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第11回 思いがけない落とし穴3 相手が敵に見えたとき(2009.01.30)

インフルエンス・テクノロジーLLC  高嶋 成豪


 前回、相手が敵に見えると、影響力が低下する話しをしました。
 敵が態度を変えるはずがないから、何もしなくなってしまう。結果的に何も変わらない、という悪循環です。
 そこで、まずは相手が敵に見えるのも無理はないと考えて、敵を前に萎縮している自分を受け入れます。それから、相手もこちらを怖がっているのではないか、と考えてみましょう。すると「なあんだ、相手もそうか」と落ち着けるものです。といったことが、前回の主旨でした。
 次にどうするか。それは、あらためて目標をチェックすることです。そのお話しの前に、次の「良くはまる落とし穴」、「本来の目標を見失う」をご紹介します。

<コスト削減プロジェクトのリーダーA氏の独白>
「このプロジェクトのリーダーになって3ヶ月か。いよいよ先行きが怪しくなってきたな。メンバーは、開発、生産、営業、サービス、管理から参加しているんだけれども、ここのところ、欠席者が目立つ。どうせこんなことだろうと思っていたよ。みんなそれぞれ自分の部門が大事なんだ。だから総論賛成、各論反対。いざ自分の部門に不利な話しになると、空転するんだ。のらり、くらりと時間稼ぎする。きっと部長から言われている。「うちはこれまでもコスト削減に努力してきたんだから、今度は営業が費用を削減する番だ。一歩も譲るな」なんてね。コスト削減にもっとも積極的に取り組んできたのは、われわれ調達部に決まっているじゃないか。われわれのおかげで、どれだけ会社に利益がもたらされたか、開発も営業も知らないんだ。今度のプロジェクトでは、調達部が主導権をとっている。これは譲れない。私のキャリアもかかっているんだ。このプロジェクトに成功すれば、課長の椅子も見えてくる。給料も少しは上がるだろう。カミさんだって喜ぶよ。何より同僚たちの見る目が変わるよな。同期ではまだ課長はいない。みんなを見返すチャンスなんだ!なのに、プロジェクトの連中といったら、みんな自分のことしか考えていない。なんとかオレの言うことを聞かせてやろう・・・」

 このようなケースは、極端な話しのように見えますが、実話をもとにしています。
実際、私たちは難局に直面して、こんなハチャメチャな自己対話を繰り返すことが少なくありません。この事例の問題は、A氏の頭の中がごちゃごちゃになっていて、A氏の目標が、プロジェクトメンバーをやる気にすることなのか、調達部が主導権をとることなのか、はたまたカミさんを喜ばせることなのか、何をしたいのか、何が優先か分からなくなっていることです。

 私たちの心の中には、天秤があり、どちらの目標が重いかを測っています。うえの独白を見る限り、「メンバーを自分に従わせること」の方が「メンバーの協力をえること」より重いように見えます。そして、そのような心の声は、表情や言葉の端々に見え隠れするものです。一方的で自分の話を聴こうとしない相手には、しばしば協力したくなくなるでしょう?A氏のそんな心模様が、メンバーには見透かされていたのかもしれません。それでは影響力低下を避けられませんね。

 さて、ではどうしたものか。2ステップで対応しましょう。まず、本来の優先すべき目標は何か、明確にしましょう。実験部隊から設計に必要なデータをもらうことなのか、営業部長から、部下に営業教育を受けさせる約束を取り付けることなのか、社長印をもらうことなのか。今、相手からほしいものはなんでしょうか。本来の目標が達成できれば、少々嫌みを言われてもがまんできるものです。まず、目標が明確であることは欠かせません。

 次いで、わき起こる自分の個人的な目標、欲求を直視しましょう。相手に勝ちたがっているのか、良い仕事をしたとほめられたいのか、目立ちたいのか、尊敬を得たいのか、自社が優位に立ちたいのか、早く済ませてしまいたいのか、ラクしたいのか、などなど。これらは、誰でももちうる個人的な目標です。問題は、個人的な目標が肥大してきて、気がつくと本来の目標を上まわってしまうことです。だからこそ、個人的な目標や欲求から目をそらさないことが役立つのです。お寺や教会に行くと、お祈りの前に、懺悔しますよね。あれは良いシステムだと思います。そのおかげで自分の欲求に振り回されそうになったことを思い出せます。なにも懺悔しなくても、プレッシャーがかかったときこそ、個人的な目標をチェックするといいです。すると落ち着いて対応できるというものです。

 さて、影響力についてのこれまでのお話し、いかがだったでしょうか。少しでもみなさんのお仕事に役立てていただけたら幸いです。ひとまず連載は今回で終わりになります。そして来月から新しいシリーズでお届けする予定です。

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 ・(演習5)期待と要求のロールプレイ
6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

高嶋 成豪    インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー

人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師

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