第36回 なぜ、スイスの時計産業は壊滅したか(2014.05.14)
◆時計におけるパラダイムシフト
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イノベーションとパラダイムの関係で有名な事例はいくつかあるが、もっとも有名な事例は時計のパラダイムシフトだろう。多くの人はぴんときたと思うが、機械式の時計からクオーツ時計にパラダムムが変わった。
1960年代までスイスは圧倒的な時計王国だった。数字を見るとよく分かる。
販売個数ベースのシェア 65%
利益ベースのシェア 80〜90%(推理)
それまでスイスは最高品質の自動巻きの腕時計において、イノベーションを追求していた。ところが、1970年に入り、時計作りのルールが変わり、機械時計から電子時計の時代になった。1981年までに時計作りに携わっていた6万2千人のうち5万人が職を失った。1980年の数字見ると
販売個数ベースのシェア 10%以下
利益ベースのシェア 20%以下
になった。スイスに変わって台頭してきたのが日本である。1960年代にすでに品質ではスイスと肩を並べていたものの、世界でのシェアは1%以下だった。ところが80年代になると、33%以上のシェアを占めるに至った。
◆イノベーションのタイミング
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時計のパラダイムシフトが有名になったわけは、実は、クオーツを発見したのはスイスのヌシャルテ研究所だった。それをスイスのメーカーに持ち込んだが時計とはみなされず、1967年の世界時計会議に展示されたクオーツ時計に飛びついたのが日本のセイコーで、その後、上に述べたような躍進を果たした。
この例のようにイノベーションを継続的に行っても、パラダイムが変わっていることに気が付かないと全くの無駄な投資になる。逆に新しいパラダイムでのイノベーションに気づくことは非常に難しい。だからイノベーションのタイミングは難しい。別途、考えたいと思っているが、イノベーションにタイミングで失敗した事例は多いのだ。
前回紹介したジョエル・バーカーは「パラダイムの魔法」の冒頭に21世紀に活躍する企業の要件として
・卓越
・イノベーション
・先見性
という3つを挙げているが、イノベーションと並んで重要なのが先見性なのだ。
たとえば、ソニーのウォークマンやアップルのiPhoneには先見性があり、先見性に基づくイノベーションが卓越をもたらしている。
◆パラダイム曲線
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ジョエル・バーカーによると、パラダイムにはパラダイム曲線と呼ばれるものがあるという。新しいパラダイムが出てくると3つのフェーズが生まれ、そのパラダイムで行うことができる問題解決の量が変わってくる。
最初のフェーズ(A)は問題解決のルールを手直ししていく段階で、新しいルールを理解できるまでの段階である。いくつかの成功例は出てくるが、問題解決のペースは大きく変わらない。
ルールが理解されるとフェーズBに入り、新しいパラダイムを使って解決できる問題を急激に見つけ、素早く解決できるようになる。ここでパラダイムは一挙に開花し、そのパラダイムで解決できる問題が飛躍的に増える。
その時期が終わると、フェーズCに入り、問題解決のペースが落ちる。難しい問題ばかり残っているからだ。
◆パラダイム曲線のどこでイノベーションを起こすのか
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パラダイム曲線を用いて説明すると、イノベーションは必ずしもフェーズAを創ることではない。
時計の例では、フェーズAはスイスで起こった。ところが、フェーズBでイノベーションを起こし、ビジネスとして成功させたのがセイコーだった。
この議論は製品や技術ライフサイクルにも似ている。製品ライフサイクルは
揺籃期―成長期―成熟期―衰退期
と推移する。イノベーションとして成功しやすいタイミングは揺籃期ではなく、成長期である。つまり、製品に対する認識(ドミナントモデル)が固まったところでイノベーションを仕掛けたところが有利である。
◆考慮すべきこと
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ただし、この話にはもう一つの側面がある。ソニーのウォークマンがそうだが、フェーズAで新しいパラダイムを自ら開発し、Bで成長させると、後続はほぼ太刀打ちできないということだ。
パラダイムを生み出した企業がインクリメンタルイノベーション(継続的改善)を続けるためだ。そのような企業がある分野では、新しいパラダイムを生み出すしかない。ウォークマンであればそれをやったのがアップルで、歩きながら音楽を聴くためのルールを、「好きな音楽を選んで持ち出す」から、「すべての音楽を持ち歩く」というパラダイムに変えることにより、ソニーを凌駕した。
【参考文献】
ジョエル・バーカー(内田 和成序文、仁平 和夫訳)「【新装版】パラダイムの魔力〜成功を約束する創造的未来の発見法」、日経BP社(2014)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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