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第14回 PMOの設立(6)〜PMOの戦略性とは何か(3)PMOが戦略的活動を行うために重要なもの(2006.08.07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに
ちょっと間があいたが、前回は、PMOの戦略的活動のイメージを、トラブルリカバリーを例にとって話をした

 続々・PMOの戦略性とは何か?


◆部分的な戦略性と統合的戦略性

PMOが戦略性を持つために重要なものはなんだろうか?逆にいえば、今は、なぜ、戦略性がないのかということになる。

まず、最初に考えたいのは、個別に見ていくと、戦略性のある活動をしている組織は多い。例えば、生産性の目標を決め、コストオーバー、納期遅れ、などをメトリクスにして、地道にプロジェクトマネジメントの改善に執念を燃やしている組織は決して少なくない。

ところが、このような活動が思ったような効果を発揮していないケースが多い。品質改善活動を考えてみれば分かるが、そもそもこの種の改善活動は足の長い話であり、経営的な効果が出てくるスピードは遅い。目だった成果がでるというよりも、改善そのものを目的としてやっていると、いつの間にか、それが経営的な強みになっているといったケースの方が多いようである(もちろん、予算が絡む話なので、名目上の経営改善目標はある)。


◆ある品質管理部長の話

ある企業の品質管理部長が言われていたことで非常に印象に残っていることがある。「納期遅れの撲滅に励んでいるが、これがどのように競争上の意味を持つかはこれからの課題だ」。この組織の納期遅れ撲滅活動そのものは相当戦略的なものである。問題点をきっちり洗い出し、課題設定をし、課題の優先度をつけて、マスタープランを作り、3年間かけて納期遅れを目標までに持っていこうとするものだ。

これは日本人の強みでもあるし、弱みでもあると思うが、品質はよくて当たり前、納期は守って当たり前と思っている人が多い。BSE騒動などを見ていると、やはり、社会的なコンセンサスだと考えるべきだろう。だからこそ、よくも悪くも、品質や納期遅れをターゲットにして、息の長い、執念を持った活動ができる。品質をよくすればきっとよいことがある、納期遅れを減らせばきっとよいことがあるというオプティマティズムを持っている。これは改善活動がうまく行くには重要なことだ。

「楽観主義で行こう


◆トップダウンアプローチは不要か?

これを否定する必要はないが、問題は上に書いた事業部長が言うとおり、この特性をどのように使っていくかだ。米国流の発想だと、トップダウンにBSCのような手法で、プロジェクトマネジメントの戦略目標へのコミットメントを明確に定義し、それをベースとして改善活動をするということになる。狭い意味でいえば、これが戦略的PMOのあり方であり、そのツールとして「ポートフォリオマネジメント」や「プログラムマネジメント」があるという位置づけができる。その意味で、このような問題は発生しないのかもしれない。


◆TQCの歴史

このような問題を考えると、どうしもてTQC(total quality control)の話を思い出してしまう。ご存知ない方もいらっしゃると思うので、簡単に説明しておく。

TQCという言葉は、1950年代に米国で生まれた言葉である。これも、GEの発明の一つで、当時、GE社の品質管理部長だったA.ファイゲンバウム氏が

「最も経済的な水準で、顧客を十分に満足させるような製品を生産するために、企業の各部門が品質開発・維持・改良していく努力を総合的に調整すること」

という定義とともに導入した概念である。

1960年代に日本の製造業はこれをこぞって導入しようとする。TQCを導入することによってそれまで工程に対して個別に行っていたQC活動を統合するのだが、その方法は、「製品提供の全プロセスで総合的・調整的に品質管理を行う」ファイゲンバーム式ではなく、現場作業者のQCサークルを中心にした現場密着型の活動であった。

結果として、1980年代には「良い製品を、より早く・安く」が実現され、国際競争力の源泉になっていった。ファイゲンバームはこれを「日本型TQC」と命名した。

しかし、この優位性は長く続かない。一つの原因は90年代になってから、ISOという概念が英国で出て普及していく中で、日本がTQCとして取り組んできたことの独自性がなくなってきたという面があると思う。しかし、それよりも大きいのはボトムアップアプローチの限界である。顧客ニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短くなると、このようなボトムアップアプローチではもう太刀打ちできないという限界が見えてきた。

米国では、そのような日本の盛衰を横目で見ながら、学ぶ点は学び、自分たちにあったトップダウン型の総合品質管理手法としてTQM(total quality management)を確立していく。TQMは「経営品質」の実現を実現するための手法である。日本も90年代の後半にはこれに対応していくような方向に向かおうとするが、トップダウン型でもなく、現場も弱くなりという形で、かなり中途半端な状況で現在を迎えている。

プロジェクトマネジメント活動も品質管理の活動とよく似た側面がある。現在、PMの導入の進んできたIT企業を見ていると、PMBOK(R)がTQCとダブって見えてしまうのだが、どうだろうか?



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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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