これまでの4回の連載で、様々な切り口でITプロジェクトでのメンバーの多様性を見てきた。外国人対日本人メンバーの切り口も取り上げたが、主に日本人同士でも存在する多様性とそのギャップを埋める異文化対応についての私見を述べてきた。 多様性の観点から異文化の壁を少しでも取り除くのに必要なコミュニケーション上での留意点を具体的に提示してきた。現在のプロジェクト・マネジャーは、様々な個性の色を持ったメンバーを適材適所で配置し、プロジェクトという一枚の絵をそれぞれの色を大事にしながら描かなければいけないというのが筆者の結論であった。
女性と男性の職場での共存の課題については、ITの職場がお互いの個性を尊重できる余裕と仕事への誇りを持ったプロの集団になることが、ギャップを埋める最初の一歩であると考えた。そこに行き着くには、革新的な意識改革が必要であり、まだまだ長い道のりと挑戦が待ち受けているが、既に多くの企業がITの職場の改善を目標に、プロジェクトマネジメントの企業レベルでの向上に積極的に取り組んでいたり、プロジェクト・マネジャーの処遇や育成に注力している。改革に向けての動きは確実に始まっていると考えられる。
おじさんと若者の世代のギャップは、おじさんが若者にとって邪魔物ではなく、彼らをサポートしていく良きメンターやコーチになることを提案した。そのためには、若者の話を”聴くこと“が重要であり、お説教や説得ではなかなか人の意識構造を変えることは出来ないと説いた。おじさんはまず、自分の経験や価値観を一旦降ろして若者の言葉に耳を傾れる、そうすることで始めて、彼らが必要としているものは何か、おじさんがサポートできるのはどこなのかが、見えてくるのである。
外国人メンバーとのコミュニケーションには、プレゼンテーション・スキルが必要であると述べた。言語の障害や日本語の曖昧さからの誤解を軽減して、効率的なコミュニケーションを図るには、話の目的、構成、論理性を明確に組み立て、例や、図を入れてわかり易く説明をする、そして、聴き手の反応を確認することまでしなければいけないと説いた。通訳者を混乱させる話の運び方は関係者全ての時間の無駄だとも言い切った。
この連載の最後に、IT職場でのもう一つの多様性である雇用の形態について触れてみたい。 具体的には、派遣社員、(人材紹介会社からの派遣技術者や、提携ベンダーからの派遣社員)と正社員との関係である。 ますます大型化し、複雑化する現在のITプロジェクトでは、自社の技術だけでは賄えないスキルや、ベンダーとの関係が発生し、派遣社員はITのプロジェクトにとって重要な即戦力になっている。
プロジェクトのキー・メンバーとしての彼らとのコミュニケーションの取り方は、他のプロジェクト・メンバーと基本的に変わらないはずである。仕事の役割、期待される成果、期限、目標などが明確に定義された雇用契約などが用意されることは必須であるが、それとて他のメンバーと同じであるはずである。 それでは、派遣の社員との日々のコミュニケーションで求められるキーワードはなんだろうか? 筆者は、派遣社員が気持ち良く働ける仕掛けをプロジェクト・マネジャー自らが提供することにあると考える。 方法の一つとして、彼らの貢献に感謝し、褒めることで彼らのモチベーションを高めるのである。正社員にも勿論、褒めることは必要であるが、鞭のアプローチも考慮しなければならない場合もある。派遣社員は一般的に弱い立場にある。そして、ベンダーからの派遣の場合、派遣されてきた親会社と雇われている会社の間で葛藤を抱えていることもある。彼らはプロジェクト内での居心地の悪さ、ある種の疎外感を強いられているかもしれない。派遣社員は、スキルで貢献できて当たり前と見られ、社員からの期待も高く、結果を出さないと餌食にされたりもする。派遣の立場で自由にものを言ったりすることができず、自分の仕事と正社員の仕事の線引きもままならなかったりする。
プロジェクト・マネジャーだけが、そんな彼らを守れるのである。プロジェクト・マネジャーは派遣社員を育成する義務はない。だからこそ彼らがスキルでプロジェクトに十分貢献できる環境を提供する必要があり、しいてはそれが派遣社員の生産性の向上にもつながり、双方のWin/Winの関係を生む。派遣社員はまた、ベンダーでもある親会社との窓口的存在である。彼らとフェアーにビジネス上の付き合いをすることは、長期的にみてプロジェクト・マネジャーやその企業の価値を高めることにもなるのである。プロジェクト・マネジャーが派遣社員にできる配慮は他にもある。例えば、複数の派遣社員がグループで派遣されている場合、問題が起きた場合はグループのリーダを通じて意思相通を行う、更に大きな問題が起きれば、個人を糾弾するのではなく、親会社を通して改善要求をするなどである。つまりは派遣社員の立場を配慮するきめ細かな対応である。
以上、ITプロジェクトの多様性について様々な切り口から考察を重ねてきたが、この課題は今後ますますその複雑さを増すだろうと筆者は容易に想像できる。いつかまた新しい観点でプロジェクト・メンバー間のギャップを埋めるコミュニケーション・テクニックを共有できればと願っている。これまでの4回の連載で、様々な切り口でITプロジェクトでのメンバーの多様性を見てきた。外国人対日本人メンバーの切り口も取り上げたが、主に日本人同士でも存在する多様性とそのギャップを埋める異文化対応についての私見を述べてきた。 多様性の観点から異文化の壁を少しでも取り除くのに必要なコミュニケーション上での留意点を具体的に提示してきた。現在のプロジェクト・マネジャーは、様々な個性の色を持ったメンバーを適材適所で配置し、プロジェクトという一枚の絵をそれぞれの色を大事にしながら描かなければいけないというのが筆者の結論であった。
