◆PMOスタッフのコンピテンシー
前回は、PMOのスタッフが持つべきコンピテンシーについて述べた。今週はそれをどのように育てるかを議論したい。
現業部門のスタッフというのは非常に難しいものがある。コーポレートスタッフはまさに組織を動かしている人であるが、PMOに限らず、現業部門のスタッフは支援業務的な色合いが濃い。支援というのは難しい概念である。自分が業務を実行するわけでもない。ラインマネジャーのように指示をして、任せるわけでもない。プロジェクトに対して、組織図の上には出てこない影響を与え続ける必要がある。
前回、重要なものを一つ挙げるとすればリーダーシップだと述べたが、同時に3つのスキルの重要性を指摘した。一番目は対象業務スキルとしてのプロジェクトマネジメントスキルである。PMOのコンサルティング領域はいうまでもなくプロジェクトマネジメントであるので、このスキルがないことには前に進めない。二番目はプロセスマネジメントのスキルである。標準プロセスを定義し、メトリクスを設定し、プロセス改善の指揮をしていく能力である。三番目はマーケティングスキルである。つまり、プロジェクトやステークホルダがどのようなサービスを必要としているかを分析し、それらの情報に基づいて限られた資源をどのようにサービスに展開していくかを練り上げるマーケティングスキルである。
◆PMの経験は必須!
まず、最初の観点からはPMO人材には、小さなプロジェクトでよいので、プロジェクトマネジャーの経験をさせることが必要である。PMOの業務そのものを行うためには、PMP程度の基本知識があれば十分だと思われる。また、実際に、品質管理の専門家などでプロジェクトマネジメントの経験なしにPMOの仕事をしている人も少なくないが、PMOの支援の中でどれだけ「リアリティ」、「現場感覚」がもてるかはサービスの質を決める重要な要素であるので、経験に越したことはない。
そのように考えると、キャリアとしてプロジェクトマネジメントのキャリアからPMOというのが望ましいと思われる。しかし、世間でよく言われるように、PMOとプロジェクトマネジャーのダブルキャリアというのは望ましくない。上に述べたように、プロジェクトマネジャーとPMOリーダーの共通点は基本的な知識と認識作りのための経験であり、一定のプロジェクトマネジメント経験ののちには、PMOとしての専門キャリアを歩んでいくべきである。
◆プロセスマネジメントスキルはトレーニングで
そこで問題になるのが、専門スキルである。これは一言でいえば上に述べたように、プロジェクトマネジメントに対するプロセスマネジメントのスキルである。これはある程度、トレーニングで身についていくと思われる。例えば、実テーマを題材にしたシミュレーション型の研修、ワークショップなどである。ただ、プロセスマネジメントのスキルの中で、論理的に割り切れないスキルがある。それは、人が絡んでくる部分である。
例えば、スケジュール遅れが目立っていれば、当然、生産性に関するメトリクスを入れるが、ここで注意する必要があるのは、メトリクスを入れることによって逆に生産性が下がってしまうことがある。計測負荷といった話ではなく、「やらされ感」が生じ、プロジェクトへの動機を下げてしまい、それが悪影響を及ぼすようなヒューマンファクターである。
このような問題は、トレーニングだけで解消するのは難しい。やはり、業務の中でしっかりと現場をみて、体感して、獲得していくしかないように思われる。
◆プロセスマネジメントスキルを本物にするマーケティングスキル
が、この問題に対するある程度の形式的なアプローチとしてマーケティングがある。闇雲に現場を見るよりは、マーケティングの基本知識を身につけた上で現場に出て、現場の声をマーケティング的な視点から分析していくことが重要だろう。
自分たちの施策をプロジェクトに対して受け入れてもらうためのリーダーシップはこれらの経験によって醸成されていく。同時に、トレーニングによって身に付けることができる部分もある。それはファシリテーションのようなコミュニケーションスキルである。これらに併せて取り組んでいくことが望まれる。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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