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第86話:パラダイムを意識する(2014/06/05)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆変化の常態化

「変革」、「変化」という言葉が氾濫しています。オバマ氏が大統領になったころ、チェンジというと新鮮さを感じたものですが、今は、あまり新鮮に感じなくなってきました。変化が常態になってきたのとともに、何でも変革が必要だと言っていれば済むような雰囲気もあります。

よく考えてみると、変化が常態化するというのはすごい話です。これまでのやり方のほとんどが通用しなくなります。

たとえば、仕事の仕方を考えてみてください。これまではどのような仕事かを考えて、その仕事をする人を決めて、チームを作って仕事をしてきました。

ビルを建てるといった仕事では計画を作って、チームで計画通りに進めていきます。不確実要因は天候とか経済情勢くらいですので、それらのリスクも計画し、計画に従って進めていけるわけです。

ITのように相手のある仕事となると、相手の(ビジネスの)都合がありますので、計画を作っても計画通りとはいきませんが、それでも計画を作って変更を管理しながら進めていきます。

これがイノベーションになるとどうでしょうか?計画すらできません。なぜか?どうすればよいかわからないからです。分からないことは学んでいくしかありません。そこで仮説検証と呼ばれるような活動をして、いろいろなことを学習しながら、仕事を進めていきます。


◆変化が常態化すると企画はできても、計画はできない

変化が常態化するというのは、企画はできても計画ができないということです(ここで企画は活動の目的を決めること、計画は活動の目標と実施方法を決めることの意味です)。変化が特異点だったときには計画で仕事を動かせても、変化が常態化すれば企画で仕事を動かすことを考える必要があります。

たとえば、チームについていえば計画で動かせるならメンバーを固定で考えることができるわけです。メンバーを固定しておいて、役割を決めないというアジャイルのようなチームの形態もありますが、本質的には変わりません。

これに対して、計画で動かないということは目的の実現に向けてメンバーを流動的に考えなくてはなりません。このような状況で、無理やり計画を作り、メンバーを固定化してもうまく行きません。

にも関わらず、現実にはそのようなやり方がされています。あるいはそのことに気がついているマネジャーは、計画できない業務は避けて通ろうとします。


◆パラダイムに注目する

さて、ではどうすればこのような失敗をしなくて済むのでしょうか?避けて通るのは簡単ですが、やらざるを得ないとなるとどういう場合であれば計画で動かし、どういう場合であれば目的で動かすかというのは現実にははっきりしないものです。

そこで、役立つのが「パラダイム」という考え方です。パラダイムという言葉はトーマス・クーンという科学者が科学の分野で用いた言葉ですが、ビジネスの分野ではパラダイム論のバイブルになっているジョエル・バーカーの

パラダイムの魔力

の中の定義

ルールと規範であり、境界を明確にし、成功するためには境界の中でどのように行動すればよいかを教えてくれるもの

がよく用いられています。


◆パラダイムが変わると何が起こるか(時計の例)

ビジネスの中でパラダイムが変わること(パラダイムシフト)は決定的な事態をもたらします。ジョエル・バーカーの本からパラダイムを考えることの意味がよく分かる例を一つ紹介しましょう。

時計産業のパラダイムシフトの例です。ぴんとくる人も多いと思いますが、機械式からクオーツへのパラダイムシフトです。

1960年代までスイスは圧倒的な時計王国でした。最高品質の自動巻きの腕時計において、イノベーションを繰り返し、成功を収めてきました。数字でいえば

販売個数ベースのシェア 65%
利益ベースのシェア 80〜90%(推理)

といったものですので、独占状況にあったわけです。

ところが、1970年に入り、時計作りのルールが変わり、機械時計から電子時計の時代になりました。スイスはルールが変わっていることに気が付かず、同じことを繰り返した結果、1981年までに時計作りに携わっていた6万2千人のうち5万人が職を失うという事態に陥ります。ちなみに1980年の数字見ると

販売個数ベースのシェア 10%以下
利益ベースのシェア 20%以下

という全盛期の面影もありません。


◆古いパラダイムへの固執が傷を大きくするが、、、

スイスが怠けていたわけではありません。むしろ、自分たちの製品が売れなくなる中で、一生懸命、イノベーションに取り組んでいました。ところがパラダイムが変わると、そのような努力は全く意味がありません。これがパラダイムの重要性であり、パラダイムシフトの怖さでもあります。

ちなみに、スイスに変わって台頭してきたのが日本で、1960年代にすでに品質ではスイスと肩を並べていたものの、世界でのシェアは1%以下でした。ところが80年代になると、33%以上のシェアを占めるに至りました。

上の計画の例に戻ります。これまでの仕事は計画的にやるものだと信じてきた人たちは、パラダイムが変わったときに、気づかず、計画の方法の問題だと考えてしまいます。そして計画の方法を改善し、より実行性の高い計画を作ろうとします。


◆パラダイムが変わったかどうかはその時にはわかりにくい

ここでポイントになるのは、パラダイムが変わったかどうかは後からみれば明確ですが、そのときにはわからないものです。

時計の例でいえば、クオーツを発見したのはスイスのヌシャルテ研究所でした。それをスイスのメーカーに持ち込みますが時計とはみなされず、1967年の世界時計会議に展示されたクオーツ時計に飛びついたのが日本のセイコーだったのです。スイスの時計産業の衰退はここから始まります。

ちなみに、パラダイムシフトに壊滅的な打撃を受けたスイスの時計産業が、パラダイムシフトに気がついた後の対応は見事です。機械式は装飾品として高級化し、一方でクオーツではスウォッチに代表される安くてファッショナブルな路線で、両方とも成功して、産業として復活を遂げています。


◆大きな失敗ではパラダイムシフトを疑う

もう一度、計画の例に戻りますが、仕事は計画をして行うというルールが変わったことに気づくには仕事の節目節目でパラダイムについて考えることです。たとえば、大失敗したプロジェクトの振返りの中で、計画の問題点だけではなく、計画を作ることについても検討すべきです。

そこで、変化の常態化というパラダイムが変わったと判断すれば、速やかにやり方を変えることです。たとえば、冒頭に述べたチームマネジメントを、固定的なチームから、流動的なチームに変えるといったことです。他にも多々あるでしょう。

常にパラダイムを意識し、節目になる仕事では、パラダイムを検討してみることによって、仕事の大失敗を防ぐことができるようになります。


ジョエル・バーカー(内田 和成序文、仁平 和夫訳)
【新装版】パラダイムの魔力〜成功を約束する創造的未来の発見法」、日経BP社(2014)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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