◆計画的廃品化
今年最後のPMスタイル考になります。
今年はスマートフォンが普及した年でもありました。アップル社のiPhoneが日本の3つの大手キャリアで利用できるようになり、メディアが盛んに通信品質の比較を行いました。その結果は奇怪で、品質がよいとはどういうことなのかという疑問がわいてきます。
日本には安全神話と同じく、品質神話のようなものがあります。それは工場から出荷されるものは完璧なものであるとか、製品は壊れないといったものです。安全神話が神話に過ぎなかったように、品質神話も神話にすぎません。このことを象徴するのが計画的廃品化です。
今年、若くして亡くなったコラムニストの天野 祐吉さんの遺作となったコラム集
「成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書)」、集英社(2013)
の最初に計画的廃品化という話が出てきます。
計画的廃品化とは、計画的に製品の価値をなくしてしまうことを意味しています。製品の価値(寿命)が永遠であればあっという間に市場は飽和してしまい、また、新しい技術による恩恵を受けることもできなくなります。だから、製品は計画的に廃品されるべきだという考えです。
前者の象徴とも思えるのが電球です。電球はエジソンが発明して以来、百数十年経っている技術で、封入する気体こそ変わっていますが、機能や技術は変わっていません。その電球は、電球は数十年前に業界をあげて1000時間で切れるように寿命が設定されたそうです(今は3000時間だと言われています)。これは市場を飽和させないためです。
ここ何年かでLEDライトが急速に普及してきて、4万時間の寿命で、電球の数十倍持つと言って得だと売っています。一見、すばらしい技術の進化のように思えますが、ひょっとするとこれは、すべて計画的された廃品化なのかもしれません。売値とユーザーの価値と電球(蛍光灯)との比較で寿命を決めているような気がしなくもありません。蛍光灯が1万時間といわれますので、蛍光灯の4倍になっているわけですが、価格もだいたいそんなところですね。
ところがLEDと電球が違うのは、技術的な成熟度です。LEDは故障が絶えず、また、照らし方にも課題があり、まだまだ、技術的に改良の余地があります。4万時間も寿命があるとそれらの課題を解決する技術発展の恩恵を受けることが難しくなります。
そこで出てくるのが計画的廃品化という話なわけです。
◆機能、品質、欲望の廃品化
製品の計画的廃品化という概念は米国の社会学者ヴァンス・パッカードが
「浪費をつくり出す人々」(ダイヤモンド社、1961)
という本で指摘した概念で、
1.機能の廃品化
2.品質の廃品化
3.欲望の廃品化
の3つの廃品化があるとされます。
機能の廃品化は、より良い機能を持つ新製品を市場にだすことにより、現在市場に出回っている商品が流行遅れになることです。
品質の廃品化は、耐用年数が長いものが作れる技術がありながら、あえて「売る・消費させるために」耐用年数が短い商品を作ることです。電球の例はこれです。
欲望の廃品化は、品質・機能が健全な商品なのに、スタイルの変化等により、大衆に心理的に好まれなくなる、望まれなくなることにより「古い」と認識されてしまうように仕向けることです。
なお、パッカードは、マーケティングの原理原則について
1.もっと使わせろ
2.もっと捨てさせろ
3.ムダ使いさせろ
4.季節を忘れさせろ
5.もっと贈り物をさせろ
6.組み合わせで買わせろ
7.きっかけを投じろ
8.流行遅れにさせろ
9.気安く買わせろ
10.混乱を作り出せ
というパッカードの10訓というのを残しており、こういう思考の持ち主であることは頭に入れておいてください。
ちなみに、コンサルタントであるジェラルド・ワインバーグたちも、
「ライト、ついてますか―問題発見の人間学」(共立出版、1987)
という本で議論しています。技術系の人はこちらの方が読みやすいかもしれません。
◆機能を陳腐化する
機能の廃品化はイノベーションによってもたらされます。
機能の廃品化は比較的自然に行われてきましたが、そううまくは行かないケースもあります。今年は、マイクロソフトが2001年に投入したWindows
XPのサポートをついに打ち切るという発表がされました。ソフトウエア資産の問題はあれ、この分野で10年以上使われる製品というのはすごいなと思う一方、Windows
