるから、なおさらである。翔はなかなか正体を現さず、太郎の相談にも親身にのっていた。
 太郎は、自分の運転日誌を詳細に眺めてみた。JRトップクラスの運転手鈴木が神戸新交通システムに出向し、ポートライナー走行プログラミングに貢献し、自動運転に支障がないことを確認後、JRに戻ったことを知る。鈴木は創業時には運転席に座り、安全に貢献していたのである。太郎は、安全運転は鈴木のおかげであることに気づく。
 鈴木はJRに戻る前、記念乗車をしてみようと考え、休日に先頭の運転席に座る。コーヒーを飲みながら、車窓からの美しい神戸の海を眺め、感傷に浸っていた。運転手は、これから要らなくなるんだなあ、との不安を思わずつぶやく。その時突然、4歳の男の子がぶつかってきた。コーヒーを座席にこぼす。表面を拭いて綺麗にはしたが、座席内部にシミが残ってしまった。JRと運転手の怨念の固まりが、コーヒーのシミに移り、カーブの振動にてシミから気体が発生し、それを吸うことで、ポート病にかかるのだった。
 次郎の始発駅JR住吉駅は各停しか止まらない駅である。快速停車を条件に次郎はJR神戸線の悪だくみに乗ってしまった。次郎の悶々とした思いを知り、自分の戦略に悪用する姑息なやつだ。実は、JRは全国制覇を狙い通天閣、京都タワー、東京タワーなどのタワー連合から主権を奪い、地域を制覇しようとしていた。そのパイロットケースとして、神戸の街が選ばれた。翔の悪だくみは神戸の覇権を私から奪うこと、そのために、最先端の自動運転システムを崩壊することであった。

◆神戸空港予定地
 太郎がスピードを落としても、男の子はポート病にかかっていた。ある日大介が「ポート病が出たのはいつからなのか」と質問する。太郎は、運転手鈴木が記念乗車をした翌日からであり、乗車した日は神戸空港開港のためにポートアイランド拡張工事着工日であったことに気づく。太郎は、カーブでスピードを落としたり、直線で落としたりしてみた。神戸空港予定地付近のカーブでスピードを落とすと、ボート病にかからないことがわかった。そのカーブでは、かすかにコーヒーの香りがする。鈴木が不安を口にしていたことも思い出した。このカーブでのみ発生するコーヒーの香りの中に、無人運転への怨念が含まれ、男の子に1週間とりつきポート病を起こしているのではないのか。鈴木の無人運転への怨念をなくすことがポート病をなくすことだ。
 鈴木は、JR運転手として復帰し、有人運転で自分達の存在意義を感じていた。太郎は、自分のコンピュータ制御プログラムの中の安全走行のために、鈴木がどれだけ貢献したかをパラパラ漫画で著わし、鈴木の夢の中に送ることを私に頼んできた。異論はないが、絵には自信がない。妻に頼んだ。鈴木は、夢の中で自分の存在意義に気づき、無人運転はこれからの花形だが、高速運転の列車には自分達運転手が必要なことを再確認する。
 怨念の気体が消え、ポート病は発生しなくなった。太郎は、速度指示コマンドの10%オフ運転を2%ずつ増やし、5日間で元のスピードで走行するようになった。JRの全国制覇のためのパイロットケースは1カ月間でのテストであったようだ。太郎が自動運転システムへの信頼を取り戻すことで、テストは失敗に終わり、JRの構想は消えた。

◆神戸マラソン
 太郎は、次郎のアドバイス、大介の質問によってポート病に打ち勝った。次郎の本音も知った。太郎は、運転は一人でしているのではないことに気づく。太郎はポートアイランド、次郎は六甲アイランドのさらなる発展のため、安全運転、心地よい乗車体験を心がけることを誓う。大介達とは、三宮に乗客を安全に運ぶことを誓う。
 今日は、2017年神戸マラソンの日、神戸市役所をスタートし、明石大橋を折り返し、ポートアイランドがゴールである。世界から集まったランナーに神戸市民は、愛を届けている。太郎、みんなを神戸空港、三宮駅へ安全に運ぶんだよ。と私、鉄塔の美男ポートタワーはつぶやいた。

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