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第31話:完璧主義と最善主義(2011/01/11)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆完璧主義と最善主義

昨年、ハーバード大学で至上最大の受講者があったというタル・ベン・シャハー教授のポジティブ心理学の講義を書籍化した本が出ました。その中に、「完璧主義」を手放すというセッションがあります。

タル・ベン・シャハー(成瀬 まゆみ訳)「ハーバードの人生を変える授業」
大和書房(2010)
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興味深い指摘なので、少し詳しく紹介したいと思います。

完璧主義というのはよく使われる言葉なのでご存じだと思いますが、「最善主義」というのは「現実の制約の中で最善を尽くそうという考え方」のことです。通信の用語で、ベストエフォートという言葉がありますが、あれですね。


◆現実を拒絶する完璧主義、現実を受け入れる最善主義

シャハー教授は完璧主義と最善主義の決定的な違いは、前者が現実を拒絶する考え方であるのに対して、後者は現実を受け入れる考え方であることだと言います。つまり、完璧主義者はどんなことでもゴールまでの道のりにはまっすぐで何の障害もないものだと「思い込んで」います。これに対して、最善主義者は、失敗は人生の自然な一部分であり、成功につながる欠かせない要素だと理解しているというのがシャハー教授の指摘です。

さて、ここまで読んで頂いたところで、質問です。プロジェクトリーダーとしてのあなたは完璧主義者ですか、それとも最善主義者ですか?

多くの人は、自分を最善主義者だと思っていると思います。つまり、リスク(障害)があるのは分かっている。その中で最善を尽くすのだと。確かにその意味では多くの人は最善主義者だと思います。

ここで問題は失敗に対する考え方です。実はこの部分で半々くらいに分かれるのではないかと密かに思っています。最善主義者は「失敗は成功のための欠かせない要素」だと考えます。

プロジェクトマネジメントが最善主義になっている部分もあります。品質です。品質マネジメントでは、失敗を積み重ねることがより成功を強固なものにすると考えます。こんな書き方をするとわかりにくいでしょうか。バグを出せれば出すほど品質がよくなると考えていますね。


◆多くのプロジェクトは完璧主義

ところが一般的には、失敗は失敗以外の何物でもないと考えます。スケジュール、コストのいずれをとっても、失敗は許されないと考えます。例えば、マイルストーンのスケジュールが遅れたとします。多くの人は、あってはならないことだと考えて、比較的表面的な問題分析を行い、対策を打ちます。これは完璧主義者の考え方です。
最善主義者はそうは考えません。この失敗は最終的にスケジュールを間に合わせるために必要なものだと考えます。そして、その失敗から得られた知見を元に、その先のスケジュールを見直し、最終的に間に合うように再計画するでしょう。

このような視点でみると、リスクマネジメントも少し意味合いが変わってきます。リスクマネジメントというのは障害を認めているのではなく、障害を無くす、あるいは、リスクとして識別したことにより障害はないものとみなすために行っているようにも見えます。


◆なぜ、最善主義なのか

さて、そこで問題は、完璧主義なら何が悪いか、最善主義なら何がよいかです。

もう少しシャハー教授の理論の紹介を続けましょう。

完璧主義者は現実を否定します。その代わりに、空想の世界で置き換えます。失敗はなく、痛みもない世界が空想の世界です。上に述べましたように、プロジェクトスポンサーやプロジェクトリーダーの中には、リスクを識別することによって「リスクが起こっても大丈夫だ」という空想の世界を作っている人がいます。

しかし、現実にはそんなことはあり得ません。リスクが起こって失敗する可能性は常にありますので、失敗を否定していると常に不安に苛まれることになります。不快な感情を否定することはその感情を増幅することになり、もっとつらさを感じることになります。

それに対して、最善主義者は現実を受け入れることによって、失敗を楽しむまではできないにしても、自然なこととしての受け入れ、心配をあまりせずに活動を楽しむことができます。生きている限りつらい感情はあっても当然だと思っているので、抑え込んでネガティブな感情を増幅することはありません。つらい感情を味わい、そこから学び、そして動き出します。


◆最善主義でプロジェクトは変わる

プロジェクトリーダーが完璧主義を手放し、最善主義を取ることによって、2つのことが期待できます。

一つは、チームのパフォーマンスが向上することです。プロジェクトリーダーが完璧主義だとチームも完璧主義にならざるを得ません。これによって失敗を恐れ、パフォーマンスの低下を起こします。最善主義を取ることによってパフォーマンスの向上が期待できるわけです。また、パフォーマンス向上のためのアイデアも活発に出てくるようになるでしょう。

もう一つは実際に問題が起きたときに、タフな対応ができるようになります。数年前から、(組織的な)プロジェクトマネジメントの仕組みの導入により、プロジェクトの失敗は激減したが、まだ、完璧ではない。数少ない失敗が、大きな損失をもたらしていることもあり、何とかしなくてはならないという話をよく聞きます。


◆免疫力を高めよう

何とかするというときに、既存の予防の仕組みを強化することが合理的だとは思えません。むしろ、起こってしまった問題への対処能力を上げるべきです。つまり、リスクというか、トラブルにタフな組織を作ることです。

そのためには、問題に対する免疫力を高めることが重要です。言い換えると、リスクが起こっても、ダメージに結びつかないような人間系の対応ができるようになることです。

実は、この議論は第3話でした議論ですが、第3話では仕組みや風土的な視点から解決策をお話しました。

【PMスタイル考】第3話:変容を求められるリスクマネジメント

これに加えて、個人の側面からは、最善主義になることが必要なのではないでしょうか。

◆関連するセミナーを開催します

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  2.スマート・リスクマネジメントとは
  3.組織とプロジェクトのリスクマネジメント
  4.組織のリスクを減らすための活動の視点
  5.スマートリスクマネジメントの実践方法
  6.リスクに対する免疫性を高める
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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