XPの歴史は機能の廃品化に失敗し続けた歴史でもあります。サポート廃止を発表する否や、他のベンダーからサポートだけをするサービスが出てきたりしており、いまだに機能の廃品化はうまく行っていないようです。
ついでにもう一つ、今年はフューチャーホーンの普及の年でもありました。機能の廃品化を意図して、スマートフォンをどんどん投入していき、かつ、欲望の廃品化も仕掛けたわけですが、うまく行きませんでした。フューチャーフォンがまた盛り返してきています。これも機能の廃品化に失敗する事例になるのではないでしょうか。
◆壊れる製品を作る
品質の廃品化はモノづくりの立場からすれば、あってはならないことです。ただ、ここにも一分の理があるとすれば、費用と技術進化の問題です。品質の廃品化で真しやかにいわれるのは、○○社の製品は保証期間が終わると壊れるとかという話です。
真実のほどはわかりませんが、確かに保証期間の後で故障すると困ることがあるのは事実です。もう10年近く前の話ですが、20万円強のパソコンが保証期間終了後に故障し、修理の見積もりを取ったところ15万円だったことがあります。もちろん、廃品しました。家電だとここまで価格構成比率の高い部品はないかもしれませんが、やっぱり困るでしょう。
たとえば、スマートフォンのように技術の進化がある製品では技術の恩恵に被るという視点から品質の廃品化が必要かもしれませんし、家電やPCなどはさほど大きな技術進化はなくても、こういう事情を考えると品質の廃品化が必要なのかもしれません。
◆飽きさせる
最後の欲望の廃品化は以前はアパレルなどファッション性の高い製品だけでしたが、今はいろいろな製品で行われています。この5年くらい、工業製品やサービスでも「デザイン」というのが重視されるようになってきています。これは結構重要な部分で、欲望の廃品化を計画的に(メーカ主導で)行おうとするとデザインでユーザーを支配することが鍵になります。服と同じ理屈で、メーカーがこのデザインはもう古いと言ったらユーザーに信じてもらう必要があるわけです。
欲望の廃品化は違った視点で仕掛けられているような製品もあります。
例えば、ガラパゴス現象というのがありますが、これは機能の問題ではなく、機能をファッション的に捉えた結果、起こった現象ではないかと思われます。その機能を使おうと使うまいと、新しい機能がついていないと「カッコ悪い」とか、「話題に乗り遅れる」といった理由で買い替えをする流れを作ったために生まれた現象だと思われます。
もちろん、本質的な機能性のデザインという問題もありますが、一義的にはデザインは欲望の廃品化を目論んで行われているのではないかと思うわけです。
このようなやり方をする背景にはサスティナビリティが重視されるようになって、品質の廃品化ができなくなってきたという事情があります。Windows
XPがどうかはわかりませんが、長持ちする製品が評価されるようになったのは確かでしょう。
◆良い製品とは
このように考えていくと、良い製品とはどういう製品なんだろうという疑問がわいてきます。日本のモノづくりが考えるのは品質の廃品化が起こらない製品です。いわゆる壊れにくい製品です。
壊れにくい製品がよい製品なのでしょうか?保証期間が終われば壊れる製品は悪い製品なのでしょうか?
現実に壊れないものがいいという価値観は未成熟な市場では評価されていますが、成熟した市場ではさほど評価されません。買い換えるまでの間、壊れないでくれれば十分なのです。
機能の問題もあります。たとえば、携帯の機能を使いきる人は皆無、ビデオレコーダーの機能を使い切る人は皆無なととよく言われます。それどころか、費用対効果を重視する生産財でも、導入した情報システムの80%の機能は使われないと言われます。
使い出して、この機能が足らないと不満を持つ製品と、使わない機能がある製品はどちらがよい製品なのでしょうか?
デザインの問題もあります。いくら良いデザインをしてもファッション性にはあらがえない部分があります。一方でiPhoneのデザインは5年間、あまり変わっていないといった現実もあります。これはなぜでしょうか?
来年はそんなことをじっくりと考えてみる1年にしたいと思います。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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