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第46話:失敗を認めるマネジメント(2012/05/28)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆イノベーションと不確実性

イノベーションへの関心が高まる中で、デザイン思考とか、アジャイル開発とか、リーン製品開発などのマネジメント手法が注目されています。現場で活用している人たちはそれなりの手ごたえを感じていると思いますが、組織としてみれば、なかなか、これらの手法は受け入れられない。プロジェクトマネジメントが、現場は乗り気ではない中で、組織として推進していったのと対照的です。

この違いを説明するキーワードは、不確実性です。それは、プロジェクトマネジメントは不確実を計画段階の事前検討で解消しようとします。不確実性があることは、できるだけやらないようにするわけです。これに対して、イノベーションで使われるマネジメント手法は不確実性の解消を実行しながら行います。

実行しながら、不確実性の解消を行うというのは、どういうことでしょうか?平たくいえば、分からなければやってみて決めるということです。ここに非常に重要な問題が潜んでいます。


◆日本企業は失敗に寛容?

日本の企業は失敗することに寛容か?という議論をすると、意見が分かれることがよくあります。なぜ、意見が分かれるかというと、失敗することに寛容という意味の問題です。日本では、失敗しても明確な形で責任を取らされたりすることはありません。その意味で、失敗には寛容です。

ただし、この背景には、担当者だけが決めているわけではないという背景があります。プロジェクトマネジメントをみれば分かるように、計画の段階でプロジェクトは組織と議論し、計画を決めていきます。注意しておきたのは、この活動は、プロジェクトが作った計画を承認するというだけの活動ではありません。計画作業はプロジェクトが行いますが、意志決定は一緒に行います。つまり、共同責任であり、ゆえに、失敗しても、許されるわけです。

ところが、これには条件があります。成功しようとして、一所懸命やることです。ここが曲者で、失敗するかもしれないことは、たとえ、その失敗が意味のあることであったとしても、実行をすることが許されないことが多いのです。この意味で失敗を許している、つまり、何かを学ぶために意図的に失敗することを許している組織は、極めて珍しいのが実態です。

また、失敗から学ぶことについても、日本の企業は世界中のお手本になるような取り組みをしてきました。非常に貪欲に学びます。しかし、ここでも、「結果として失敗した」事例から学んでいるにすぎません。これをやると失敗するかもしれないと考えて失敗し、その結果から学ぶということはあまり、しません。

よく言えば失敗する可能性があることはせずに、確実にうまくいく方法で対応するというのは、商品のスペックにしろ、作業の方法にしろ、合理的です。


◆失敗できない症候群

しかし、ここにきてこの合理性が足を引っ張っています。イノベーションをしようとすると、やってみないと分からないことが出てきます。世界中のだれもが経験していないこともあるわけです。このようなことをいくら机の上で検討してもいてもわからないわけです。さらにいえば、それが技術的なブレークスルーであれば、「実験室」という奥の手もあります。実験室は失敗しても唯一の場です。

ところが、いま、求めらているイノベーションは技術革新ではなく、既存の技術を背景に、如何に高い付加価値を生み出せるかというイノベーションです。クリステンセン博士のいうところの「破壊的イノベーション」であり、ビジネスモデルイノベーションだということもできます。

このようなイノベーションでは、実験室を使うことはできません。実際にユーザに使ってみてもらう、実際に販売してみるといった、一種の社会的実験が必要だからです。

ところが、日本の企業は、とりあえず、販売してみよう、ダメだったら、そこで得られた情報に基づいて検討をして次の商品を展開しようという発想がなかなか、できません。あるいは、ユーザに使ってみて貰って、ダメ出しされたらもう一度、考えようという発想ができません。

もちろん、現場はそれが近道であることは感覚的に分かっているのですが、現場から距離のあるマネジャーはこの感覚が分かりません。だから、失敗する可能性が高いのであれば、失敗する可能性を減らす検討をしなさいということになるわけです。


◆計画的に失敗する

問題は、冒頭に挙げたデザイン思考、アジャイルなどのチャレンジは、すべて、計画的に失敗することを求めていることです。これらの手法の原理を簡単にいえば、まず、分からないことをはっきりさせます。その上で、分からないことについてはやってみて(失敗の計画と立て)、その結果から得られる知見で、だんだん、答えを明確にしていくのです。もちろん、やってみたことがうまく行かないケースもあります。というより、うまく行かないケースの方が多く、一つ失敗するたびに、一つ答えに近づいたと考えることが必要なのです。

このプロセスのポイントは、一旦、ステークホルダと合意した目標を変えないことです。だからイノベーションなのです。失敗しないように、予定調和で目標を変えてしまったのでは意味がないのです。

では、なぜ、失敗を許すことができないのでしょうか?一定のポストに就くと人間は保守的になるという一面があることは間違いありません。また、風土の問題だという意見もよく聞きます。これも当たっている部分があるでしょう。

ただ、もっと本質的な問題は、失敗を許すとマネジメントができなくなることです。たとえば、開発スケジュールは大丈夫なのか、開発コストは大丈夫なのかといった問題がでてきます。また、もっと難しいのは、その開発が可能性のあるものかどうかを、どの時点で判断すればよいかが分からないという問題です。可能性がないものにリソースを投入することはマネジャーとしてはやりたくないわけですが、その判断ができないのです。

このような問題を解決して、失敗を許す。組織として、イノベーションを成功させるには、失敗を認めるマネジメントを確立する必要がありそうです。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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