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第15話:目的と手段(2010/03/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆組織の中の目的と手段の関係は「入れ子」になっている

「目的」と「手段」をはき違えないというのは、ビジネスマンであれば一度は言われたことがあるのではないかと思います。個人を中心にみれば、この議論はそんなに難しい議論ではありません。しかし、組織やチームの中で考えると、結構、複雑な議論になることがあります。

プロジェクトで新商品を開発するとしましょう。プロジェクトにとっては、商品を開発することは目的です。そのための手段として、技術やプロセス、あるいはスキルといったものがあります。

ところがマーケティング部門にとっては、商品を開発すること自体は目的ではありません。市場シェアを拡大するとか、競合に勝つといった目的があり、商品を開発することはそのための手段に過ぎません。

経営にとっても同じことです。顧客の役に立つ、社会の役に立つといったことが目的かもしれませんし、利益を上げて、従業員に報いる、株主に配当をするといったことが目的かもしれません。その手段として、市場シェアを拡大することや、競合に勝つといったことがあります。

このように組織の中では、現場の目的は事業部門の手段、事業部門の目的は経営の手段というように、目的と手段が入れ子になっていることがよくあります。これが目的と手段を考える難しさの原因です。


◆現場だけではプロジェクトの目的は決定できない

では、現実問題としてどのように考えればよいのでしょうか?たとえば、現場のプロジェクトの目的が「株主に貢献する」ではプロジェクトの士気は上がりません。しかし、商品を作ることだけを目的に作れば、過剰機能のモノを作ることになりかねません。

現場のマネジメントが優れている日本では、ここに「顧客満足」という概念を持ち込みました。「顧客を満足させるものを作る」という目的の設定をすれば、過剰機能の牽制にもなりますし、品質向上への原動力にもなります。また、経営と現場の距離をおいたまま、言い換えると現場独自の考え方で進めることができます。

良いことづくめのようにも思えるのですが、実はこのやり方には落とし穴があります。「顧客満足とは何か」という定義ができていないため、過剰なサービスレベルを目指してしまうことです。そして、自発的に過剰なサービスを提供するのであればまだしも、それを通り過ぎて、「言いなり」になり、さらには「顧客が決めてくれないと進まない」という最悪の事態に陥ります。

そもそも、顧客に対するサービスレベルというのは、現場で決める問題でなく、「経営の根幹」に関わる問題です。それを現場だけで決めようとするところに無理があります。品質の問題と同様、現場でサービスレベルを決めれば、できる限りサービスするという答えしかあり得ません。

このような誤解が生じている理由は、現場が顧客への最前線にあるためです。現場はセンサーで、事業部や経営というコンピュータに情報を伝えることが役割です。そして、そのような情報を受けたコンピュータがどのようなレベルのサービスを提供するかを決め、現場に落とします。そして現場はそれを方針として、最善を尽くします。経営の基本的判断は、無制限なサービス品質ではなく、顧客の維持とサービス品質(コスト)のバランスであることはいうまでもありません。このバランスは現在のところ、「予算」でコントロールされています。サービスに必要な予算を抑えればサービスのレベルが下がり、予算を増やせばサービスのレベルも上がるという考え方で管理されています。


◆入れ子を使って、戦略的な目的を現場に伝えていく

ところが、このような管理は「顧客は同じようなサービスを望んでいる」という前提に立っていますので、現代のように顧客の求めるものがばらつき出すと現実的な方法ではなくなります。そこで、予算による統制に代わる方法が必要で、それが最初に述べた目的と手段の連鎖なのです。つまり、経営トップが目的を決め、手段を講じます。顧客満足が目的であれば、「顧客を満足させるとはどういう状況を創ることか」を明確にすれば、それを実現することが手段になります。たとえば、「他社に浮気をしながらも、結局、当社に戻ってくるようなサービスの提供」という手段もあり得ます。

そして、この手段を実行に移すには、事業レベルでは何を目的すればよいかを考えます。たとえば、「コストパフォーマンスのよい商品の提供」、「大局観のあるマーケティング」、「商品に頼らない顧客との関係構築」などが目的としてあげられます。たとえば、「コストパフォーマンスのよい商品の提供」という目的に対しては、「顧客のコストパフォーマンスの基準の把握」、「コストパフォーマンスの基準に合う商品の開発」といった手段が出てきます。

さらに、これらの手段が実行レベルの目的になり、「コストパフォーマンスの基準に合う商品の開発する」といった目的を持ったプロジェクトが展開されていきます。そして、そのプロジェクトではその目的の達成の手段としてプロジェクトの計画が作られます。

このように組織の中では目的と手段を入れ子に組み合わせることによって、トップの考え(経営戦略)を現場が実現していくことができるわけです。これが戦略実行マネジメントです。

このように書いてしまうと、如何にも論理的に展開されていくような印象を受けるかもしれませんが、目的は上位の手段から論理的に導出されるわけではありません。たとえば、「他社に浮気をしながらも、結局、当社に戻ってくるようなサービスの提供」という手段から、事業レベルで考えられる活動の目的はたくさんあります。その選択肢から、「決める」ことが事業責任者の仕事になります。同じように、事業の想定する手段の中から、目的を捜すことがプロジェクト責任者の仕事になります。

重要なことはさまざまなレベルで、目的の決定を適切に行うことが、現場の成果を経営に反映する最大のポイントになることです。そして、これこそが、プロジェクトに対する最高の支援だと言えるのではないでしょうか?

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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