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第34話:制約条件とエンパワーメント(2011/10/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆前提条件と制約条件

プロジェクト憲章でプロジェクトに伝えるものの一つにプロジェクトの実施条件があります。実施条件には、前提条件と制約条件があります。

プロジェクト憲章を上位組織(プロジェクトスポンサー)がプロジェクトを定義し、プロジェクトマネジャーを任命するドキュメントだと考えると、前提条件というのは組織としてプロジェクトに約束することになります。委譲する権限、マネジメントサ
ポートなどが主な内容になります。

では、制約条件とはなんでしょうか?額面通りに解釈すれば、プロジェクトを行うにあたって、プロジェクトを制約したいことです。予算、納期、リソースに関する制限などが制約条件として与えられます。そして、プロジェクトは制約条件を満たしながら組織との間で合意した成果物(プロダクトスコープ)を実現していきます。


◆制約条件は目標か、上限か

プロジェクト憲章の議論をするときに、制約条件は「目標」か「上限」かという議論になることがあります。つまり、予算1千万円以内という制約条件があったときに、プロジェクトは1千万円使うことが目標と考えるのか、それとも1千万円以内に収めればよいと考えるのかが議論になるのです。

これはなかなか、興味深い議論です。たとえば、非破壊検査しかできない構造物の建設を例にとって考えてみましょう。基本的に構造物の安全(品質)を完璧に保証する手段はありません。このときに、コストは重要な意味を持ちます。コストが低いということは、安い材料を使ったり、手抜き工事をしたりしているかもしれない。つまりは、どれだけのコストをかけるべきかを決めて、それで品質を保証します。逆にいえば、コストを基準通りにかけているので、安全だといえるわけです。

同じような考え方をしているのは、ソフトウェアです。ソフトウェアも基本的には内部が見えません。非破壊検査のように、いろいろなテスト手法が考えられていますが、基本的には間接的な手法です。そこで、テスト計画を合意し、品質をコントロールしていきます。ただし、この議論も所詮は総当たりのテストを行うわけではありませんので、結局、最後は開発のトータルコストを考えざるを得ないことになります。

つまり、コストが低いということはエンジニアのレベルが低いということで、品質が低い可能性が大きいことになります。ソフトウェアの議論が、構造物の議論と多少事情が違うのは、個人の生産性のばらつきの問題です。工程によっては、生産性に属人性が大きいため、コストが低いので品質が低いとは一概にいえない場合があります。

同じような議論は、スケジュールについても成り立ちます。


◆制約条件と自律的管理

このように制約は目標だと考えることもできますが、一方で上限だと考える人も少なくありません。つまり、制約条件となっているコストや納期を超えてはならないと考えます。

PMBOK(R)のプロジェクト品質マネジメントの方針として

・プロセスの改善
・顧客満足の実現
・データに基づく客観的管理

の3つと並んで、自律的管理という方針があります。つまり、PMBOK(R)のプロジェクトマネジメントは

顧客(社外・社内)の要求を実現できるように、自律的に目標を設定し、設定した目標を達成するために、データに基づくプロセス改善を行う

という考え方になっています。

これからも分かるように、制約条件を上限だと考える場合には、制約条件の範囲内で、プロジェクトとしての目標を設定することになります。重要なことは自律的であることです。実際には、プロジェクトマネジメント計画書でコストや時間の目標値が決定されるわけですが、それは尊重されなくてはなりません。

ここで、計画書をレビューする上司とこんな会話になることがあります。

上司「このコストではできないだろう」
PM「○○にアプローチを変えればできます」
上司「そうかもしれないが、実績がないし、リスクが高すぎるので、従来のアプローチで行こう」

これだと従来のやり方で、定常業務として行えば済みます。上司の対応は紙一重で、指摘そのものは適切です。しかし、この問題に対しては決定する権限はプロジェクトマネジャーの任命の際に委譲しているはずです。


◆ゴールとリスク

この議論のもう一つの視点は、上位組織からの視点で、予算とコスト、納期とスケジュールの違いです。組織のマネジメントやプロジェクトの性質によっても違いますが、一般的にはコストやスケジュールを制約条件にすることはありません。

たとえば、予算とコストの間には、

コスト+リスク予備費=予算

という方程式があります。スケジュールも同じです。つまり、コストやスケジュールを決めるというのは、制約条件を満足するプロジェクトの遂行アプローチを決めるということです。上の会話でアプローチと書いたのはそういう意味です。

このようにみると、少し違った図式が見えてきます。同じ制約条件において、目標(コストやスケジュール)を少し背伸びして設定するということは確かにリスクを取ることなのですが、リスク予備費を多めに確保することにもなります。

つまり、リスクを取るにせよ、取らないにせよ、この枠組みは合理性があります。言い換えると、プロジェクトマネジメントでは目標をどのくらいのレベルにするかはプロジェクトが自律的に決めることができるような枠組みが準備されているわけです。


◆制約条件をうまく使うにはエンパワーメントが必要

プロジェクトスポンサーはこの点をきちんと認識してエンパワーメントする必要があります。エンパワーメントとは

 権限委譲+支援

ですが、支援を抜きにして権限委譲をしているケースが多くあります。つまり、単なる権限委譲です。

制約条件を上限だと考える場合には、エンパワーメントを前提にして、コスト削減、スケジュールの前倒しなど、目標設定の相談しながら決定することが不可欠だといってよいでしょう。

これが正しい組織的プロジェクトマネジメントです。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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