第16話 イノベーティブリーダーの思考法(8)〜捨てることから始める(2013.08.13)
◆なぜ、「足らない」のか
イノベーティブであるためのもっとも基本的な考え方は「捨てる」こと、「止める」ことから始めることだ。
イノベーションへの取り組みの議論をすると必ずでてくるのが、今やっていることで手がいっぱいで、「時間が足らない」、「やる人がいない」、「予算が出ない」といった意見である。
現実はその通りなのだろうが、しかし、イノベーションに対する認識が誤っている。
ドラッカーが、マネジメントの中で
イノベーションの戦略の第一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的、かつ体系的に捨てることである
といっている。捨てることを忘れ去ったままでイノベーションへの取り組みの議論をするのはナンセンスである。新しいものを生み出し、経営の中で活用していくということは、古い経営的な価値のなくなったものは捨てるということである。これは、事業レベルだけでなく、市場、製品、機能はもちろん、サプライチェーンなどあらゆる経営資源について言えることだ。
◆アップルの「捨てる」
ちょっと脱線するが、最近、アップルの経営を週刊ダイヤモンドの記者がノンフィクションとして書き、話題になっている。
「アップル帝国の正体」(文藝春秋社)
ビジネス書というよりはノンフィクションとしてよくできているのでぜひ読んでみてほしいのだが、この中にiFactoryという概念が出てくる。アップルの製品を支える部品メーカである。アップルは調達先に対して、巨額の投資を行い、すざましい統制を行うだけではなく、自分たちの製品の収益率や品質を上げるためには平気で捨てる。
イノベーションを続けていくには現状にしばられない態度が必要なのだろう。昔から、日本企業がなぜ、iPhoneを作れないのかというなぞかけがあるが、この姿勢に尽きるのではないかと思う。
このようなベンダーマネジメントに関してはアップルの専売特許というわけではない。たとえば、自動車業界はバブルの崩壊後に、グローバル展開をにらんだ下請けの整理を大々的にやったし、それが功を奏して高い収益性を保ちながら、新しい技術を組み込んだ自動車をどんどん世に出している。やはり、捨てることの重要性を物語るものだろう。
◆今、求められている成長
さて、話を元に戻す。
戦後、日本は成長期にあった。そしてバルブの時期を境にして、成長期は終わり成熟期に入った。どのような時期でも成長は必要であるが、成長期の成長と、成熟期の成長は違う。成長期の成長は捨てる必要がない成長である。人をどんどん雇い、設備投資を行い、新しい製品を作って、売っていけばよい。市場そのものが拡大していくので、そんなやり方をしても売り上げは伸びるし、利益も上がる。
ところが、成熟期の成長は捨てなくては成長できない。
つまり、売り上げや、収益に対して効率の悪いものは捨てて、効率の高い新しいものを生み出し、経営の構造を変えていく。これによって売り上げが伸びる、収益率が上がるといった成長をしていく。
この成長においては、人も総数を増やすことは考えにくい。人材にも新陳代謝が必要である。単純にいえば、パフォーマンスの高い人を雇って、パフォーマンスの低い人を放出する。古い製品を捨て、それに伴って人材の新陳代謝を計る。これで時間の問題も解決する。こういう発想が必要である。
◆イノベーションは手段である
ここまでいうと、今の日本の企業に何が足らないかはっきりすると思う。この議論はイノベーションの議論としてしているが、実は経営の戦略そのものである。当然のことで、イノベーションは経営の一環として行うからだ。言い換えると、イノベーションは目的化されて語られているが、経営の手段に過ぎない。
よくイノベーションと改善はどこが違うかという議論がある。特に技術者は、技術のインパクトの大きさでイノベーションか改善とは区別されると思っている人が多いが、それは結果論であって本質ではない。改善は現場が現場のためにやって、結果として経営に寄与する。イノベーションは経営のために行う。
この違うは本質的な意味があって、改善は現場の責任で行うが、イノベーションは経営の責任で行う。だから、現場のマネジャーが失敗するからやめとけというのはある意味でナンセンスである。
◆捨てるミドルアップダウンを
上に述べたように成長期の企業には極論すれば戦略は要らない。実際に戦略らしきものはなくても日本企業が成長してきたし、その勢いを駆って海外にも進出してきた。ところが成熟期になると、このやり方は通用しない。グローバル化によって成長期を維持しようとするが、本質的に別の話である。グローバル化するには、これまでの国内ビジネスを整理する必要がある。でなくては、人、金、時間のいずれも足らない。
つまり、捨てることが不可欠であり、何を捨てて、何を生み出すかというのは戦略そのものなのだ。言い換えると、いま、イノベーションができないのは、成長戦略がない、もっと正確にいえば捨てる戦略がないからに他ならない。
ところが厄介なことに、捨てる判断は現場のリーダーにはしにくい。顧客やベンダーに近いところにいるからだ。通常はミドルアップダウンだといっているのが、捨てる話になると急にトップダウンだと言い出す。イノベーティブリーダーはこれを止める必要がある。自らが捨てる戦略を描き、「捨てる」ミドルアップダウンを実現していかなくてはならない。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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