◆PMOの役割は成熟度によって変わる
前回まで、プロジェクトスポンサーの役割について概要を述べた。もう少し、詳細に何をすればよいかはそのうち説明するが、次に今までに述べたスポンサーの役割を前提にしてプロジェクトマネジメントオフィスというのは何をすればよいかについて説明していきたい。
PMOの役割を一言でいえば、組織のプロジェクトマネジメントの能力を上げることである。一般的にいえば、そのために何をすればよいかは組織のマネジメント能力のレベルによって異なる。
とりあえず、OPM3(R)やCMMで使われている5段階の成熟度レベルの基本的な考えを使ってそれぞれのレベルで何が必要かを明示していこう。OPM3(R)やCMMに限らず、品質改善であれ、工場の生産性向上であれ、プロセスと呼べるものであれば成り立つパターンが以下のものである。
◆場当たり的レベル
まず、最初はプロセスをそのプロセスにかかわる個々の人がそれなりに工夫して運営しているレベルである。たとえば、プロジェクトマネジメントであれば、プロジェクトマネジャーが個人の考えでプロジェクトマネジメントを行っているレベルである。これを「場当たり的レベル」と呼ぶことにしよう。気をつけてほしいのは、プロセスがないわけではないし、おそらく、個人のレベルでは再現性があったり、あるいは、改善されていくという点である。あくまでも場当たり的というのはあくまでも組織としての視点であって、プロジェクトマネジメントや営業プロセスのように個人への依存度が強いプロセスにおいては必ず否定できないものがある。しかし、それぞれの仕事が成功するかどうかを組織が判断することはできない。その意味で、管理されていない。また、プロジェクトの場合にはメンバーはそのプロジェクトマネジャーのやり方を受け入れるかどうかも分からない。さらに、開発プロセスや工場のラインのプロセスなど、共同作業を前提としたプロセスでは、何もマネジメントされていないに等しい。
◆標準化されたレベル
次のレベルは、標準的なプロセスが決まったというレベルである。この段階では単に標準を決めているだけで、組織として同じプロセスで仕事をしているという段階である。このレベルを「標準化されたレベル」と呼ぶことにしよう。プロジェクトマネジメントであれば、プロジェクトチームは同じやり方でベクトルを揃えて仕事をしているが、プロジェクトが成功するかどうかは終わってみないと分からない。
◆計測化されたレベル
次のレベルでは、標準的に定められたプロセスが計測され、可視化される。これを「見える化されたレベル」と呼ぶことにする。プロジェクトマネジメントでいえば、プロジェクトの進捗がきちんと管理されており、プロジェクトが成功するか否かは途中である程度の予想が可能になるような状態である。
◆管理されたレベル
計測結果に基づいて、標準の改善によるパフォーマンスの向上を図ったり、あるいは、個々の仕事に対して組織として整合のある支援ができるようになる。このレベルを「管理されたレベル」と呼ぶ。ここまでいくと、プロジェクトの成功はプロジェクトマネジャーやプロジェクトチームの言葉だけではなく、プロセスの効率をよくする(間接的支援)、プロジェクトのパフォーマンスがあがるような人材投入をする(直接的支援)というような支援で、組織としてある程度コントロールできるようになる。
◆継続的改善レベル
最後のレベルでは、プロセスの運用者自身によってプロセスの改善が継続的に行われる。つまり、プロセスを実行している中で、作業者自身が効率や生産性、品質の悪い部分を見つけ出し、それを改善するような提言をしていき、それを組織全体が受け入れるという改善サイクルが確立された状態である。このレベルを「継続的改善レベル」と呼ぶことにする。プロジェクトマネジメントでいえば、プロジェクトマネジャーやプロジェクトチームで独自に手法を考えたり、フォーマットを改善したり、あるいは、ツール類の運用を工夫し、それを標準にきちんと反映していくような状況である。
さて、では、PMOというのはそれぞれのレベルで何をすればよいのだろうか?それ以前の問題として、どの段階で設立するのが望ましいのか?という問題もある。
(次回に続く)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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