女性と男性の職場での共存の課題については、ITの職場がお互いの個性を尊重できる余裕と仕事への誇りを持ったプロの集団になることが、ギャップを埋める最初の一歩であると考えた。そこに行き着くには、革新的な意識改革が必要であり、まだまだ長い道のりと挑戦が待ち受けているが、既に多くの企業がITの職場の改善を目標に、プロジェクトマネジメントの企業レベルでの向上に積極的に取り組んでいたり、プロジェクト・マネジャーの処遇や育成に注力している。改革に向けての動きは確実に始まっていると考えられる。
おじさんと若者の世代のギャップは、おじさんが若者にとって邪魔物ではなく、彼らをサポートしていく良きメンターやコーチになることを提案した。そのためには、若者の話を”聴くこと“が重要であり、お説教や説得ではなかなか人の意識構造を変えることは出来ないと説いた。おじさんはまず、自分の経験や価値観を一旦降ろして若者の言葉に耳を傾れる、そうすることで始めて、彼らが必要としているものは何か、おじさんがサポートできるのはどこなのかが、見えてくるのである。
外国人メンバーとのコミュニケーションには、プレゼンテーション・スキルが必要であると述べた。言語の障害や日本語の曖昧さからの誤解を軽減して、効率的なコミュニケーションを図るには、話の目的、構成、論理性を明確に組み立て、例や、図を入れてわかり易く説明をする、そして、聴き手の反応を確認することまでしなければいけないと説いた。通訳者を混乱させる話の運び方は関係者全ての時間の無駄だとも言い切った。
この連載の最後に、IT職場でのもう一つの多様性である雇用の形態について触れてみたい。 具体的には、派遣社員、(人材紹介会社からの派遣技術者や、提携ベンダーからの派遣社員)と正社員との関係である。 ますます大型化し、複雑化する現在のITプロジェクトでは、自社の技術だけでは賄えないスキルや、ベンダーとの関係が発生し、派遣社員はITのプロジェクトにとって重要な即戦力になっている。
プロジェクトのキー・メンバーとしての彼らとのコミュニケーションの取り方は、他のプロジェクト・メンバーと基本的に変わらないはずである。仕事の役割、期待される成果、期限、目標などが明確に定義された雇用契約などが用意されることは必須であるが、それとて他のメンバーと同じであるはずである。 それでは、派遣の社員との日々のコミュニケーションで求められるキーワードはなんだろうか? 筆者は、派遣社員が気持ち良く働ける仕掛けをプロジェクト・マネジャー自らが提供することにあると考える。 方法の一つとして、彼らの貢献に感謝し、褒めることで彼らのモチベーションを高めるのである。正社員にも勿論、褒めることは必要であるが、鞭のアプローチも考慮しなければならない場合もある。派遣社員は一般的に弱い立場にある。そして、ベンダーからの派遣の場合、派遣されてきた親会社と雇われている会社の間で葛藤を抱えていることもある。彼らはプロジェクト内での居心地の悪さ、ある種の疎外感を強いられているかもしれない。派遣社員は、スキルで貢献できて当たり前と見られ、社員からの期待も高く、結果を出さないと餌食にされたりもする。派遣の立場で自由にものを言ったりすることができず、自分の仕事と正社員の仕事の線引きもままならなかったりする。
プロジェクト・マネジャーだけが、そんな彼らを守れるのである。プロジェクト・マネジャーは派遣社員を育成する義務はない。だからこそ彼らがスキルでプロジェクトに十分貢献できる環境を提供する必要があり、しいてはそれが派遣社員の生産性の向上にもつながり、双方のWin/Winの関係を生む。派遣社員はまた、ベンダーでもある親会社との窓口的存在である。彼らとフェアーにビジネス上の付き合いをすることは、長期的にみてプロジェクト・マネジャーやその企業の価値を高めることにもなるのである。プロジェクト・マネジャーが派遣社員にできる配慮は他にもある。例えば、複数の派遣社員がグループで派遣されている場合、問題が起きた場合はグループのリーダを通じて意思相通を行う、更に大きな問題が起きれば、個人を糾弾するのではなく、親会社を通して改善要求をするなどである。つまりは派遣社員の立場を配慮するきめ細かな対応である。
以上、ITプロジェクトの多様性について様々な切り口から考察を重ねてきたが、この課題は今後ますますその複雑さを増すだろうと筆者は容易に想像できる。いつかまた新しい観点でプロジェクト・メンバー間のギャップを埋めるコミュニケーション・テクニックを共有できればと願っている。
永谷 裕子
MBA, PMP, JUAS認定システムコンサルタント
米国オハイオ州マローン・カレッジ卒業(心理学)。米国オハイオ州立大学でMBA取得。同州の保険会社でプログラマーとしてスタートする。その後、ユーザー企業(主に多国籍企業)、情報処理サービス会社においてSE、ITプロジェクトマネジャーとして多数の情報システム開発プロジェクトに参画する。特に国際的なITプロジェクトに豊富な経験をもつ。2011年まで、PMI日本支部の事務局長としてプロジェクトマネジメントの啓蒙・推進・指導などの活動にあたっている。 著書”ボーダレス時代を生き残れる人、生き残れない人” 訳書(共訳)に”プロジェクトマネジメント・オフィス・ツールキット“(Jolyon Hallows)がある。
本連載は終了していますが、PM養成マガジン購読にて、最新の関連記事を読むことができます。