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本質を理解していないから、ものごとの優先順位が決められない

第18話:仕事の本質を見極め、仕事の生産性を上げる(2015.10.16)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ものごとの優先順位が決められない

日本企業は生産性が低いとよく言われます。なぜでしょうか?

たとえば、意思決定の方法を見ているとよく分かりますが、日本人は細部にこだわります。ものごとを決めるときにも細部まで検討して決めていきます。なぜ、そのようなことになるのかと考えてみると、2つの問題があると思われます。

一つは、ものごとの優先順位が決められないという問題です。コンセプチュアル思考でいえば、物事の本質を考えて進めていくことができないというケースです。

この問題を象徴する考え方に、製品仕様や仕事について、「どうせ、最後にはすべてやらなくてはならないんだから」という言い分があります。著者はコンサルタントとして仕事をし始めたころ、最初にこのような意見を聞いたときの違和感を今でも覚えています。この背景には、何事にも十分の時間と金を使うことができるという暗黙の前提があります。もちろん、今は何かをするために十分な時間を金を使うことはできませんので、あり得ないのですが、未だにこの考え方はなくなっていません。


◆「神は細部に宿る」という価値観

もう一つ、実はもっと厄介な問題があります。それは日本人独特の本質観です。ミース・ファン・デル・ローエという建築家が言ったとされる「神は細部に宿る」という言葉があります。

建築では大局的な形以上に、細部のおさまりが美しくないと全体も値打ちがという哲学がありますのでよく分かるのですが、日本人は建築だけではなくモノづくりやサービスなどあらゆる分野で細部にこだわる傾向があります。

細部ことが本質を決めるという風に考えるているわけです。この問題の背景には何があるかというと専門家の尊重文化です。もう少し正確にいえば、専門家を専門家としてうまく使う文化です。

国立競技場の新設問題や、東京オリンピックのエンブレム問題が迷走しましたが、両者に通じるのは事務局的な組織は細部は専門家に任せているからわからないというスタンスをとったことです。もちろん、その裏には自分たちには責任はないという主張がありますが、問題が起こったことで顕在化し、現実に無責任体制だと批判を浴びました。これから分かるように、専門家を中心にしたボトムアップで全体をデザインしますので、当然ですが細部へのこだわりが出てきて、ある意味で本質が細部によって決まってしまうのです。


◆生産性を上げる難しさ

いずれにしてもこれらの問題を解決しないと生産性が高くなることはありません。

前者の問題はそんなに複雑な問題ではありません。例えば仕事であれば、仕事の本質を決め、本質へ貢献する仕事を優先する。そして、本質への貢献がないところは切り捨てるだけの話です。たとえば、製品であれば本質であるコンセプトの実現に必要な部分を優先的に取り入れ、それ以外は捨てるだけの話です。

ところがこのようなやり方が絵に描いたモチになることがしばしばあります。その理由が後者の問題です。本質が細部にあると考えていることです。その場合に有効な考え方が、一旦、本質だと考えられている細部を抽象化し、抽象化したレベルで本質を見つけることです。

たとえば、自動車レースの例でいえば、カーブを早く走れるということは、カーブで減速を小さくすることで無駄をなくすことになります。また、ピットの時間を減らすことも無駄な時間を無くすことです。

そのように考えると、本質は「無駄をなくすこと」であり、その具体化がカーブを速く走ることであり、ピットのスピードを向上することだと考えることができます。逆にレーサーの腕はこの本質からは出てこないことです。このように考えていくと、細部に本質があるという中から、本当の本質が何かを見抜き、本質だけ行うことによって生産性を上げることが可能になります。


◆人の問題をどう考えるか

仕事の本質を考えるときには、さらに厄介な問題として、人が絡んでくることです。つまり、本質はない仕事をやっている人はどうなるのかという問題です。

話は変わりますが、最近はどこの組織も人員削減がされ、人が少なくなり、本当に仕事が回るのかと思ったら何とかなったという話をよく聞きます。これは理由は明確で、人員削減されたことで本質的な仕事しか「できなくなった」ことです。結果としてそれまで5人でやっていた仕事が4人でできるようになったとすれば20%生産性が上がったことになります。

もうお分かりだと思いますが、本質的な仕事に絞り込むとはしなくても目標や目的の達成に影響のない仕事はしないということです。言い換えると、仕事を絞り込んで同等な成果を得るということです。

製品の機能を本質的な機能に絞り込むとは、顧客価値に影響のない機能を捨てるということです。この場合、もう一つ厄介な問題は誰の顧客価値かという話で、1人でも必要とする人がいれば顧客価値だといった考え方はせず、どれだけの人が必要としているかで顧客価値に優先順位をつけるということです。

こういったことができて初めて、生産性があがります。同時に、これは労働の価値や顧客の価値を高めることに他ならないというとをよく理解しておく必要があります。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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