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目の前にいる5人への指示は具体的できるが、全社の5千人にはできない。職位が上がるほど、概念的にも具体的にも考えられるコンセプチュアルスキルるが必要。

第1話:コンセプチュアルスキルはプロジェクトマネジメントにどう役立つか(2014.05.23)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆1955年に提唱されたコンセプチュアルスキル

この数年、コンセプチュアルスキル(日本語では概念化スキル)の活動をしてきたが、プロジェクトマネジャーのコンセプチュアルスキルということで少し、整理して情報発信をしてみようと思った。月に1~2回というペースで書いていきたい。

コンセプチュアルスキルとは何かというのは一言では言い難いものがあるので、おいおい、いろいろな形でイメージをお伝えしていくことにし、ここでは60年前(1955年)にコンセプチュアルスキルという考え方を提唱したロバーツ・カッツの定義を示すだけにしておく。カッツの定義は

コンセプチュアルスキルとは周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極め、行動するスキル

というものである。

この定義はある程度コンセプチュアルな人であればイメージ的に捉えてあればすっと入ってくると思うが、言葉の定義こだわりだすと、行動的とは何か、概念的とは何か、本質とは何かというあたりで引っかかり、かなり難しい定義である。


◆コンセプチュアルスキルの位置づけ

コンセプチュアルスキルというのは上に述べたように、カッツにより60年前に示された概念であるが、元々はテクニカルスキル、ヒューマンスキルと並んでマネジャーに必要なスキルとして提唱されたものだ。

そして、マネジャーは監督職、管理職、経営職と職位が上がってくるにしたがって、重要なスキルがテクニカルスキルからコンセプチュアルスキルに変わってくることを指摘された。

この考え方は浸透しているように思う。たとえば、何か指示をすることを考えてみてほしい。目の前にいる5人に指示をするのと、全社の5千人に指示をするのでは話は全然違う。5人であれば極めて具体的に指示をすることができる。

しかし5千人に指示をする場合具体的にはできない。なので、戦略とか方針とかいう抽象的な形で指示をし、それを組織の中で階層的に具体化していくわけだ。したがって、企業を成長させていくにはコンセプチュアルスキルというのは極めて重要なスキルなのだ。


◆コンセプチュアルスキルの要素

そのような指示をするために必要なスキルがコンセプチュアルスキルであるが、では具体的にどのようなスキル(要素)が必要かというのがいまいちはっきりしない。

ロバーツ・カッツも洞察力とか、いくつか例を挙げているが、体系化をしていない。コンセプチュアルスキルは人事担当者にとっては永遠の課題だといわれるくらい古くから重要性が認識されているが、にも関わらず、その強化はほどんと取り組まれていないのが実情である。これも実態がはっきりしないことが一因だろう。

カッツの指摘から、コンセプチュアルスキル(日本語では概念化スキル)の中で、中核になるのは抽象化スキルであることは間違いない。

ところがエンジニアの世界では抽象的であることはよくないことだとされている。抽象的なことばかり考えていると、具体的に考えろと言われる。


◆コンセプチュアルスキルは抽象化するスキルではない

実はここにコンセプチュアルスキルに対する誤解がある。エンジニアの世界、つまり、現場は行動してナンボの世界である。行動しようと思えば、十分に具体化されていなくてはならない。

以前、戦略ノートにリスクの識別が抽象的すぎるという記事を書いたことがあるが、この記事はまさにこのことを言っている。

【戦略ノート305】リスクマネジメントは具体的か(2013年7月25日)

行動するには具体性が必要だというのは当然のことだ。抽象的なことばかり考えていても行動はできない。

しかし、行動には具体的な思考が必要であるということと、抽象的な思考がNGであることは別の問題だ。いくら抽象的に考えようと、最終的に具体化されていれば行動はできる。

◆具体的だと分かりやすい

このことを理解していないわけはないと思うが、具体的な思考を求める。なぜか。それは

具体的だと分かりやすい

からだ。

この問題は任せられないという問題と密接な関係がある。メンバーや部下に任せることができないので、自分がなんとかすべてを理解しようとする(部下も理解してくれることを求める)。すると抽象的な思考をされると分かりにくいので困るのだ。

ここで分かりやすいことは決していい意味ではない。悪くいえば、

表面的で考えが浅い

ということに他ならない。


◆コンセプチュアルスキルとは概念と形象を行き来するスキル

話を元の誤解の話に戻す。

コンセプチュアルスキルというのは抽象化し、抽象的に考える考えるだけでなく、

抽象化し、具体的なことを(例として)引き当てながら抽象的に考え、最終的な結論を具体化すること

である。コンセプチュアルスキルが低いというとき抽象化ができないというイメージを持っている人が多いが、抽象化はそんなに難しいものではない。難しいのは具体化の方で、その理由は、「想像力」が必要だからだ。

このようにコンセプチュアルスキルというのは抽象化ということでいえば、抽象と具象を自由に行き来することである。そして、我々はカッツのいうコンセプチュアルスキルの要素として、

・客観と主観
・論理と直感
・明確と曖昧
・分析と大局
・長期と短期

も考え、抽象と具象と同じような意味で、この軸を自由に行き来することによってコンセプチュアルスキルが高まると考えている。我々は{抽象、主観、直観、大局、長期}を概念の世界、{具体、客観、論理、分析、短期}を形象の世界と呼び、概念の世界と形象の世界を自由に高速に行き来するスキルをコンセプチュアルスキルと呼んでいる。


◆コンセプチュアルスキルはプロジェクトマネジメントにどのように役立つか

この話題は第2回で改めて議論しようと思っているが、頭出しのみしておく。

まず、プロジェクトマネジメントスキルは概念的なものである。PMBOK(R)を使いこなそうとすればコンセプチュアルスキルが不可欠だ。PMBOK(R)ガイドは抽象度の高い記述をしているので、使おうとすれば書かれていることを具体化できなくてはならない。

組織的な取り組みによりプロセスがだいぶ整備されてきたが、この問題は依然として残っている。人によって活用レベルが大きく異なるのは、経験よりもコンセプチュアルスキルの違いによるところが大きい。つまり、行動できるプロジェクトマネジャーになるには、コンセプチュアルスキルが不可欠である。

2つ目はリスクマネジメントや予測の観点であり、プロジェクトの中で起こることを予測するにはコンセプチュアルスキルが不可欠である。

3つ目は計画の観点。上でも少し触れたが実行できる計画を作るにはコンセプチュアルスキルが欠かせない。

4つ目は経験を活かすこと。プロジェクトマネジメントにしろ、設計にしろ、経験を活かすためにはコンセプチュアルスキルが欠かせない。さらに、他のプロジェクトの経験を使ったり、他のプロジェクトに経験を伝えるためにもコンセプチュアルスキルが欠かせない。

5つ目はトラブル対応や解決やリカバリー。コンセプチュアルスキルがあれば、創造性に富んだアイデアが生まれる。

6つ目はプロジェクトコミュニケーションの向上。コンセプチュアルスキルによってコミュニケーションが適切にできる。

最後が成果の観点。コンセプチュアルスキルが高いことによって、プロジェクトの成果を大きくすることができる。

次回は、これらをもう少し具体的に説明したい。


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   3.コンセプトを実現する目的と目標の決定
   4.本質的な目標を優先する計画
   5.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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